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46.二番隊 VS 妖魔皇帝

 

「!!」


 アリスは思わず息を飲む。

 隣にいるローズの肩がびくっと震えるのを感じた。

 それから、【王】はゆっくりと〈星芒騎士〉たちを見回した。


「この中で一番マシなのは……」


 その黄色く澄んだ瞳をカレンに向けた。


「!」


 カレンがゴクリと喉を鳴らす。

 だが【王】はそれからジルに視線を移し、やがて――


「……やはり汝か」


 【王】はゆっくりと息を吐いた。


「へ、買い被りだぜ?王サマよぉ……」


 おどけた声で答えたのは、ベルトラン。

 だが、その声は掠れている。


「……でもまあご指名なら、しゃあねえよな」


 ベルトランはそう言って、前に進み出る。


 と、無言でそれに続く四つの影。

 四本の輝く長槍。

 二番隊の騎士たちだ。


「……おめえらは下がってな」


 ベルトランは振り返らずに言った。

 だが、


「それは聞けませんね、隊長」


 ひとりが即座に拒否の意を示した。


「ひとりでカッコつけさせませんよ」


「我らの連携を見せてやりましょう」


 別の二人が静かに言った。


「ディートクリフを除けば、そこそこ付き合いも長くなりましたからね。一人も欠けずに」


 最後の一人が笑った。


 笑った。この状況で。

 アリスは純粋に凄い、と思った。


 彼の表情はこわばったまま。笑うなんてとても無理だ。

 未だに声も出ないのに。


「……ケッ。たく。どいつもこいつも……俺の下は言うことを聞かねえ奴ばっかりだぜ」


 ベルトランは大袈裟に溜め息をついた。


「まあ、いいさ」


 それからこちらに背を向けたまま、残る隊長たちに声を掛けた。


「カレン、アリス、それから馬鹿弟子ども。まずは俺たち二番隊が様子を見る。てめえらは手ぇ出すな。他の妖魔どもの動きだけ念のため見張っとけ」


「き、危険です、ベルトラン隊長!」


 カレンが声を上げるが、


「向こうの手の内が分からねぇ以上、全員で掛かる方が危険だろ。いいから黙ってみてな」


 ベルトランは背を向けたまま切り捨てた。

 そして二番隊の五人が妖魔皇帝の前に進み出る。


 他の妖魔たちも、【王】の背後でユラリと立ち上がる。

 だが、妖魔の王は少しだけ驚いたような表情で、首を振った。


「五人だけだと?気でも触れたか?全員で来い。余が殺すのは、汝からだがな」


「へっ、気にすんな。こっちにはこっちの事情ってのがあんだよ、王サマ」


 【王】は溜め息をついた。


「つくづく愚かよな。……いいだろう。では余も遊んでやる。汝らを皆殺しにするまでは、子どもたちには手を出させないでおいてやろう。いいな、そなたたち」


 【王】はそう言って、背後を振り返った。


「少し痛い目を見ないと、人の子というのは目が覚めぬらしいからな」


「……御意に」


 一度立ち上がった八体の妖魔たちは、一様にまた膝を折り、【王】に首を垂れた。

 もっとも、下半身が蛸の女だけは跪く、と言う表現が正しいかは分からないが、とにかく身を屈めて頭部を下げていた。


「そいつは、ありがてぇ」


 ベルトランはそう言ってニヤリと笑った。

 それから、振り返らずに背後の部下たちに指示をする。


「いいか、お前たちは迂闊に手を出すんじゃねえぞ。俺を援護しろ」


「「「「了解」」」」


 四つの声が重なる。


 そして五人が身を屈め長槍を構えた。

 その切っ先はピタリと【王】を向いている。


 そのまま、数秒、いや数十秒が経過した。


「……余は、騙し討ちのようなやり方は好まぬ」


 ふと、【王】が口を開いた。


「こっちはアンタをぶっ殺せるなら、騙し討ちだろうが何だろうがやるけどな。……正直にいうと、残念ながらそんな都合の良い策は思いつかないぜ。まだな」


「汝らのことを言っているのではない。余の話をしている」


 だが、【王】はまた首を振る。


「先に言っておく。余は一瞬で汝らを全て殺せる。これでだ」


「!!?」


 アリスは思わず目を見張った。


 【王】から唐突に、黒色の何かが生えた。

 正確には【王】の背中から、だ。


 ――尻尾?触手?


 それも一本ではない。左右に四本ずつ、合計八本。

 ウネウネと動くその管のような何かは、太さが大体三センチ、長さは二メートル近い。


「余はこの八本の腕の形を自在に変えられる。長さも太さも重さも硬さも、だ。このようにな」


 そう言って、【王】は八本の内の一本を使って、実際に実演して見せた。

 丸太のように太くなったり、倍近くまで伸びたり、先端が針のようにとがったと思えば、刃のような形に変形たり、ハンマーのような形状を取る。

 しかもその変化は、瞬きするほどの間。

 一瞬で質量も形状も長さも変わる。軟化も硬質化も瞬間の出来事だ。


「おいおい、王サマ。気前が良すぎないかい?闘(や)る前に、手の内を晒していいのかよ……?」


 ベルトランが笑った。

 その頬を汗が伝い、顎から滴り落ちる。


「構わぬ。余は何も講じず、弄せず、ただ、汝らを殺す。羽虫を払うようにな」


「馬鹿にしやがって……」

「虫扱いとはな……!」

「言わせておけ。バケモノの戯言だ」

「自惚れは身を滅ぼす。俺たちが分からせてやろう」

 

 二番隊の隊員たちが口々に言う。


「……おめえら。熱くなりすぎるなよ」


 ベルトランは背後の隊員たちに忠告する。


 だが、相手が驕っているなら願ったりだ。手の内も知れた。上場だ。

 やつは自分に絶対の自信を持っている。王サマってだけあって、プライドも高え。

 嘘はつかないだろう。


 あの八本の管――"腕”とか言ってたけど、ありゃどっちかって言うと“管”とか”触手”だろ――、アレで俺たちを攻撃してくるってのは間違いない。

 んでもって、アレが来ることが分かってる以上、不意を突かれることもねえ。


 こっちは四人ともランカーだ。

 しかもこいつらとは十年以上の腐れ縁。連携なら他のどの隊にも負けねえ。


 これならイケる――か?いや、それでも甘いか?

 まあ、いい。

 どっちにしろ、闘(や)るしかねえ。

 殺(や)れなくても、時間を稼ぐ。


「来ぬのか?余から始めようか?」


 【王】は余裕の無表情のまま、ベルトランを一瞥する。


「やってやるよ」


 ベルトランは吐き捨てた。

 本来ならこのまま睨めっこをして時間を稼ぎたいところではあるが、二番隊の持ち味は、受けより攻め。

 いつでも反撃(カウンター)より突撃(チャージ)だ。


「良いだろう。いつでも来い」


 【王】は両手を広げ、鷹揚に頷いた。


「……フォーメーション一。小細工はなしだ。最初から一気に畳みかけるぞ。言うまでもねえが、当然あのウネウネが来る。各自、躱すかぶった切れ」


「「「「了解」」」」


 ベルトランの指示に答える隊員の声は一糸乱れない。


「一、二……」


 ベルトランがカウントを始める。


「三!!」


 号令とともに、五人が一気に地を蹴った。

 四方に散って、四方から同時に一斉に敵を討つ。


 四方に散るために、瞬時に地を蹴って――そして全員が空中に浮かび上がって静止した。


(――!!??)


 一部始終を見ていたアリスは、しかし何が起こったかまるで理解できなかった。


「があっ……!」


 隊員のひとりが、宙に浮いたまま、呻き声とともに血を吐いた。


(ああ……!)


 それでアリスはやっと理解した。


 浮いているのは、自力ではない。

 その体を触手に貫かれて、持ち上げられているのだ。


 四人の身体には一本ずつ。

 そしてベルトランは四本の”腕”に全身を貫かれていた。



「これほど……か」


 ベルトランが低い声で呻いた。


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