9.サラの『高等妖魔』解説①
サラの口から語られた話は、概ね王宮から冒険者ギルドに共有された内容と同じだったのだが、討伐隊に応募しておきながらギルドの説明を真面目に聞いていなかったジェイクにとっては、いくつか驚きの事実が含まれていた。
【妖魔皇帝】復活前後に報告が激増したその未知の魔物たちの正体は、【賢者】達が禁書庫で見つけた三百年以上も昔に綴られた古文書に、詳しく記されていたそうだ。
王宮の有識者たちによって暫定的に『高等妖魔』とカテゴライズされたその多くが、これまで存在しないとされていた“『妖精』またはそれに近しい種族が変貌した種”であると。
そしてそのどれもが、今まで知られていた五つの種族より遥かに厄介な怪物であることも語られていた。
純粋な『妖精』種ではないとは言え、内包する魔力は人や『小人』や『巨人』の亜種を遥かに凌駕する。
闇に堕ちてなお、その魔力は形こそ変え、異能の力となって彼らをより危険な存在へと変貌させたのだと言う。
「グ、蝙蝠鬼は飛行種――有翼の妖魔です。見た目はゴブリンを灰色にして、蝙蝠の翼を生やしたような姿をしているそうです。古文書によれば、その起源は小人妖精なんだとか……」
サラは最近聞いたばかりの情報を一つ一つ思い出しながら、ゆっくりと説明を続ける。
「体格は小鬼並みですが、飛行能力があるだけでなく、恐ろしく敏捷でしかも爪に毒を持っていると言います。しかも、一部の個体は精神操作系の魔法のような能力を持っているとか……」
「妖魔のクセに、空飛ぶってのは聞いてたけど……オマケに毒持ち・精神操作持ちかよ。確かにそいつは厄介だな」
ジェイクが眉を顰める。
「はい、でもそれだけではなくて……。どうやら、銃火器を暴走させる特殊な能力を持っているんだとか……」
「はぁ?なんじゃそら。マジかよ」
「わ、分かりません……現状では、情報も未確定なもので……ただ、何故かこの妖魔の前では銃器が全く使えなくなるそうです」
「そっちはオルフェ隊長の報告だから、原理はともかく、何かしら銃器の使用を阻害する能力を持っているのは間違いないよ」
アリスが補足した。
「そいつぁ、凡庸な兵隊にしてみりゃ相当な脅威だな。一流の使い手ならともかく、一般兵なら銃が主力武装だろ。向こうは空飛ぶのにこっちは銃が使えねえって反則的に質悪ぃな」
「はい……そうですね……推定戦闘力は五十とされています」
「ってどのくらいよ?」
「え?あ、えーと……」
「平均的な兵士五人分、だよ」
すかさずアリスが助け舟を出す。
「マジかよ!ただの“羽ゴブリン”のクセして、えげつねえな」
「まあ、毒はまだしも、飛行能力とか精神操作とか銃火器を暴発させる異能とか、もはや簡単に数値で表せないんだけどねー……」
リリィが付け加えた。
「ふーん、ま、小人妖精ベースの“羽ゴブリン”にゃ銃が効かねって、覚えとくわ」
ジェイクはそう言って、腰のホルスターを軽く叩いて見せてから、アリスに視線を向けた。
「んで?もう片方のやつは?王都に出たって奴」
「ああ、アフカルね」
「そうそれ。今度は何妖精がベースなわけ?まさか、エルフ?」
「いや、エルフはまた別で……」
思わず答えてから、アリスはふと思い出したように、
「……ごめん、サラ。お願い」
と、翡翠の瞳の新入隊員に声を掛けた。
「あ……はい」
サラは頷いてから、口を開いた。
「アフカルは……妖精がベースではないそうです」
「はあ?じゃあ、やっぱ小人なの?それとも巨人?」
調査で明らかになった、『妖精』を起源とする妖魔の存在。
しかし王宮の禁書庫の古い文献に記されていたのは、それだけではなかった。
別の禁書に記載された、もう一種の『妖魔』。
それは『小人』でも『巨人』でもなければ『妖精』でもない。
「アフカルの元は――人間、なのだそうです」




