20話 迷宮の主、ジジイの実力
新暦1341年 ガレリア大陸 ゴウホウ霊山本山頂上 試練の門
「おい、クソジジイ。これなに?」
「こいつが迷宮の主じゃよ。言ったではないか」
「いや、それは分かるんだけどな。もうちょい事前に詳しくその姿なり、大きさなりを言ってもらいたかったんだわ。だってさ、さすがにこんなのとは想像できなかったよ?」
トキは老師が迷宮の主と言うものを見上げた。
「こんな、こんなグロテスクで、大きいなんて……」
高さ4m、幅5m、長さはよく見えないが最長で10mはありそうなそれは、黒く太い触手のようなものがうねうねと動き回っていて、生理的嫌悪感を掻き立てる。
「もう少し違う表現であれば、変態が幼女に言わせたいセリフベスト5かいの?」
「こんな時でも一切ブレねーな!?……いや、軽口でも叩きたくなるか、これを見れば」
「心の底からの本音じゃがの」
「お前をあいつの餌にしてやりてーわ!あ~猛烈にギンに会いたくなってきたわ~」
「倒さぬ限り出れんし、餌は十分に置いてきたから2,3日は大丈夫じゃろ」
「……おい。参考までに聞いとくが、てめーはあれを何分で倒した?」
「え~とじゃの、60×24×3で4320分ほどじゃな」
「おいいいいい!3日かよ!?ギンが可哀想だろが!?」
「あの頃より体力は減っておるが、お主もおるし2日もあれば大丈夫じゃ、たぶん」
「出た。出ましたよ、たぶん大丈夫。何度も言ってるがてめぇの大丈夫は大丈夫じゃねーんだよ!」
「ほれ、グチグチ言っとる間に向こうからきそうじゃ。開くぞぃ」
何がと聞く前に、トキは理解した。
正面のおぞましい触手が上下に別れ、おびただしい数の刺のような白い歯と真紅の口が開かれた。
「吸われるぞぃ!気を付けよ!」
体を引っ張られるような感覚がした後、ドッと疲労に襲われる。
(これが、魔力吸収の感覚か。きっつー)
「ぼーっとするでない!口が閉じたら触手がくるぞぃ!それが、やつの基本パターンじゃ!」
触手が1本伸びてくるが、その後ろからも何本あるのかわからないほど、うねうねしながら大量に向かってくる。
「斬って斬って斬りまくるのじゃー!」
どこぞの選ばれた組の人の如く、老師が叫んで斬りまくっている。
そんな気配がするが、トキにはそれをよそ見する余裕はない。
数が多くて、斬るのではなく、言われたように避けながら斬りつけたりなぞったりする程度で精一杯だ。
(思いっきり1人対複数の図式じゃねーか!あのクソジジイ!)
老師の言葉はやはり信じれないと思うトキであった。
勢いが収まった老師はトキのフォローへ回る。
「ある程度斬ったら、やつは再生に回るからの。その時が攻撃のときじゃ」
「は?触手斬っても意味ねーのかよ!?」
「触手は無限に再生するからの。その速度を上回って本体に攻撃を与えていくんじゃ」
げんなりするトキ。
だが、やるしかないのも事実。
このとき既に、トキの頭の中から魔力吸収の感覚を覚えるという目的は抜け落ちていた。
(斬って再生中の触手は動かないんだな)
老師を見ると、高齢とは思えない速度で回転するように2本の短剣で斬りまくっていた。
(うわ、ジジイ魔法以外もすげーじゃん。それに初めてジジイが武器持つとこ見たけど、あの短剣かっこいいな)
老師の短剣はお揃いの大振りなナイフのようで、黒光りする刀身に白い波紋が浮いており、背には鋸刃が長くつき、柄にはナックルガードが備えられていた。
(あれ、ほしいな。ジジイのキャラに合ってないだろうし)
自分には分不相応であることは考えず、早くもトキはさぼっていた。
再び口が開かれ始め、二人は距離をとった。
(これの繰り返しか。ゴールが見えないパターンが多いぞ、最近)
魔力を吸われては斬ってを繰り返し、ようやく倒すことができたのは2日近く経ってからのことだった。