48.【残光】のベルトラン2
ベルトランは肩越しにちらっとサラに視線を下ろすと、「あっちに行ってな」とアリス達のほうを顎で指した。
【王】は黄色く澄んだ目でまっすぐにベルトランを見据え、
「……いいだろう。もっともその体では、もってあと数分と言ったところ。結局は何も変わらぬがな」
そして、何の予備動作もなく、八本の”腕”が一斉にベルトランを襲う。
「うぉっと!」
ガガガガガガガガガガッガガガ!!!!
その全てをベルトランは長槍で弾く。
一瞬遅れて、紅い残光が連続で迸る。
ガガガガガ!ガキィン!ガン!ガイン!!!
受け流し、打ち払い、跳ね上げ、叩きつけ、カウンター刺突を繰り出して軌道を逸らす。
そのたびにベルトランの四つの傷口から、鮮血が噴き出る。
――命が、血と共に流れ出ていく。
「ベルトラン隊長!もういい!後は私が代わる!」
堪らずカレンが叫んだ。
「ダメだっつってんだろ!これは上官命令だ!お前の命を代償にするのはまだ早え」
ベルトランは振り返らずに叫び返す。
彼の足元はあっという間に赤い血だまりができている。
「それはあなたも同じだ!それに、私は命など、とうに捨てている!」
「分かってる。別にお前を侮っちゃあいねえさ、カレン。でも今じゃない。今じゃねえんだ。お前のそれは、俺達の最後の切り札なんだ」
ベルトランは【王】を見据えたまま首を振った。
そしてまた、自ら地獄に躍り込み、死の舞を再開する。
――すでにどれだけ戦っている?
一分か、五分か、それとも十分か。
アリスには永遠のように感じられた。
紅い閃光が光っては消え、また光っては消える。
「……その赤槍……どこかで聞いたことがあるな」
ふと、攻撃が止んだ。
はじき返された”腕”を引き寄せてその針のような先端を眺め、それから緋色の魔槍に目を移して【王】は何かを考えるような表情をした。
「……さすが王サマ。お目が高いね。こいつは伝説の魔槍ゲイ・ジェルグ。……まあ、もっとも今は呪いの槍に成り下がってるがね」
ベルトランは肩で息をしながらも、【王】の疑問に答えた。
無駄話は望むところだ。
とは言え、そろそろこっちのほうが限界かねえ……。
「ゴブリンは止めだ。いいな?ゲイ・ジェルグ」
ベルトランは目を閉じ、ふぅ、と深く息をついて、それから腰を落とし魔槍を構えた。
そして目を開くと、真っすぐに【王】を見据えて、宣言した。
「……【妖魔皇帝】。あんたはこのゲイ・ジェルグで殺す」
それは宣告にして誓約だ。
誓約にして、制約。
自ら――いや、所有者に課す、『呪い』。
「ほう?」
【王】は少しだけ口元を歪め、愉快そうに笑った。
「できるつもりか」
「へっ。覚えときな。俺は転んでもただじゃ起きねえ男、だぜ!!」
怒号とともに、ベルトランは【王】に躍りかかった。
「うぉおりゃおりゃおりゃららららららららぁあっ――!!!!」
ベルトランのターンだ。
怒涛の連撃。
緋色の残光が乱れ飛ぶ。
紅い残光に紛れて迸るのはベルトラン自身の紅い鮮血だ。
命を削って繰り出す緋色の刺突のその全てを、【王】は八本の”腕”で悉く払う。
それでも、ベルトランは止まらない。
「――おおおおおらァァアッツ!!」
「!」
穂先で大地を削りながら渾身の力を込めて切り上げた魔槍が、八本の”腕”全てを上方へ弾き上げた。
「見事。……だが惜しいな」
「今だ!解き放て、ゲイ・ジェルグ!てめぇの根性見せやがれぇぇあ!!!」
【王】は爆発的な速度で八本の”腕”の長さを縮め、その針のような先端で槍の穂先を受け――られない。
「!?」
一瞬だった。
一瞬、八本全ての”腕”が硬直し――緋色の魔槍は、【妖魔皇帝】の右肩を抉っていた。




