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25.戦場に添えられた薔薇と百合

 ローズとリリィが、籠に入った配給食(レーション)を連合軍の兵士たち一人ひとりに手渡しで配っていく。


 本来なら戦闘員、しかも上級軍人である彼女たちの仕事ではないが、是非やらせてくれと、彼女たちが買って出たのだ。

 彼女たち、というか、もちろんローズの発案だったが。


 ローズはレーションを配りながら、笑顔を振りまいていく。

 リリィもはにかみながらも一人ひとりに言葉を掛けながら食糧を渡す。


 天下に名立たる〈星芒騎士〉、しかも可憐な美少女たちから手渡しで受け取れるとあって、圧倒的に男の比率の多い連合軍兵士たちからは、アリスの予想以上に大好評だった。


 初めはローズとリリィが廻って手渡していたのだが、いつの間にか、二人の前に長蛇の列ができていた。

 それぞれ、自分の好みのタイプのほうに並んでいるようだが、列の長さはちょうど同じくらい、と言ったところか。


「おいおい、すっげー人気だな……軍人なんて血生臭えこと止めて、ふたりでアイドルやった方がよっぽど稼げるんじゃねぇの?」


 列に並び損ねたのか、アリスとともにカレン達の傍まで避難してきたジェイクが半ば呆れたように言った。


「もし……そういう人生が選べたなら、おれもアリだと思うよ。選べたならね」


 アリスは苦笑した。


「?」


 その言葉に別に嫌味なところはなかったが、ジェイクはそれだけで何かを察したようだった。


「……ま、そりゃいろいろあるか。そもそも普通の奴が、三十までに七割死ぬ〈星芒騎士〉なんぞに好き好んでなんねぇよな。よほどイカレてないかぎりな」


「酷い言われようだな……冒険者だって、似たり寄ったりだろ」


「ばっかだなぁ、お前。冒険者は自己責任よ、自己責任。分かる?自分でクエスト選べんだよ。欲に目がくらんで分不相応なクエストに手ぇ出すのは、馬鹿のやることだぜ」


「じゃあお前は今ここにいる時点で馬鹿確定だね」


「ああ!?……いや、うーん……まあそうとも言うわな」


 ジェイクは肩を竦めてニヤっと笑った。


 やがてレーションを配り終えると、ローズとリリィはアリス達に気づいて、こちらにやってきた。


「はい、これ。アリスくんの分」


「あ、ありがと」


 リリィから配給食(レーション)を受け取り、アリスは礼を言った。


「はい、ジェイク。あんたもまだもらってないでしょ?」


「おう。……って、なんだよ、干し肉と干しパンかよ?手作りの料理じゃねえのかよ」


「配給食(レーション)なんだから仕方ないでしょ」


 あからさまにがっかりした顔のジェイクにローズは笑う。


「まあ、少し材料も残ってたから、手作りしても良かったんだけどさ、リリィが」


「え、わ、わたし!?」


「リリィのほうが上手だからね」


「そ、そんなことないよ……」


「少なくともアリスよりはできるでしょ」


「そ、それは……うん、たぶん……」


「……悪かったね、おれだけ料理できなくて」


 七番隊は、実はアリス以外みんな料理ができる。

 エイリークは標準程度だけど、基本なんでもそつなくこなせるローズはもちろん、特にジルとリリィはちょっとした料亭が出せそうなくらい。

 シュカといい勝負ができそうだ。


「でも、料理してる最中に戦いが始まっちゃったらやりきれないでしょ。いいから文句言わずにちゃんと食べて。あんたの大好きなタダ飯だよ」


「……わーったよ」


 ジェイクは渋々、と言う感じで受け取った。


「つーかよ。こないだから思ってたんだけどよ……」


 袋から取り出した干し肉を齧りながら、横目でローズとリリィをちらりと眺め、


「……しばらく会わないうちに、お前ら、なんかこう……デカくなったな」


「あんた、この前も言ってたね、それ」


 ローズは肩を竦めるが、リリィは首を傾げる。


「そうかな……?わたしは騎士団の中では一番小さいんだけどね……」


 リリィは首を傾げる。


「いや、背の話じゃなくてな……」


「?」


 何故か言葉を濁すジェイクに、リリィはもう一度首を傾げた。

 耳飾りの紅い魔石が揺れる。


 アリスは何となくジェイクの言いたいことが分かったが、巻き込まれたくないので聞こえないフリだ。


「おほん。……つーか、アレだよ、昔はこんなくらいだったじゃねえか」


 ジェイクは掌を横にして、自分の胸くらいの高さで左右に線を引くような身振りをした。


「その時はジェイクくんもそのくらいだったと思うよ……」


 リリィは苦笑する。


「あんたチビだったもんね」


 ローズが追い打ちをかけた。


「……お前は昔からデカ女だったな」


 ジェイクは負けじと言い返す。


「あたしがデカいんじゃなくて、あんたとアリスが小っちゃいだけでしょ」


「ざっけんな。オレはアリスほどチビだったことはねえよ!」


「……おれを、巻き込まないで」


 アリスがうんざりした顔をすると、リリィは慌てて口を挟んだ。


「ダメだよ、ジェイクくん、チビとか言っちゃ!アリスくん気にしてるんだから」


「リリィ、本人のいる前で言わないで……」


 渋い顔をするアリスに、リリィはさらに慌てて、


「ごごめんアリスくん、アリスくんは小さくないよ!私はチビだけど、私よりアリスくんのほうがちょっとだけ大きいから……」


「その中途半端に正直な優しさが、却ってイタイんだけど……」


「ごごごめん……!」


 リリィは目に見えてあたふたしている。




「……なあ、何やってんだ、あいつら?」


 少し離れたところで石段に腰かけているセヴェンが、半ば呆れたような顔をした。


「何って……分からないですか、セヴェン隊長ー?青春ですよー、青春」


 その隣でクリスティーナがくすくすと笑った。




「つーか……アレだ、アレ」


 ジェイクが、なぜか意を決したように口を開く。


「背だけじゃなくてよ。なんかお前ら随分と、その……エロい格好だな。ローズはともかく、リリィもよ」


「!?」


 途端にリリィは顔を赤らめ、両手で胸元を隠して背を向ける。


「いくら魔法使うのに鎧が邪魔だっつってもよ。『三女帝』の姉さんたちより露出多くね?」


 一方で、ローズは「ははーん」と言いながら、何故かにやりと笑う。


「何あんた、さっきからそれが言いたかったの?鼻の下伸ばしちゃって?」


「うるせ、別に伸ばしてねえよ。……つーか、どうせリリィのほうは、露出狂のお前に付き合わされているんだろ?」


「ち、ちがっ……それは……!」


 リリィが背を向けたまま顔だけ振り返って何か言おうとするが、


「あのな、ジェイク」


 アリスがそれを遮って代わりに説明しようと口を開く。


 だが、その二人を制して、ローズがずいと前に出た。

 何故かにやにやしている。

 そして、近い。


「そんなこと言って。ホントはうれしいんでしょ?」


「は、はあ?」


 と言いながら、ジェイクの顔はなんだか赤くなっている。


「むさくるしい戦場に華を添えて、男たちの士気を高めてあげてるんじゃん。綺麗な薔薇と可愛い百合の華をさ。……なんか文句ある?」


 ローズはジェイクを覗き込むようにさらに顔を近づける。


「わ、わたしは、ちが……」


 消え入りそうな声でリリィが抵抗するが、声が小さすぎてすぐそばのアリスにしか届かない。


「べ、別に文句はねえけどよ……」


 そう言いながらジェイクはついに顔を真っ赤にして目を逸らした。

 何か小声で負け惜しみじみたことをぶつぶつ言っているが、その声はアリスにすら届かない。




「うふふ、ローズのほうが上手でしたねー」


 クリスティーナが口元に手を当てて可笑しそうに笑った。


「若いな……」


 ジルは何故か遠い目をしている。


「ここが四方を妖魔に取り囲まれた戦場とはとても思えんのだが……」


 セヴェンはどちらかと言うと呆れた顔だ。


「えー、思春期まっさかりの、少年少女のほ(・)の(・)ぼ(・)の(・)とした光景じゃないですかー?ダメですかー?」


「いや、ダメっていうか……ダメじゃないが……ほ(・)の(・)ぼ(・)の(・)し過ぎじゃないか?ここ、一応戦場なんだがな。しかも戦況は俺達に圧倒的不利な」


 クリスティーナの危機感のない笑いに、セヴェンも思わず苦笑した。

 何も言わないが、カレンもルシアも心なしか表情が柔らかい。


「……しかし、ジル」


 セヴェンは肩を竦めてから、少年たちに視線を戻した。


「お前のとこの、ローズって言う子。まだ二年目だったよな。……随分と優秀だな。常に周りを良く見ている。兵たちの緊張を解いて、おまけに士気まで上げている」


 感心したように言う。


「……あの子一人で、戦々恐々とした場が一気に和んだぞ。あれは間違いなくリーダーの器だ」


「ああ。そうだろう」


 ジルは少し誇らしそうに笑った。


「しかしだな……」


 セヴェンはふと真面目な顔になって続けた。


「それに比べると、アリスは……何と言うか少し――」


 それから少しだけ言葉を選ぶように考えてから、


「指揮官としては少し肩に力が入り過ぎというか……ひとりで気負い過ぎじゃないか。あれではいずれ滅入ってしまうぞ、本人も……それから慣れていない部下もな」


「うーん、そうですねー……」


 だが、ジルよりも先にクリスティーナがにっこりと笑って答えた。


「でも、だからこそ、ローズ達がいるんだと思いますよー。ひとりでなんか背負わせない、お節介な子たち」


 セヴェンはクリスティーナの笑顔にちょっと肩を竦めてから、つられてふっと笑った。


「……そうか。いい仲間に囲まれているんだな」


「一応、おれもいるからな」


「私たちもいますしねー」


 ジルとクリスティーナが付け加えると、セヴェンは満足そうに頷いた。


「……そう言えば、あの子の周りは世話焼きばかりだったな」


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