32.夜明け
ドゴオオオオオンッ――!!!
破城槌が鋼鉄の扉とともに魔法障壁を破壊する、不快極まりない爆音。
城門の内側、大広間では、連合軍の戦士たちが固唾をのんでその時に備えていた。
――その先頭には、三人の”女帝”。
「間に合わなかったか……」
カレンが悔しそうに呟いた。
ドゴオオオオオンッ――!!!
三度目の爆音が響いた。
ミシミシ……と言うよりはメキメキ、バキバキ、と明らかに不穏な音を響かせて巨大な城門がひしゃげ始めている。
誰かが耐え切れず、「ひぃっ!」と悲鳴を漏らす。
『第二魔法障壁、消失!第三魔法障壁、二割破損!!』
城内に拡声魔法が反響する。
「もう、やるしかないわよねー……」
クリスティーナがルシアとカレンの顔を見た。
――それは何かの覚悟を決めた顔だ。
「……ギリギリまで、待って」
ルシアが表情の乏しい顔で呟くように言った。
――ドゴオオオオオンッ――!!!!!
四度目。
城門が大きくひしゃげ格子状になっている巨大な鉄棒が音を立てて崩れた。
扉が大きく歪み、その隙間から醜い青緑の怪物たちの顔が見えた。
汚れた黄色い眼。
乱杭歯が並んだ口はだらしなく開かれ、そこから汚らしい涎が溢れ出ている。
城門の外側に在った半透明の光の幕が、ガラスが割れるように蜘蛛の巣状の亀裂が走っているのが肉眼でもはっきり見えた。
『第三魔法障壁、八割破損……!!次で完全に破壊されます……!!』
不穏なアナウンスが城塞内に響き渡る。
「順番は私からだ。……いいな、ふたりとも」
カレンは城門の隙間から覗く醜い怪物たちを見据えながら、念を押すように言った。
怪物たちが扉から離れ、下がっていく。
破城槌を引き、助走をつけて、最後の一撃を見舞うためだ。
ルシア、カレン、そしてクリスティーナ。
『三女帝』が最後の時に備えて、武器を構え、腰を屈めた。
「……?」
――だが、その瞬間は来なかった。
Ψ
「――行こう。まだ終わりじゃない」
アリスが静かな声でそう言うと、シュカが、ローズが、リリィが。
それからジルが、エイリークが、サラが――そしてジェイクまでが無言で頷く。
――だが、八人が階段を駆け下りようとした、まさにその時だった。
「おい、あれ!!」
誰かが、屋上にいた連合軍の誰かが呟いた。
その小さな呟きは、しかし瞬く間に屋上の仲間たちに広がり、皆が一様に同じ方角を見る。
それは眼下に蠢く妖魔でも、少し離れたとこで異彩を放つゴブリンでもない。
要塞都市の中でさえなかった。
市壁の、もっとずっと、向こう側。
「日の出……?」
また別の誰かが言った。
そう、確かに日の出だった。
いつの間にか白み始めた空の端、地平線の向こうから、僅かに明かりがさしていた。
いつの間にか、夜明けが来たのだ。
これでトロールたちは途端に動きが鈍ることだろう。
でも違う。
そうじゃない。
それだけじゃない。
「あれは……」
朝日がまさに昇ろうとする丘の上。
光に照らされて、黒い影が丘に広がっていた。
黒い影。いや――人だ。
人の――群れ。
「お……お……!」
また別の誰かが呻いた。
正確には人と、馬。
騎馬たちが、新たな黒い波となって要塞都市に押し寄せてくる。
先頭には、赤い長槍を担いだ男。
ロザン将軍はのそりと立ち上がり、そして法螺貝のような形状の拡声魔導具を手にした。
そしてゆっくりと息を吸い、それから吠えた。
『――勇者たちよっ!!』
将軍は陽光に目を細めながら、それでも一心にその光景を見つめ、続けた。
『よくぞここまで耐えてくれた……俺は諸君らを心の底から誇りに思う』
ロザンはさらに大きく息を吸い。
そして、告げる。
『――この戦、我らの勝利だ!!!!!』




