25話 あんたにそれは似合わない
新暦1345年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルディア 冒険者ギルド
王都で一泊した翌日、ファウスタイン侯爵領方面で何か依頼があればと思い、冒険者ギルドへ再度やってきた。
(E,Fランクだとちょうどいいのはないか)
護衛依頼など道中済ませれそうなものもあったが、残念ながらCランク以上だった。
見たかんじE,Fランクだと近隣での植物採集や鉱石発掘、小型動物の素材収集が主であり、Dランクからは鳥獣の討伐収集や護衛依頼が増えてくるようだ。
ちなみに魔物の討伐や素材収集はCランク以上である。
討伐や護衛依頼だと依頼主に依頼完了の証明書をもらわなければならないが、収集系の依頼は後付けでもかまわないらしいので、どんな需要があるかだけチェックしておくことにした。
仮に依頼がなくても買取はしてもらえるようだ。
(解毒と解熱作用のある野草が常時依頼、依頼主は薬師ギルドか。おっカファの樹皮がある。依頼主は防具屋。採掘系の依頼は無理っぽいかな。あとは~専任依頼?決まった日にカットスの肉を卸し続ける者募集か、色んな形態があるんだな)
カットスは草原に穴を掘って巣を作る、耳のないウサギのような草食の小動物だ。
めぼしいものはわかったので、次に王都に来る時は道中集めることにする。
「ちょうどいい依頼はなかったわ」
「そうかい。では、出発するかの」
ギルドを出て南門へ進む。
ピュェエエエエ
すると、上空からギンの鳴き声が聞こえた。
空を見上げると、ギンがトキ目掛けて飛んでくる。
周囲の人たちも聞きなれぬ鳴き声を聞いてギンの姿を確認したが、翼開長5mにもなる巨鳥が滑空してきていることに悲鳴をあげた。
騒然とする場でトキはやや困り顔をしながらも、通りの真ん中で平然と立っていた。
周囲から危ない、逃げろと叫ばれるが、ぶつかると思われた瞬間、ギンはふわっと
風を扇ぐように一羽ばたきして、柔くトキの左肩に着地した。
ギンは寂しかった、と言うようにトキの髪を嘴でなぞる。
それに対しトキはごめん、ごめんと下げたギンの頭を撫でてやる。
その様子を見ていた人達はギンの美しさに目を奪われていた。
周囲の困惑がみてとれる状況だったので、トキはご迷惑をおかけしましたと一言言って、面倒事になる前にその場から早足で立ち去った。
離れたがらないギンと共に老師の後ろを歩く。
店の者や道行く人々は全員口を開けてギンを見えている。
絡まれたくないなぁとその視線を無視して突き進んだ。
南門につくと案の定、門兵に止められた。
ペットです、安全です、と言い張る。
しかし、王都に生きた鳥獣を連れて入る場合は金がかかると言われた。
ギンのためならばとその場では惜しみなく払ったが、今後も払い続けるのかは考えどころだ。
王都を出て南へ続く街道を進む。
南門を出た場合、ファウスタイン侯爵領へは南に進んでから西へ曲がることになる。
しかし、トキ達は空を飛び直線で南西に向かうつもりである。
辺りに人が見えなくなったら街道を外れて空の旅へ、という予定だった。
「なぁジジイ、やっぱギンって珍しいんだよな?狙われたりするのかね?」
「霊鳥じゃからのぉ。そうと知らずともその姿を見て譲ってくれと近寄ってきたり、悪しきものなら奪おうとするやもしれんな」
「面倒だな。まぁギンに許可なく近づいたらぶった斬るか」
「できるだけ穏便に済ませることをお勧めするがの。それに、権力や数で迫る輩もおるしの」
「そんなんが来たら、とっとと空飛んで逃げるわ」
「ふぉっふぉっふぉ。それがいいかものぅ。まぁ怪しいやつがいれば気をつけることじゃ」
「周囲には人影なし。あっ目の前に怪しいやつが!ギン、逃げるぞ!」
キュエエエ
「儂のどこが怪しいんというじゃ!?」
「別にジジイのこととは言ってねーだろ?被害妄想ひどいんじゃね~?」
地面を離れたトキは老師を鼻で笑いながら見下ろしてやった。
その時、おのれ~とカンカンになる老師の背後で何かが動いた。
「ジジイ後ろ!」
トキはしっかりとそれを確認する間もなく、反射的に危険を知らせた。
老師はその声に反応して、後ろを振り返ることもなく横に倒れこむように回避した。
しようとした。
しかし――
「ぐふっ……」
魔法の防御も間に合わず、老師の腹部を黒い物が貫いた。
トキは急降下して地面に着地し、倒れた老師といつの間にか現れた背後に立つ者を見やった。
細身で全身黒装束。
頭の先までボロい布切れを巻いたようなカッコだ。
細く切れた目だけが見えており、手には老師を貫いた1本の細い黒剣。
一瞥して武器を抜いたトキだが、攻撃に移れず冷や汗をかいていた。
(強い。勝てない。殺される。ジジイも。俺も。逃げる?逃げれる?ジジイは!?)
体格や立ち姿、雰囲気からその者と自分の力の差が大きいと思えた。
老師の体からは血が流れ続けており、虫の息のようだ。
「ようやく、これで……」
抑揚の少ない低い声を発しながら、男は剣を逆手にもって老師に止めの一撃を振りおろそうとした。
「ふっ!」
トキは相手の強さを無視して突っ込んだ。
「はぁっ!!」
加速して放たれたトキの突きは空を切った。
(消えた?魔法か!?)
ピュィエエエ
ギンの声を聞き、後ろを振り向く。
木の陰がわずかに揺らいでいて、そこから男が姿を見せた。
「ほう。鳥を使うか。貴様はあれの親族か?」
老師を指して問いた。
「……弟子だ」
トキは目を離さないよう短く答えた。
「弟子か。なるほど。では用はないな。ここまでとするか」
「待て、お前は何なんだ!?」
待ってもらいたくもないが、つい引き止めようとしてしまった。
そして、意外にも男は肩ごしにトキを見返し答えた。
「俺は……昔依頼されたことを終わらせただけだ」
気づきつつあったが、この言葉でトキは確信した。
この男が剣魔十傑、闇魔法の使い手ガルツ=ルーパー。
ガルツがそのまま森の奥へ消えていくのを見て、老師のもとへ駆け寄る。
老師は横に倒れたまま動かない。
「ジジイ!しっかりしろ!おい、ジジイ!」
老師は生きていた。
いや、まだ生きていた。
二人は回復魔法を得意としていない上、出血量からしてもう助かりそうにない。
「……トキニアよ」
息を吐くように薄い声でトキを呼ぶ。
その弱々しさにトキは涙ぐんでしまう。
「ジジイ、死ぬな。……死ぬなよ」
「トキニァ……お主に……これを譲る」
2本の老師の短剣。
自分が何度催促していても頑として譲らなかった愛着のあった武器を、今際の際になって。
なぜなら――
「こっちは……元々儂の。こっちは……妻の、じゃった」
それは愛した女性の物だったから。
でも、もう必要ない。
あとは――
「どうか……妻の隣、で」
眠らせて欲しい。
トキは耐えるように嗚咽を漏らしている。
「……師匠……なんで、なんで……」
「トキニア……恨むな……強くあれ。儂の、弟子……」
震えるように老師は笑った。
そして、それっきり何も言わなくなった。
「最後の最後になって……名前を呼ぶなんて……卑怯なんだよ、クソジジイ」
涙を拭うことはしない。
どうせ止まらないから。
老師なら殺しても死なないとか、死ぬときも冗談を言いながら死にそうだと思っていたのに、最後はあっけないものだった。
あの老師には似合わない最後。
納得がいかないと老師が抗議しそうで、泣きながら苦笑いした。
そして、静かに横たわる老師を見て――
「ホント似合わねーんだよ、クソジジイ」
と、死んでもなお文句を言ってやった。
一人で泣きながら笑っていると、気持ちにも少しだけ余裕ができてきた。
老師を抱え、トキは飛び立つ。
彼の妻が眠る場所へ埋葬するために。
それが師匠の最後の願いだったから。




