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銀翼の飛翔  作者: fey5
第3章 修行と後悔
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12話 運命的な?出会い

新暦1340年 ガレリア大陸 カルティア王国東北部 ゴウホウ霊山山中




「何が待ち受けようとも、後悔はしない。キリッ)なーんてどの口が言ったのかねぇ。はっはっはっ」



トキは現在、何故かゴウホウ霊山に連なる山々の一角、そのとある山中の崖でヤモリのようにへばりついて乾いた笑いをあげていた。



「そろそろこの態勢もきつくなってきたな。つっても、雲だか霧だかのせいで上も下も見えねーし」



ある目的のために霧で覆われた頂上を目指し、崖を登り始めるハメになったのだが、今思うとなんであんなテンションになっていたのか不思議でならない。


登り始めた当初とは違い、徐々に体を重くする霧と下から吹きあげる風によって体力が奪われていっていた。



「あぁホント後悔は先に立たんな。あのクソジジイとその挑発に乗ってしまったあの時の自分を殺してやりたい!」



下から崖を見ると頂上が見えなかったので即刻無理と思ったのに、なんでこんなことをしてるのか。


最早諦めて下に降りることもできそうにない高さまで来てしまった。


ちょっと試しに登ってみたら、前世と合わせても経験のないロッククライミングに予想外な才能が少しあったがための現在の状況。



「やばいよぉ、これ死ぬよぉ。母さん、先に謝っとく。ここで死んでも怒らないでね。あぁ、楽しかったなぁあの頃は。あぁリア~かわいいよ、リア~」



走馬灯のように家族の思い出を振り返るトキ。




そもそもの事の発端は1月ほど前まで遡る。


聞くも涙、語るも涙、話せば長く、苦しく辛いお話になる、かも。







トキはファウスタイン領から一路北へ向かい王都を目指していた。


所持金額は金貨2枚、銀貨31枚、銅貨がじゃらじゃら。


いくつかの袋に分けて持っている。


全部で銀貨53枚分くらいに相当するだろう。


食費だけならこのお金だけで2ヶ月はもつと思われる。


ちなみに、この世界ではひと月が30日、1年で360日となる。


村でもそうだったが、日の出と日の入りに鐘をつき、それを基準におよその等分で日中に3度鐘を鳴らして時刻を知らせる。



さて、金はそこそこあるが、宿代も考えると稼ぐ手段を探さなければならない。


できそうなのは獣を狩って売るか、薬草を採取して売るかくらいだ。


魔法を使えばそこそこいけそうだが、まだ魔物は怖い。


身元も保証できない6歳では雇ってもらうこともできないだろう。


そうなると15歳から払う人頭税の関係からも、何らかのギルドへ登録する必要がある。


関係ありそうなのは冒険者ギルド、商業ギルド、魔法ギルドくらいか。


他にも農業ギルド、漁業ギルド、職人ギルド、傭兵ギルド、そして裏ギルドなどがある。


機会があればいずれまた詳しく語るだろう。



行商人に金や採取した薬草を食料と交換しながら、王都まであと5日程といった道中。



『街道端に黒い物体を確認した』



もちろん全ツでスルー。


一時も止まらず、見向きもせずに通り過ぎた。



(例え、5,6歳くらいと思われる血が変色して黒くなったボロボロの服を着た傷ついた子供だとしても、スルー。正義感溢れる騎士様が来るまで倒れていなさい)



スタスタ。



(ふん、俺の前で変な旗を立てるんじゃない!)



森を右手に街道はまっすぐ続いていた。


10分ほど歩いていると、



『街道端に先ほどと同じような黒い物体を確認した』



街道を見渡すと、前からも後ろからも人は来ていない。


若干イラっとしながらもスルー。



スタスタ。



そして、また10分後。



『街道端に先ほどとまったく同じような黒い物体、ってか倒れたジジイを確認した』



イラついたので無警告で蹴飛ばした。



「しつけぇ!!」



ぐふぉっと言いながらジジイは思った以上に飛んだ。


わざとリアクションを大きくしたようでさらにイラつく。



「これに懲りたらよーく反省しろ。人様の前であからさまなフラグを立てるな!わかったか!?」



言いたいことだけ言って、トキは立ち去る。



ヒュゥゥゥオゥ



そのとき、一陣の風が吹いた。


リボンで結んでいたトキの銀髪が解ける。


反射的に両手で髪を抑え、後ろを振り返った。


そこにはボロボロの黒いローブを羽織り、トキのリボンをつまみ上げるほぼ禿げた白髪頭の老人がいた。


「まったく、か弱い老人になんたる無茶をしよるか。あんな儂を見たら捨てられた子犬を可愛がるがごとく、飯と水と有り金と服をスッポンポンと差し出すもんじゃ。とんだ嬢ちゃんじゃわい。それ以前に儂でなかったら死んでたかもしれんぞぃ。あぁ~やっぱりダメじゃ~儂死ぬぅ~死んじゃう~。ホレ施しはココじゃ、ココ!」



下手な演技で一人芝居しながら、ローブのポケットを広げてみせる。



イラッ


「……あぁ、ごめんなさい、おじいさん。私ったらなんてことを。どうかこれでお許しください」



申し訳なさそうに収納ポケットから金袋を差し出そうとした。



「本当にごめんなさい。あなた様のような(こんなに殺したくなる)人は初めてだ、よっ!!」



近づきざまに老人の顎目掛けて躊躇なく拳を振り抜く。


しかし、老人を殴ることはできず空振りに終わる。


周囲を確認すると背後に回り込まれていた。


すっ、と腰を落とし短剣に手をやる。



(このじじい、何者だ?動きが全然見えなかった)



トキの背に冷や汗が流れる。



「ふぉっふぉっふぉっ。幼いお嬢ちゃんには見えなんだかの?まぁよい勉強になったじゃろう。これからは道端で倒れている老人を見かけたら、優しく介抱してあげることじゃ。というわけで、こいつは授業料として頂いとくからの」



老人の手にはさっきまでトキの手にあったはずの金袋、そしてそれを結んだリボンがあった。


腹の立つ笑い声をあげながら森へと走り去ろうとする老人。



「くっ、待て!じじい!」


「待て~と言われて待つやついるなら、わーし、見てみたいのぉ」


「こ、殺す!ぜってーてめーは殺す!」



くたばりそうな様子もないその身軽さは老人とは到底思えない。


全身を覆うボロボロのローブのせいで足で走っているのではなく、ひどく滑らかで飛んでいるかのように獣道を進んでいく。



(金はどうでもいい。けど、あのリボンは母さんがくれたものなんだ!あれだけは絶対に取り返す!取り返したら殺す!取り返せなかっても殺す!)


懸命に追いかけるトキ。


しかし、老人とトキの鬼ごっこは長期戦の体を催してきた。


というのも、老人の速さと体力は凄まじく、トキから見えない距離まで離れると、



「あぁ落ち着くのぉ~」



と、お茶を飲んでいたり、



ドシン


「ま~さか、こんな落とし穴に引っかかる人なんておらんじゃろう……って、いたー!すごいの~珍種発見じゃ~。ニマニマ」



と、わざわざ落とし穴を作っていたり、



「フン!フン!フン!フン!」



と、上半身裸になり細いリボンで寒風摩擦をしていたり、



「ワンワワンワンワンワン、クーン」



と、尻尾に見立ててリボンを尻に挟んで犬の真似をしていたり。


トキの気を逆立てることをあの手この手で仕掛けて遊んでいたからである。



老人の顔にはこう書かれている。


『新しいオモチャ見つけました』


トキと老人の追いかけっこは日を跨ぎ、カルティア王国の北東部に至るまで連日続けられた。



「のう、お嬢ちゃんや。しつこいのは嫌われるって知っとるかいの?」


「ハァハァハァ……そっくりそのまま返すぜ、クソジジイ」


「そうかいそうかい。じゃあの~高齢なおじいさんにハァハァ言いながら差し迫る幼女ってどこの業界に需要あるんか、知っとるかいの?」


「まず、俺は男ってことを言っとくぞ。さらに返すと、幼気な子供にハァハァ言わせてる老人がいたら即刻捕まると思うが?」


「う~ん、そんな老人見かけんのぉ~どこにおるんじゃ?その不届きものは」


「俺の目の前に該当者が一名いる、ぜっ!」



殴りにかかるが、するりと躱される。



「わ~し、まだピッチピチの16歳じゃし~」


「高齢なおじいさんって自分で言ってただろうが!」


「わ~し、実は物忘れの激しい永遠の16歳なんでの~」


「永遠に眠っとけ!このくそじじいがぁ!」



散々追い掛け回しても老人の体にかすりもしない。


体力が尽きて倒れこむと、その背中に座られて「ちょっと、休憩」とされる始末。


唯一夜の睡眠中はちょっかいをかけてこないが、トキの精神的なストレスは限界突破していた。


そして、ゴウホウ霊山の麓まで来た頃、二人の追いかけっこに乱入者が現れた。



ガルララララララァ



魔物。


長い上下4本の牙を持つ、赤と黒の縦縞の剛毛を纏うトラのような魔獣。


このときのトキにその魔獣の知識はなかったが、体長5mはあるその体格と威圧感に圧倒されていた。



「おい、クソジジイ。これ、どうすんだよ」


「ふぉっふぉっふぉ。ここは任せろ?お嬢ちゃんかっこいいの~」


「てめーの耳がいかれてるってことはよーく皆さんご承知だからな?ったく、くだらねーこと言ってんじゃんねーよ」


「ふむ、まぁまずはお嬢ちゃんのお手並み拝見といこうかの」


「はぁ!?無理だろ、おい!俺6歳だぞ!?」


「はぁ!?無理じゃろ、おい!儂16歳じゃぞ!?」


「~~~~~!もういい!やるしかねーのか……」


「お嬢ちゃん、ふぁいと~」



雑音は消して、気持ちを落ち着かせる。


腰から短剣を抜き、魔力を集中させていく。


イメージして発動させた魔法は短剣の刃渡りを超えてリーチを伸ばした。


風の刃(ウインドブレード)


「ほほ~」



雑音がまだ聞こえてくる。



(集中しろ。相手は魔獣。スピードはありそうだし、あの爪と牙は一度で致命傷になると考えていいだろう。なら、勝負は先制の初手。ほぼ視認できないこの魔法なら、間合いを把握される前に斬れるはず。問題は相手の迎撃を躱して、一撃を入れれるかどうか)



魔獣はゆっくりとこちらに近づいていたが、武器を構えたトキを最初の獲物に選んだようだ。


彼我の距離は10m。



「ふっ!!」



トキが左斜めに飛び出した。


後ろに老人を背負う形だ。



(これでジジイを気にしてくれれば、もうけもん!)



魔獣が迫るトキに左前足を振り上げて叩き潰そうとする。



(見えるっ!)



左足に力を込め、右へステップ。


横に構えた短剣を攻撃してきた左前足に滑るように斬りつける。


魔獣の左側面に回り込み、体重を乗せ首目掛けて突きを放つ!



しかし、魔獣は強靭な後ろで前方に宙を飛ぶ。


空ぶった影響でトキは態勢を崩した。


魔獣はそのまま着地し、こちらを向き仕切り直しとなる。



(あいつ、短剣を見てやがる。魔法の範囲ばれたか?)



危機感を募らせていると、今度は魔獣の方から仕掛けてきた。


ゆっくり円を描くように移動しながら、弧を描いて斜めから飛びかかってくる。


大外から右爪が襲いかかる。


右下に態勢を崩し躱すが、左爪が下からすくい上げるように伸びてくる!



(やばいっ!)



ヒュオオオオオゥ



(あ、れ?)



目を開けると、トキは宙に浮いて(・・・)いた。


隣を見れば、魔獣も浮いてもがいている。



「ふぉっふぉっふぉ。まあ、その年にすれば及第点じゃのぉ」



老人が前方に、これまた浮いて立っており、手を右に振ると魔獣がそのまま遠くへ飛んでいった。


そして、トキは老人と一緒に地面に降ろされる。



「ジジイ、あんた一体何者だ?」


「あ~お茶がうまいのぉ~」


「答えろよっ!」



どこからともなく用意したお茶を啜りだした老人に、またもキレてしまうトキ。



「名はとうの昔に捨てた。詳しくは聞かんでもらおう(チラ」


(あ~この聞いて聞いてって態度がホント腹立つっ!)


「ふ~名前はどうでもいい。クソジジイで十分。で、何者かって聞いたんだけど?」


「ふぉ、何を隠そう!儂は千年に一度と言われた天才大魔道士!人呼んで不思議風使いリッケンボルト=スティンガーじゃああああ!!」


「うん。全然隠れてなかったよな、知ってる。人呼んでってところから偽名っぽいし、天才謳ってて不思議ちゃんってどうなの?あんたの頭の中が摩訶不思議でたまんないよ、俺は。あと、あんたは千年に1日程度の頻度で出現してくれた方が世界のためだよ」


「ふん、天才とは俗人には理解されない孤高な存在なのじゃよ」


「バカと天才は紙一重っていうけどな、あんたは限りなくバカに近いような気がする、やっぱりバカだよ」


(でも、さっきみた魔法はすごかった。母さんが言ってたけど、魔法で空は飛べないって話だったのに。魔法だけは確かに天才かも。バカだけど。きっとまともな人だったら世間に広く認められてるんじゃないかな。バカだからありえないけど)



トキを尻目に、気味の悪い笑みを浮かべて金勘定している老人はやはりバカっぽかった。



(あれ、俺の金じゃねーか)



「おい、じじい。金はもういいから、リボンだけ返してくれ。それ……母の形見なんだよ」


「なぬ?そうか、それは悪いことをしたの。ほれ」


「あ、あぁ」



素直な反応がやたらと気持ち悪く感じてしまう。



「なぁ、あんた風属性の魔法が使えるんだよな?」


「ふぉ?まぁそうじゃの」


「じゃあ、俺に魔法を教えてくれないか?」


「嫌じゃ」



首を振って(ジジイの)頑固っぽさをアピール。



「即答!?いや、そんなカンジしたけど。頼むよ。俺強くなりたいんだ」


「プイッ」



頬膨らませて(ジジイの)かわいさをアピール。



「くっ……お、お願いします。魔法を教えてください」


「ふ~む、どうしようかのぉ~。儂~可愛い孫娘にじゃったら教えてあげてもいいんじゃがの~」



アヒル口で頬に人差し指を添えて(ジジイの)ギャル?っぽさをアピール。



「……おじいちゃん、私に魔法教えて?」



指を前で組んで上目遣い……はやりすぎた。



「うわぁ~儂ドン引きじゃし。じいさんでもドン引きじゃし。お主プライドないのかいのぉ?」



(こ、こ、こ、殺して~~~~!!)




「うぉほん、まぁ金も少しじゃがもろうたし、遊び足りな、うぉほん、あ~遊びがすぎたことじゃし、試練だけでも受けてもらうかの」


「言い直しても、いい表現には全然なってないからな?」


「ふむ、というわけで。儂の弟子になりたいのならば、修行場にいく必要がある」


「修行場?」


「儂んちじゃ。儂の家が修行場となる。もうちょいじゃ。ついてまいれ」



こんな山近くの森に住んでいる事実にトキの中のジジイ評価の「変人パラメータ」がぐいぐいと……上がりきってしまっていたので上がりようがなかった。


後を追いかけてたどり着いたのは山の麓。


目の前には崖があり、頂上は霧に覆われて見えない。



「で?家どこよ?」


「ふぉ。あそこじゃ」



頂上を指差す老人に目線で伝える。



「あんた、バッカじゃねぇの?」



否、口にしてしまった。



「では、儂は頂上の家で待っておるからの~」


「ちょ、おい!こんなの無理だろ!」


「ん~?『おじいちゃん、魔法教えて』とかお願いしてきたのに、ホントやっすいプライドじゃのぉ~。大特価大特価~変態お嬢ちゃんの上目遣いが5割引~」


「このクソジジイ!くっそ、やってやるよ!」



そして、冒頭に戻る。

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