15話 修行は様々
新暦1341年 ガレリア大陸 カルティア王国東北部 ゴウホウ霊山山中
朝の食卓で、ドンと机を叩きながらトキは不満をぶつけた。
「今日という今日はもう我慢ならん!いい加減にしろ!」
「ふぉっふぉっふぉ。さて、今日は何してあそ、修行しようかのぉ」
「遊ぶって今言ったよな!?俺そろそろマジで魔法教えてもらいたいんだけど!?」
「ふぉ?何を言うておるか、これまでの修行は全て魔法へ通じておる!偉大なる大魔道士である師匠を信じぬか!」
「ほほ~そうかそうか。じゃ~今までしてきたことの全てに一つずつ納得のいく理由を言ってもらおうか。まず――」
月日が経つのは早いもので、いつの間にか目の前の巫山戯た老師に弟子入りして1年近くが経とうとしていた。
思い返せばよくトキも老師も生きているものだ。(後者は殺そうとしても回避されたためだが)
老師の提案する修行?は無茶苦茶かつ、アホなものばかりだった。
唐突に――
「儂魚が食べたい。弟子よ、お主とってこい。でなきゃ破門にするぞぃ」
と命令され近くの川まで往復10日かけて獲りに行き、持って帰ると――
「儂が食べたいのは淡水魚ではなく、海水魚じゃ、このたわけっ!」
と、怒られる始末。
海水魚を求め、東のナルビス王国まで往復4ヶ月かけ海水魚の干物(鮮度の問題で)を買い付けに行き、戻ると――
「お主いなくなったから、弟子辞めたんじゃと思っとったが……何しとったんじゃ?」
と、おつかいとトキの存在を忘れられていたり。
「師は弟子を蠱毒の谷に落とすというじゃろ?儂一度はあれしたかったんじゃよ~」
と言って、「それ間違ってる」という叫びも虚しく、毒虫だらけの谷に放り出され死にかけたり。(毒消しがなければ確実にアウト)
街に買い出しに行ったとき――
「ふぉおおお!辛抱たまらん!そこの美人のおね~さ~ん♪」
と突撃し、警備隊に捕まった挙句、付き添いにいたトキが孫として引取りにいくハメになったり。
夕食のときに――
「今日は儂が手料理を振舞う」
と言って謎の物体Xを作り、体を拘束しトキに無理やり毒見させたり。
街の飯屋でバカ食いして――
「儂ちょっとトイレ」
と言って、トイレの窓からトキを置いて逃げ去ったり。
「伝説の盗賊王ガリウスが書き示した宝の地図を手に入れたぞぃ」
と言って、北部のゴウホウ霊山山中にある洞窟を探索することになり、人骨や獣骨の魔物スケルトンの集団に追い掛け回されたり。
しかも、苦労に見合うだけのお宝はこれっぽちもなく、収穫といえばスケルトンが投げてきた白い石が一つのみ。(ジジイに投げられたのに風の壁で跳弾してトキに当たった)
他にも、巨鳥の卵を取ってこさせられたり、盗賊に捉えられた美女を探したり、カファの木を100本切ってこされられたり、幻の魚を釣りに行ったり、変態貴族に売り飛ばされたり、魔法の修行とは思えないことしかしていない。
この1年で、肝心の『疾風の鎧』をはじめとする風魔法については全く成果は見られなかった。
成果といえば、人や魔物などから逃げ隠れするための闇魔法を使った隠蔽術『闇の法衣』や逃げ足と体力、そして事あるごとに往復することになったロープを使った崖下りとロッククライミングくらいだ。
もちろん、これらは老師の指導の賜物ではない。
「おい、黙ってないで答えろよ、クソジジイ」
「…………ふぉっふぉっふぉ。全てはブラフ。嘘偽りじゃ。どうでもいいことをしていたようで、実は……」
「実は……?」
「……実は……」
「(ゴク)……実は?」
「……じ、実は……そ、そう!崖登りの術と体力を身につけるためだったのじゃー!」
「な、なんだってーー!?とでも言うと思ったか、クソジジイ!思いっきり今思いつきましたって反応だったじゃねーか!」
「ふぉ!?偉大なる大魔「その件は聞き飽きた。で、1万と2千歩ほど譲ってそういう理由に納得したとしよう。その次、どういう目的で身につけさせたんだ?簡潔かつ早急に述べよ」
「師匠の扱いに関して異議を申し立てる!」
「却下。つまらん時間稼ぎをして、適当な考えを思いつこうとするな」
「の、のう、儂らにはちと落ち着いてゆっくり話し合うための時間が必要じゃと思うんじゃが」
「倦怠期を迎えた夫婦かよ。……ハァ。残念だ。実に残念だ。あんたには時間よりも棺桶が必要なようだな」
ゆら~と席を立ち、居間の角に老師を追い詰める。
静かな殺気がほとばしり、老師を見つめるトキの瞳には悲哀と覚悟が織り交ざっていた。
「ち、違うんじゃ。儂の綿密かつ壮大な計画に基づいた修行は全て意味があって、全ては~全ては~」
「……死ぬ前に額に大きなケツ穴を増設したいようだな」
「ふぉ!?そ、それだけで死んじゃうじゃろ!?す、す、すすすすべては……山!山へ、ゴウホウ霊山に登るためじゃ!……(チラ」
「そのどうでしょう、っててめーの態度が気に食わん。少々締まりが悪いケツ穴でも文句は言うなよ?」
「嫌じゃー嫌じゃー違うんじゃー!儂の見たとこ、お主は魔力を体全体に行き渡らせることはできておる。後は全体から放出する感覚を覚えるだけじゃ。そのためにゴウホウ霊山を登るんじゃ!」
「ゴウホウ霊山に何がある?」
「ひ・み・つ」
「し・ねっ!!」
「冗談じゃー!しかし、かの地で修行をすれば、お主の魔法が上達することは間違いない。それだけは言えるぞぃ。儂もかつては登って修行したのじゃ」
「事実が異なった場合、てめーの額から出たクソを餌にして魔物釣りをするからな」
老師は勢いよく何度も首を縦に振っていた。
『ゴウホウ霊山』
1000mを超える山々が連なり、隣接する4カ国の国境線にもなっている。
本山の標高は3000mを越え、常に雪に覆われており、その付近でのみ生息する鳥や獣は霊獣として扱われ、その素材は希少価値が高い。
修験場としても知られるが、環境や切り立った崖、魔物などにより到達することが自体が困難とされている。
(ここにいても進展ないし、いってみるか)
トキの修行は新たなるステージに移行しようとしていた。




