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47.【残光】のベルトラン1

 

「……これが大陸最強の魔剣士とやら、か。……脆いな」


 感情の籠らない声で言い、【王】は”腕”を騎士たちの身体から無造作に引き抜いた。


「ごふッ」


 口と身体に穿たれた穴から大量の血を吹き出して、五人の身体が濡れた土の上に落下する。

 四人の隊員に穿たれた”穴”はいずれも、胸。

 ベルトランに至っては左肩、右腿、そして胸と脇腹。


「……ぁっ!」


 リリィが声にならない悲鳴を上げる。


「し、師匠!」


 シュカが掠れた声を絞り出した。


「ベルトラン隊長!」


 ローズが叫ぶ。


 弾かれたようにアリス、リリィがベルトランの下へ走る。

 ローズに支えられながらも、サラも気丈に向かう。


 治療を――治癒魔法を。早く……!


「この程度か……興が削がれるな」


 【王】は相変わらず無表情だ。

 “腕”の先に付着した真紅の血を眺め、そしてヒュンと鞭のように一振りして血糊を払う。


「おのれ、よくも……!」


 カレンが大剣を構える。


「バケモノめ!」


 【王】は目だけでカレンを一瞥した。


 カレンはもう動じない。

 仁王立ちしたまま、黒曜石の瞳でまっすぐに受け止め、そして憤怒を秘めた目で睨み返す。


 ――再び、彼女の全身が輝き始めた。

 長い艶やかな黒髪が、下から風が吹き上げられているかのようにバサバサと舞い乱れる。


「……そうか、汝は」


 【王】は驚いたように、僅かにその表情を歪めた。


「……やはりみな、殺しておくか」


 【王】の言葉に応じ、背後の妖魔たちがまた立ち上がる。

 傷だらけだったゴブリンまでもだ。


 光を纏うカレンの両脇に、ジルとシュカが並ぶ。

 手斧(ハンドアックス)と大楯(ラージシールド)、そして長大な薙槍(グレイヴ)。


「……待てよ」


 だが、低い声が遮った。


「……気が早えだろ、王サマ。まだ俺は生きてるぞ」


「師匠……!」


 シュカの声には歓喜と驚愕が入り混じっている。


 ユラリと立ち上がった長身の男。

 手には緋色の槍。


 その全身は、槍と同じ色に染まっている。


「……まずは俺を殺してからにしろや。それまであんたの部下は動かない約束だろ?……王サマならよぉ、約束は守らねえとな」


 そして血に濡れた口の端を吊り上げ、笑った。


「そいつらは頼んだわ。……死なせんなよ」


 ベルトランは振り返らずに背後の仲間たちに声を掛けた。


「べ、ベルトラン隊長!まだ治療が……!」


 サラが悲鳴じみた声を漏らし、思わず追い縋るようにベルトランの服を掴む。


「いんや、かわいこちゃん二人に治癒(ヒール)してもらって、もう治ったわ……つーか、この際、坊主も男ってこと忘れりゃ、超絶美少女三人分の癒しだしな。こりゃもう、完治よ、完治」


「いや、そこだけは絶対忘れないでください……」


 アリスとサラの光魔法、リリィの水魔法の治療を受けたとは言え、こんな短時間で治るような軽傷ではない。

 ――いやあの傷では、例え時間があっても……


「ほう」


 【王】は澄んだ黄色い瞳を見開いた。


「汝はともかく、そこな四人も生きているようだな。あの瞬間に、余の八本の腕の全てを汝ひとりで逸らしたか……なかなか大したものだ」


「……へっ。まさか、王サマに褒めてもらえるたぁ、身に余る光栄ってやつだね」


 血の混じった唾を吐き捨て、ベルトランはサラたちの傍からゆっくりと離れる。

 歩きながら、その目は【王】から一瞬たりとも離さない。


「だが、なればこそ惜しいな。その力を自分のみを守るために使っておれば、もう少し善戦ができただろうに」


「てめえの物差しで俺を測るんじゃねえよ。あと、もう戦えねえみてえに言うなや。やっと盛り上がってきたところじゃねえか。俺がくたばるまで、気絶して転がってる俺の部下たちにも、他の連中にも手出しさせねえぜ」


 ベルトランは挑発するように、笑みを浮かべる。


「汝はひとつ勘違いをしているな」


 【王】はやはり、無表情だ。


「子どもたちに手は出させぬとは言った」


 八本の”腕”が、ウネウネと蛇のように動く。


「――だが、余が汝以外に手を出さぬと約束した覚えはないぞ」


 瞬間。八本の“腕”の先端がニ十センチを超える針となって、撃ち出された弾丸の如く襲い掛かる。


 ベルトランにではない。

 ひとり僅かに離れたところにいた、サラにだ。


「――いっ!!!」


 サラは身を竦め、思わず目を瞑った。


 ザシュッ――!!


「……手癖の悪ぃ王サマだなぁ、オイ」


 サラが目を開けると、前にはいつの間にか、また二番隊隊長の背中。


 ベルトランの魔槍が、八本の触手を悉く弾いたようだ。

 だがその衝撃で、貫通された左肩の傷口から、魔法でなんとか止めたばかりの血がまた溢れ出す。


「俺が言うことじゃねえけど、浮気性はモテないぜ?まずは俺の相手からにしなよ」


 そう言って、ベルトランは不敵に笑った。



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