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33.憎悪のゴブリンロード

 

 その後の展開は、圧倒的だった。

 まさに人間達の夜明けだ。


 日の出とともに駆け付けた援軍は、その数、五千。

 それを率いるのは〈星芒騎士団(スターナイツ)〉二番隊隊長、【残光】のベルトラン。


「こんなに早く……救援が来てくれるなんて……!」

「しかし、どうやって……?」


 兵たちは歓喜に湧きながらも、一様に首を捻っていた。


 救援軍は各地からかき集められた混成部隊だった。


 王都とその周辺の三都市から招集された正規兵が二千。

 ナディアからの援軍の見込みが立ったことから、その救援要請に応じる形でアーセラ及びグランディス全土から二千。

 さらにオルフェから要請を受けたギルド本部の呼びかけの下、ストニア周辺都市から参戦した命知らずの冒険者たち、およそ千人。


 一方、ストニアの連合軍は六百人の犠牲を出し、城塞内は二千四百人となっていた。

 新たな援軍五千を足しても七千四百余りだ。


 対する妖魔の軍勢も、連合軍の善戦により一万五千からその数を三千程減らしていたが、それでも一万二千。


 本来ならそれなりに苦戦する数差だったが、陽光が彼等に味方したのが一つ。

 特に日光に極端に弱い岩重鬼(トロール)たちは勝手に自滅し、その名の通り岩と化していった。


 さらに城塞の内側と、市壁の外側から妖魔軍を挟み撃ちできる形となったのがもう一つの大きな要因だ。

 まして、要塞都市内の地の利はもちろん、人間達にある。


 しかし何といっても、人類を圧勝勝利に導いた最大の要因は、二番隊隊長ベルトラン。

 最前線に立って緋色の長槍を閃かせながら、十人十色の混成部隊をものの見事に統制していた。


「五千は序の口だ!これからまだまだ援軍は来るぜぇ!!」


 ベルトランの陽気な怒号は、大いに兵たちを勇気づけた。


 そして彼の言う通りになった。


 夜明けから二時間。

 午前七時半を回る頃に新たに千人。

 さらに午前十時前にもう千人の援軍が参戦する頃には、人間達の勝利は確定的なものとなっていた。



     Ψ


 救援軍を加えた新生連合軍は、要塞都市内に敵が築いた陣地も片っ端から包囲し、屋根を破壊してトロール部隊を全滅させ、そこかしこに散って敗走する妖魔たちを追い詰めていく。

 まさに破竹の勢いだ。


 アリス達七番隊も当然、殲滅戦に加わっていた。

 今はサラも一緒だ。七番隊は、全員揃っている。


 七番隊は要塞都市に蠢く妖魔たちを蹴散らしながら、現在はある一団を追っていた。


 一団から離れてこちらに向かってくれば交戦し、切り捨て、すぐに逃げた残りを追う。

 当初三十近くいた妖魔たちは今やその数を六体に減らしていた。


 そして今――ついに市壁正門前の広場にまで追い詰めていた。

 巨大な石壁の前に足を止め、忌々し気にこちらを振り返り、


「グルアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 血走った眼でアリスを真っ向から睨み付け、それは憎しみに満ちた咆哮を上げた。


 ――ゴブリンロード。


 身長は一七五センチ程度か。

 貴族種にしてはかなり小柄だ。

 だが手に持つ巨剣(グレートソード)は異様なほど大きい。


 そして何より、その体から放つオーラはどの妖魔より禍々しい。


「……やっぱり、お前か」


 アリスはゴブリンを正面から見据え、ゆっくりと大剣を構えた。


「全部ゴブリンか。だが、アリス。油断するなよ……全て貴族種だ。ロード、六。特にア(・)レ(・)は……」


 ジルが低い声で言う。


「……来い、小僧。八つ裂きにしてくれる」


 ジルの声を遮って、ゴブリンが唸り声を上げた。


 アリスは正直迷った。

 別に一騎打ちを受ける道理はない。


 また、挑発に乗るほど、別に高尚な誇りを持っているつもりもない。

 普段なら、無視して仲間との連携で斃すところだ。


 けれど。


 あいつは何故かおれとの一騎打ちを望んでいる。

 それだけを望んでいる。


 もし、それを邪魔しようとするなら、容赦なく他の者を惨殺するだろう。


 ジルさんは大丈夫だ。おれより強いから。

 でもエイリークは?白兵戦なら不利だ。

 ローズは?リリィは?


 ――サラは?


「……あいつはおれがやります。みんなは、残りの五体を」


 アリスは大剣を構えて進み出た。


「アリスくん!だめ!あの人はなんかやばいよ……!」


 リリィが泣きそうな声で止めるが、


「……分かった」


 ジルは頷いた。


「他の奴らもアリスとあの個体の一騎打ちを邪魔するつもりはなさそうだ。なら、先に取り巻きを全部始末してから加勢に行く」


 副隊長として、ジルはそう告げた。


 邪魔をしようとしたら、奴らは許さない。

 勝敗より、自分の命より、邪魔者の排除を優先する。


 ジルにもアリスと同じ予感があった。


「俺たちが行くまで、持ちこたえろよ、アリス!」


 叫ぶが早いか、ジルは輝くハンドアックスで取り巻きの一人――その個体でさえ紛れもない貴族種だったが――に切りかかった。


「……アリス、男を見せなさいよ。負けたら絶対許さないからね」


「間違いなくこれが最後の正念場ですよ、先輩!」


「アリス先輩……!」


「アリスくん、待ってて。……すぐ行くから」


 ローズ、エイリーク、サラ、リリィ。

 口々に声を掛け、そして貴族種たちに躍りかかる。


「ローズとリリィは一体ずつ。エイリークとサラは二人で一体仕留めろ。後の二体は俺がやる!」


 ジルの怒号が響く。


 叫びながら、ジルはアリスから距離を取る。

 ローズ達もそれに続く。


 当然のように、他の貴族種たちもそれを追った。



 アリスは、離れていく仲間たちを目で見送りながら、眼前の個体に向かって言った。


「……おれだって暇じゃないんだ。来いよ」

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