16話 ジジイはお外で駆けずり回りトキはテントで丸くなる
新暦1341年 ガレリア大陸 カルティア王国北東部 ゴウホウ霊山本山麓
「あぁ……サクおばあちゃんの温もりを感じるなぁ」
サクおばあちゃんからもらった魔道具で灯した火の揺らめきに、一言漏らしながらトキはまたもや後悔していた。
トキは老師と共に、家があった場所から山々を踏破し、ゴウホウ霊山の麓まで来ていた。
しかし、本山が見え始めた頃から天候が悪化し、猛吹雪に見舞われた現在、簡易テントでビバーグの真っ最中であった。
「サクおばあちゃんの言う通りだったよ。変な人にはついて行っちゃいけません、ってよく言ってくれたよねぇ。それが、こんな……」
「ふぉっふぉっふぉー!雪じゃー!お嬢ちゃんやー!今日はいい雪合戦日和じゃのう!」
「こんな猛吹雪の中、ハイテンションで走り回るジジイについていった俺が悪かったよぉ」
テントの外からは猛吹雪にも負けない老師のバカ笑いが聞こえてくる。
非常識を我が道とする老師に、トキはもうついていけなかった。
「明日になったら、どうかあのジジイが冷たくなっていまブフォ!」
外から飛来した雪玉がトキの横顔に直撃した。
「ナーイショッ☆クリーンヒットしたようじゃのぅ!ふぉっふぉっふぉ。ネコのように丸くなりおって。子供なら元気に走り回らんかい!」
「黙れ駄犬が!ここにジジイの氷像をおっ立ててやんよ!」
新暦1341年、四面異国の地。
荒れ狂う白の世界に、今二人の漢が立ち上がった。
一人はトキニア=ゼペルルクス。
家族を亡くし、天涯孤独の身。
両親からは賢いと褒められていたが、今の行動は頭悪いと言われても仕方ない少し気の毒な男の娘6歳。
片や、自称不思議風使いリッケンボルト=スティンガー。
住所ゴウホウ霊山山中(人頭税未納)、無職、永遠の16歳。
座右の銘は『一意専心』。
常に自分が面白そうということに脇目も向かずに突っ走る、ジジイ型害獣。
「いくぞぃ!」「かかってこいやぁ!」
決戦の幕が切って落とされた。
先制はリッケンボルト。
投擲された雪玉を風魔法で加速させる。
横に身をかがめ躱し、サイドスローから2発連続で投げ返すトキニア。
2発目の雪玉の方が速くなるように加速させ、リッケンボルトの目前でぶつけ散弾のようにお見舞いする。
こしゃくなとばかりに、リッケンボルトが玉と化していない雪の塊を風で操り発射。
トキニアはこれを風の刃で切り裂き、大玉の雪玉を全力でぶつけにいく。
結局――
一進一退の攻防が続き、視界が悪すぎるためにドローに終わった。
無駄に体力を使い、汗をかいてしまった二人は仲良くテントに避難し暖をとることに。
「小童ながらなかなかやるではないか」
「お、おう。……てめーもアイスマンたる俺に張り合うとはやるじゃねーか」
「ふぉっふぉ。まぁここは痛みわけじゃの」
「まぁ、そうだな」
「……ここはお互いの健闘をたたえ、二人で力を合わせてこの窮地を乗り越えようではないか」
「ああ、そうだな」
「ところで、お主の魔道具暖かそうじゃな。ちと貸してくれんか?」
「これはサクおばあちゃんにもらった大事なものだからダメだ」
「なんじゃいケチじゃのぅ!力を合わせようと言ったところではないか!」
「てめー、さては最初っからそれが目的で擦り寄ってきやがったな!?」
「んんんんなわけあるはずなかろう。わわ儂はちーと温まりたいな~と思っただけじゃ」
「どもり過ぎなんだよ。ったく、したたかなジジイだぜ」
「ふぉ!?そういうお主は外面限定で仮面かぶった八方幼女ではないか!」
「カッチーン!誰が幼女だこら!誰かさんが歩く非常識だから俺がフォローしてやってんだろが!」
「儂が非常識なら、お主は恥知らずじゃ!厚顔無恥とはお主のためにある言葉じゃろうよ!」
「なんだとー!」「なんじゃー!」
「「ぐぬぬぬぬ!」」
二人の言葉の応酬は収拾がつかないまま夜は更けていった。
言い争っていた二人だが、寒さに耐え切れず寄り添っていたとかいないとか。
短くなったり、長い話になったりすみません。
行き当たりばったりな本作ですが、訂正・意見あればお願いします。