54.大きな犠牲の上の“許可”
薄暗い部屋だ。
薄暗くて、そして無駄に広い。
こんなにも薄暗いというのに、その部屋には十一人もの人影があった。
――もっとも、実際にここにいるのは二人だけだったが。
『……よくやった、【賢者】殿。……ようやく、と言えなくもないがな。何にせよ無事、彼奴等の居場所を突き止めたことは称賛に価する』
そう言ったのは中心に座する人影。
実際にはここにいない影の一つだ。
『約束通り発動の”許可”を授けよう』
向かいに一人立つ男は、丁寧に頭を下げた。
【賢者】ランフィス。
ナディア王宮の宮廷魔導士長にして、宰相。
王族を除けばこの国の最高権力者だ。
その男が、頭を下げている。
だが、その瞳に微かに憤りが滲んでいるのは、向かいに座る十人の横柄な態度が原因ではない。
(無事……?ベルトランの死を、八百人の兵たちの死を知って尚、あなたたちは無事と言うのか)
「これを」
中心に座る人影の隣にいた男が立ち上がった。
年老いた男だ。
もっともランフィスを除いて、ここにいるのはどれもこれも年老いた老人ばかりだが。
なんにせよ、その老人はこの中ではランフィス以外に唯一、実際にここにいるもう一人だった。
その老人から、いくつか巻物のようなものが手渡された。
「おや……?」
【賢者】は受け取った巻物をそれぞれ開いて素早く目を走らせた。
そして疑問を口にする。
「……こちら側の名前の記載がないようですが?」
また中央の、ここにはいない老人が口を開いた。
『直接本人たちを呼ぶ必要などないだろう。”許可”は今この場で、〈元老院〉より【賢者】殿に授ける。貴殿から然るべき者に“譲渡”されよ』
その声音は穏やかではあったが、明らかに反論を許さない意思が込められていた。
(……彼女たちに直接会うのが、そんなに怖いか?)
内心抱いた感情をおくびにも出さす、ランフィスはもう一度「承知しました」と恭しく頭を下げた。
『頼んだぞ、【賢者】殿。では我々はこれで……』
「しばしお待ちを」
ランフィスが、締めくくろうとした中央の老人の言葉を遮った。
『……なにかな、【賢者】殿?』
老人は明らかに面倒臭そうに眉を顰める。
だが、ランフィスは全く動じずに、こう続けた。
「――ひとつ、〈十聖〉の皆様に折り入ってお願いしたいことがあります」




