30話 冒険者活動開始
新暦1345年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア 冒険者ギルド
現在のトキの所持金はおよそ金貨14枚で、ギルドに10枚だけ預けていた。
一日の費用が銀貨2枚、消耗品や諸経費を考えると銀貨3枚はかかるだろう。
多めに見積もれば日に銀貨5枚稼ぎ続ければ十分すぎるが、休養することも考え、焦らないでいこうと心する。
が、Fランクであることを忘れていたトキ。
・薬草、解毒草、解熱草10束毎。銅貨5枚。
簡単だけど効率悪いか。周辺の地理とか分布を知らねーから今はパス。
・木材の運び出し。一日銀貨1枚。
北地区第3区画って魔法学園か。ジジイなら風使って簡単そうだけど今の俺には無理。自分にしか魔法かけらんねー。
・カットスの肉の卸。銅貨8枚。
前見たときもあったやつだな。肉屋がんばれ。俺はやらないが。
E,Fランクは王都内か近隣ばっかだな。
・ペットの猫探し。金貨1枚。
金貨1枚!?でも、この広い王都じゃ大変だな。Fランクにしてはおいしい報酬だけど。依頼主は…貴族か、なるほど。面倒事の匂いがするな。
・手紙の配達。月金貨10枚。
王国内各方面への手紙の配達。ノルマあり。追加報酬あり。高っ!しかも、これ空飛べる俺ならいい稼ぎになるんじゃね!?って、Cランク依頼かよ!!くそー!!
ついぞ見つけた好条件な依頼だったが、残念ながらトキには受注できなかった。
(いや、諦めんぞ。飛行魔法が使える俺以上の適役はいないってことを依頼主に見せて、ギルドを説得してもらう!なんなら最初は無償ででも運んでやるさ)
手の内を見せることになるが、目的のためならばしょうがないと目をつむる。
(まぁ見えたところで問題ないだろ、たぶん)
老師に散々言っていた、てめーのたぶん大丈夫は絶対大丈夫じゃない、を見事に継承しつつあるトキであった。
強硬手段も辞さない勢いで依頼主を見ると、第2区画の流通局とあった。
(だ、第2区画って俺入れねーじゃん)
忍び込むか、と物騒なことを考え出したときは、はっと気づいた。
(ネコ探しすれば入れるじゃん!)
そう、先ほど見た中にあった猫探し依頼の依頼主は第2区画に住む貴族だった。
パズルを組み合わせるように進む道が見えてきた。
さっそく、その依頼書を持って受付カウンターへと向かった。
(これが済むまで配達依頼がなくなりませんように)
受付は問題なく通り、受注の証明書をもらって第2区画に向かった。
遠くから少し見ていたが、第2区画の家はどれも庭つきの豪邸だった。
門番に証明書を見せたトキは、その者に証明書を提示すると屋敷内へ通された。
部屋で待っていると、若そうな女性とトキよりも2、3歳下くらいの女の子が入ってきた。
どちらもストレートの金髪で、女性の方は腰まで長く、女の子は肩辺りの長さだ。
お互い似たようなデザインのロングのスカートにフリルのついたシャツを着ていて、少しタレ目で柔らかい笑顔をした美人、美少女(たぶん母娘)である。
立ったトキに席を勧め、自己紹介をした。
女性の方がアーニャ=ハウゼン男爵夫人、女の子の方が(やはり)娘のフェレア=ハウゼン嬢というらしい。
依頼の経緯を聞いてみると、飼い猫が3日前から行方不明になり、探しても見つからなかったそうだ。
それで娘が落ち込んで、見るに耐えかねて依頼を出したという。
フェレアはずっと下を向いて黙っている。
「事情は理解しました。ひとつ、お願いがあるのですが、特徴をかいつまんでその猫の絵を書いていただけませんか?」
「え?ええ、それでしたら娘が描いたものがいくつかありますわ。フェレアの絵を持ってきてちょうだい」
使用人に命じて持ってきてもらったその絵には、手足と尻尾、顔が黒く体毛が白い猫が見事に描かれていた。
「これは、素晴らしいですね。まるで実物を見ているようです。私は芸術に詳しくありませんが、これをその道の方が描いたと言われたら信じてしまうでしょう」
「ふふふ。娘はその猫が大好きでして、昔からその猫だけを描いてましたの」
「これだけの物があれば捜索もはかどりそうです。すみませんが、その間この絵をお借りさせてください」
「結構ですよ。では搜索のほどよろしくお願いします。フェレア」
「……お願い、します」
「はい、お任せ下さい」
ピュウイ
男爵家を出たトキはすぐにギンを呼んだ。
「ギン、この猫を探してほしんだけど、頼めるか?」
キュエエ
「よし、じゃ~見つけたら合図をくれ」
王都は広い。
端から端まで探していたら100人いても1日では終わらないだろう。
その点ギンなら空から探せられる。
目はいいほうだと自負するトキだが、ギンのそれには到底及ばない。
数キロ先のものまで見通すギンの目からは逃れられないはずだ。
猫が屋内にいないことだけを祈ってギンの後を追った。
捜索開始から3時間くらいが経った頃、ギンから発見の合図がした。
上空から目標に向かって高度を下げている。
通行人にぶつからないように地表を走ってギンを目指す。
どうやら、目標は第3区画の西側、第2区画近くの裏通りにいるようだ。
裏通りに入ると奥からギンの威嚇声が聞こえた。
すると、こちらに目標の猫が走ってきた。
トキは魔法を発動し高速接近して猫を捕獲する。
ギンが追い立ててくれたらしい。
姿を見せたギンに今日はご褒美をあげると約束した。
3時間ほどで捕まえてきたトキに、男爵夫人とフェレアは驚きながらも愛猫との再会を喜んだ。
「ありがとうございます。娘も喜んでおりますわ。こんなに早く見つけてくださったのだから、報酬とは別になにか御礼を差し上げたいのですが」
「いえ、どうぞおかまいなく。連れもおりますので」
「あら、お連れさんがいらっしゃたのですね。では、その方も交えてご夕食でもご一緒しましょう」
このあとギルドに戻らず流通局に突撃しようと思っていたのだが、男爵夫人ははい決定、とばかりに使用人に食事の準備を申し付けた。
「その、連れというのは鳥でして、ご夕食の席をご一緒するのはどうかと……」
鳥獣を食卓には招きたくないでしょ、と暗に断るが――
「まぁ!それはぜひご覧になりたいわ!フェレアは鳥も好きなのですよ。ねえ、フェレア」
「はい、私もトキニアさんの鳥を見てみたいです」
はにかむように笑顔でいうフェレアにさん付けされて困惑するトキだったが、両者は引き下がらないようで、内心ため息をつきながらギンを呼ぶことにした。
トキが庭で口笛を吹くと、いつも通り降りてきてトキの肩に止まる。
そして、予想どおり母娘は揃って魅入っていた。
「私の相棒のホワイトロックで、名前をギンといいます」
キュエエエ
紹介すると、二人は物怖じせずにギンを愛でり始めた。
飼い猫の方は先ほどのこともあり、警戒しているようだ。
ギンが大人しくトキの言うことを聞くものだから、ギンも同席で夕食をご馳走になることになった。
それまでの時間はギンとの出会いを話したり、フェレアにギンの絵を描いてもらったりして過ごした。
そして、ハウゼン男爵が帰宅し、紹介された後も和やかに食事が進む。
男爵は母娘と同じく金髪で、短く刈り上げてオールバックにした若いイケメンだった。
(これは奥さんが美人なわけだわ)
男爵はカウフ=ハウゼンといい、妻と娘に良くしてくれたことに礼を述べた。
どうもこの男爵はファウスタイン侯爵と同じように貴族にしてはかなりフランクな方のようだ。
身分に拘るような家系でもないので、今後も気軽に付き合ってほしいと言われた。
食後の後のお茶を楽しんでいると、
「では、トキニア君は魔法学園に入るための資金稼ぎに冒険者をしているんだね?」
「はい。それで先日、私に適役な依頼を見つけたのですが、ランクが合わないのでどうしようかと思っていたところです」
「それは今日の件とは別の依頼ということかね?今回の件もギンを相棒とする君は十分適役だと思うんだが」
「はい。手紙の配達依頼です。依頼主は流通局だったのですが」
「おお、あの依頼か。私がちょうど流通局で働いていてね。部署は違うが、その件は知っているよ。確かCランクだったね。しかし、こう言ってはなんだが、君は駆け出しの新人と言えるランクだ。それでも君が適役と言える理由はなんだね?」
「実は……私の魔法は少々珍しいものでして。それによって普通より早い時間で配達することができるのです。具体的にいうと、以前はゴウホウ山地から王都まで5日で着くことができました」
「5日!?それは、本当かね?いや、君が嘘をつくような人物ではないと私は思っているんだがね。しかし、その距離だと徒歩で1ヶ月、馬を走らせても15日以上はかかるだろう、というのが一般認識だ。その魔法が何なのか聞かせてもらってもかまわないかな?」
「正直言いますと、今回の件も流通局へ直接赴き、自分の有用性を示すための方便でありました。私では第2区画に入れませんので。ですから、知られることは気にしていません。それで、私の魔法ですが、風属性を使った飛行魔法になります。魔力の消費も少なくなってきているので、ずっと空を飛んで直線に進むためその期間で到着します」
「…………」
男爵の顔には困惑、疑惑、驚異などといった感情が浮かんでいた。
夫人も同様で、フェレアはよくわかってないようだが、とりあえずすごいと尊敬の眼差しで見つめている。
「……失敬。いや、しかし……。本当に、空を飛ぶ?君が?」
「ええ、驚くのも無理はないでしょう。私もかつてそうでしたので。では、少し実践してみましょう」
トキは席を立ち、その場で魔法を発動して浮遊してみせた。
「そんな……いや、でも。……すごい、な。……私たちは歴史に残る幼き日の大魔法使い、その人と会っているのかもしれない。ああ、トキニア君。もう結構だよ。ありがとう」
「恐縮です。ですが、史上初の飛行魔法を可能としたのはおそらく私の師になります。私のこれは師の指導の賜物にすぎません」
「いや、それでもだよ。その歳でそれだけの魔法を発動できるのだから、誇りに思ってもいいだろう。君の師も同じことを思っていると思うよ」
「そうであれば、と思います。また、そうでありたいとも思います」
「そうか。……よし。例の依頼は私がその部署にかけよってみよう。必ずとは言えないが、君の有用性については十分に説得力があるし、それを示すための機会くらいは与えられずはずだ」
「あ、ありがとうございます!」
「なに、妻と娘が世話になったことだし、持ちつ持たれつだよ。それにあんなすごい魔法を見せてもらえたのだから、これはその返礼さ」
トキはそう言って笑う男爵を見ながらも、また人に助けてもらったことを実感していた。
自分の出会う人たちがとてもいい方たちばかりで、逆にその裏では何を考えているのか疑いたくなるほどだが、今は素直に感謝を捧げることにした。
予定とは違ったものの、結果としては上々なことに、意気揚々と初依頼での初報酬を後日受け取るのだった。




