26話 閑話 おくるモノ①
新暦1294年 ガレリア大陸 ナルビス王国北東 魔法学園都市クロウリア
ここ魔法学園都市クロウリアは、名前の由来でもあるクロウリア魔法学園を中心に商業、文化、経済が発展してきた街である。
『クロウリア魔法学園』
魔法学者クロウリア=アーガストが出資者を募り、当初は研究機関として発足された。
300年の歴史を誇る当学園には、国内だけに留まらずタルム女王国やカルティア王国からも入学してくる者がいる。
入学するには12歳以上で筆記および魔法試験を突破しなければならない。
定員1学年150人で3年制。
魔法学園は他にはアルゼン帝国とサルンガ共和国のみに存在する。
この都市は学園を北にして南からそこへ通じる一本の大通りを中心に発展していた。
その大通りでも最も人通りが多い位置にあるのが魔法ギルドである。
賑わう人の中、背の低いローブを着た若い男がギルドへと入ってきた。
「よぉ、リック。今日は一段と小さくなってんな。ま~た、研究という名の修行に明け暮れてんのか?」
中年のギルド職員がリックと呼ぶ男に軽い挨拶をした。
「ボットさん、会って早々人が気にしてることを言わないでくださいよ。そんなんだから未だ独身なんです」
「そういうお前も独身だろうが。で、研究の成果はどうなんだ?確か~背が高くなる魔法だっけ?」
「そんな魔法ができたなら僕はあなたを見下ろして話してますよ。飛行魔法ですよ、僕の研究内容は」
「あぁ、少し間違えたな。そうか、自分は背が低いから、いつか高いところから人を見下ろしたいという心奥底の想いを成就するための飛行魔法だったな」
「変な前置きは削除してください。不愉快です」
「すまんな、俺もお前と同じように心奥底の想いに従ってしまったんだよ。気にするな」
「謝ってませんからね、それ」
「悪い悪い。で、久しぶりに来たが、今日はどうしたんだ?」
「資金稼ぎに依頼を見にですよ。まだ余裕はありますが」
「さっきからのやり取りを鑑みるに、心には余裕がなさそうだな?」
「大きなお世話です。じゃ、ちょっと依頼見てきますんで」
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
最後のみギルド職員らしい言葉を吐くボットに、ため息をつきながらリックは掲示板へと向かった。
リック、本名はリッケンボルト=スティンガー。
そのいかつそうな名前とは逆に、本人は背が低くなよっとした優男である。
一見弱そうな男だが、4年前に魔法学園を主席で卒業した優秀な風魔法使いで、こうして依頼をこなしてギルドランクをあげつつ、自分の研究を進めている。
国から士官話を持ちかけられたりもしたが、自分のやりたいことすると決めていたため断り、魔法ギルド員となった。
『魔法ギルド』
魔法使いの研究、教育、派遣、依頼斡旋などを役割とする独立機関。
魔法学園などの教育機関の近隣に置かれている。
依頼や派遣の報酬の一部によって運営されており、冒険者ギルドなどと違い、運営費以外は研究と教育に注ぎ込まれている。
ランク付けは冒険者ギルドと同様である。
(う~ん、大体いつも通りのものをこなすかな)
派遣や教育依頼は期間が固定されているため、リックが受けるのは魔法使いが必要となる場所での採集や討伐依頼ばかりであった。
依頼を見ていると、周囲でどよめきがした。
それは以前着ていた魔法学園のローブを纏った少女がギルドへ入ってきたためだった。
薄い水色の長い髪をなびかせながらカウンターへ向かう彼女を見て、リックの鼓動は音が聞こえるほど早くなった。
ピンと伸ばされた背筋、ロープを着ていてもわかる線の細さ、肌の白さに映える桃色の薄い唇、ぱっちりとした淡い蒼の瞳の上では長い睫毛が揺れていた。
どよめくのが納得の美少女だ。
リックは口を開けたまま、首だけを動かして彼女を追っていた。
その少女はまっすぐ、正面カウンターへ向かう。
応対したのはさっきまで話していたボットだ。
いくらか話して何かを受け取った後、彼女はそのまま出て行ってしまった。
リックは直ちにボットに問い詰めた。
「ボボボボボボボーボボボボボボットトさん、彼女はどこのどなた様でございますですか!!??」
「私の名前はそのような名前ではございません」
「ボットさん!今の彼女は誰ですか!?」
「個人の情報には守秘義務が課せられていますのでお答えできません」
「お願いします。このとーーーりです」
「次の方~どうぞ~」
「そんな~ボットさ~ん。おねがいじまずよぉぉ」
「泣くな、きもい」
「だっでぇどうしても彼女とお近づきになりたいんですも~ん」
「もん、じゃねーし。本人に聞けばいいだろ」
「魔法一筋の寒い人生を送ってきた僕にはハードルが高すぎますょ」
「自分で言ってて悲しくねーか?ったく、はぁ……一度だけだからな。あとは自分でどうにかしろよ?」
リックも学生時代から一人でギルドに来ていたため6年の付き合いになる。
馴染みのために一肌脱いでやることにした。
リックはパァと笑顔になり、全力で縦に首を振る。
「彼女は魔法学園3年のカルエ=ストックフォード嬢。ナルビスのストックフォード伯爵家の次女。結構前から魔法ギルドに登録してる。誰かと一緒にいるのは見たことない。今日来たのはここから北東にある迷宮に明日潜るから、情報とりにきた。ソロで潜るらしい。以上」
リックは懐から出した紙に必死にメモをとっていた。
こいつに恋愛は無理だろうとボットは思った。
「で、どうしたらいいですかね?」
ふむふむと頷いて、さらに助言を求めてくるリックにイラっとして、警備員を呼んで叩き出した。
叩き出されたリックは誰かにアドバイスしてもらおうとしたのだが、そんな都合のよい知人は一人もいないことに気づいた。
(とりあえず明日は僕も迷宮に行こう。それで、頑張って「一緒に潜りませんか?」って言おう。「どこへ?」「ベットの中さ」とか言っちゃたり。デヘヘヘ。ま~できなかったら陰ながら見守って、危なくなったところへ「大丈夫かい、君」って助けて「きゃー素敵」とか抱きつかれたり。デヘヘへ)
その日、彼女ができたこともないリック19歳ヘタレの妄想は止まらなかった。
これはリッケンボルト=スティンガーの遅い初恋でもある。
恋は盲目。
明日、穴だらけのストーカー計画が始動する。




