57.弔い合戦
セラフィナが声のほうを向くと……やはり子どものような外見の小柄な人物がいた。
乗っている馬が大きすぎるように見えてしまう。
「オルフェさん!」
「ほう?王子じゃねえか、珍しい」
クリスティーナとバーゼルの声が重なる。
「来たな、相棒」
ヴォルフガングがニヤリと笑った。
(あれが、【銀弾】のオルフェ……!)
セラフィナと同様、王都防衛組に組み込まれることが多い〈星芒騎士団〉三番隊。
その隊長にして、兄とルシアと並んで最年少隊長昇格記録保持者。
あんなナリでも、七年前の内戦の折、最後の血の七日間では大軍を率いて大活躍をした英雄なのだとか。
でもセラフィナが実物を見たのは初めてだ。
何故なら、サボり魔で有名な小さな英雄は、任務すら平気ですっぽかすからだ。
軍人として重罰対象じゃないかとも思うのだが、なんか、許されちゃっているらしい。
(ちなみに、お兄ちゃんはこの人苦手っぽいな。まあ、どうでも良いけど)
「……王子はやめてくれる?あと、オッサンはマジしつこいから」
小人妖精と人間のハーフの青年は、面倒くさそうにバーゼルとヴォルフガングを睨みつけた。
「サボり常習犯のお前さんが、どういう風の吹き回しだ?」
「オルフェさん、“今後の防衛任務は全部サボる”って宣言してたようなー……」
バーゼルとクリスティーナは、純粋に驚いているようだった。
(……いや、任務に参加して驚かれるって、どんだけよ?)
セラフィナは心の中でだけツッコミを入れておいた。
「うるっさいな」
オルフェは不機嫌そうに二人を一瞥し、そして闇の下で蠢く黒装束に目を移した。
「……ガラじゃないけど、アレ、ボクのサボ友の仇のひとりみたいだからね」
「ああ」
その言葉でバーゼルは理解したようだった。
「……【残光】か」
「私も行きます!」
アイリスはオルフェを振り返った。
「ボク一人じゃ、不足だと?」
「いえ、そうじゃないですけど……!」
アイリスは少しだけ言葉を濁したようだった。
(あのアイリスさんが、ちょっと負けてる?この小っちゃいひと、怖っ)
セラフィナが珍しく口を挟まず成り行きを見守っていると、彼女の真横を別の騎馬が一騎、横切ってオルフェたちの横に並んだ。
「――いや、オルフェ、アイリス。お前たちの気持ちも分かるがな、今回は俺に譲ってくれ」
「!」
一瞬で、その場の全員の注目がその男に集中する。
「これはこれは、また。もっと珍しいのが来たな」
バーゼルが目を丸くした。
〈星芒騎士〉は皆、その魔法特性から比較的軽装が多い。
だがこの男は兜こそ付けていないものの、ほぼ完全鎧だ。
セラフィナが知る限り、ここまで重装を纏える星の騎士は三人しかいない。
ディートクリフと、五番隊長のカレンと……
「――団長!?」
普段冷静なアイリスが、驚愕の声を上げた。
「ハハァッ!大将のお出ましだな」
ヴォルフガングが面白そうに笑った。
「今日はみんな随分とヤル気じゃねえか」
バーゼルが顔を向けると、クロードはさわやかな笑みで応えた。
「一応、これでも【妖魔皇帝】討伐の指揮を執る予定なんでね」
そして顎で敵軍勢の中心にいる個体を指す。
「こっちの大将がやつらの軍団長くらいタイマンで斃せないようじゃあ、命を懸ける部下たちに示しがつかんでしょう?」
そしてニッと笑った。
「……弔い合戦、か」
バーゼルは小さく呟いた。
「星の団長のあんたが出張ってきている以上、この戦の総指揮官もあんただ。俺は構わねえが……お前さんは良いのかい、【銀弾】?」
オルフェは少しだけ不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「ふん。……まあ、クロさんの方が歳食ってる分だけ、ベルさんとの付き合いも長いしね。そういうことなら、ボクはアレで我慢しとくよ」
顎で別の個体を指す。
(二番目にヤバそうなやつ……つまりオルフェ隊長は副長クラスをやるってことね)
セラフィナはバーゼルと、他の面々の顔を見渡したが、誰も反対する者はいない様だった。
「あんたがボスとサシでやるってんなら、序列的に軍の指揮は俺で良いかいね?【銀弾】も出張るつもりみてえだしな」
バーゼルがクロードに尋ねる。
「ああ、助かります、バーゼル副団長。さすがに片手間ってわけには行かなそうなんでね」
「よし、良いだろう」
バーゼルは頷き、
「……いいか、お前ら。特に強力な個体は少数精鋭で各個撃破だ。副将の他にも中ボスクラスが……全部で四匹いやがるな。【金剛】、【聖女】、それから【一番星】。お前らで一体ずつ頼む。残る一体はそうだな……」
目欲しい者を探して、周囲を見回した。
「私、私やります!」
セラフィナは反射的に手を上げた。
「赤い剣のやつなら、私でもやれます」
隣で溜め息をついたのは、隊長のサリフか、それともセティーか。
ニックかコレットかもしれない。
バーゼルはセラフィナを見て、少し考えてから、
「【星屑】の妹か」
「セラフィナです!」
「コボルドの時も目立ってたな。たしか魔導士の中でも珍しい、精霊使いだったか?」
「そうです!」
「ふむ……確かにアフカルの〈ブラッド・ソード〉には魔法が有効だって話ではあるがな。今日はあの灰色頭の坊主はいないが、大丈夫かね?」
バーゼルが尋ねると、セラフィナは馬上で小さな胸を張った。
「あんなの足手まといだし。私と〈烈火の組〉でおつりがくるぐらいです」
バーゼルは「あながちはったりでもなさそうだな」と笑った。
「確かお前は貪血鬼との戦闘経験もあったな?いいだろう、セラフィナ。だが相手は“中ボス”と言っても、俺の見立てじゃこの前のコボルドロードと同等以上だ。気を抜くなよ?……壁役にうちの六番隊を付けてやる」
「了解!」
元気よく答えるセラフィナの隣で、今度は間違いなくサリフが溜め息をついた。
「セラフィナ。今度からそう言うのは、私に相談してから言え」
「はーい、ごめんなさーい」
セラフィナは可愛らしくてへっと舌を出した。
……これでみんな許してくれる辺り、美少女って得だ。
と思ってたら、すれ違い様にコレットが、「今日ここで僕が死んだら、お前のせいだからな……」と恨めしい目でセラフィナを睨んだ。
私の可愛さが効かないやつもたまにいるようだ。
大丈夫だって。私がみんなまとめて、ちゃんと守ってあげるからさ。
「これで中ボスの担当は決まったな」
やれやれ、と言った感じで肩を竦めるセラフィナを他所に、バーゼルがまず、背後を振り返って声を張り上げた。
「よし、それ以外の小ボスクラスと雑魚どもは、うちの騎士団と兵団でまとめて大掃除だ」
それからもう一度〈星芒騎士団〉たちに向き直り、
「【銀弾】【金剛】【聖女】【一番星】以外の星の三・四・六番隊は、今回は俺の指揮下に組み入れるぞ。……それでいいかい?クロード団長」
最後にクロードに視線を向けた。
「あ?……ああ、はい、じゃあそれでお願いします」
クロードは何故か、あまり興味なさそうに笑った。
「てか、ぶっちゃけ指揮とかあんまり得意じゃないし、全部バーゼルさんに任せますんで」
「あんたな……」
バーゼルは呆れた顔を隠さなかった。




