8.『敵』
「おれ達が聞いてた情報と大差はなかったよ。敵勢力の詳細は未だ不明だけど、恐らく最低でも千、最大で五千いる可能性もある。報告があった妖魔はゴブリン、コボルド、オーク、オーガー、トロールの全種類。その内ゴブリン、コボルド、オークについてはもちろん上位種も確認されている。……それからやっぱり、今回の”敵”には、例の『高等妖魔』もいるっぽい」
アリスが答えると、エイリークも神妙な面持ちで頷いた。
「……でしょうね。その報告書にも書きましたが、冒険者ギルドでの聞き込みでも『グレムリン』と思しき高等妖魔の目撃例が複数あったそうです」
「『高等妖魔』ねえ……それ、一応オレもギルドから聞いたけどよ。そんなモン、本当に実在するワケ?骨董品みてえな古ーい本に書いてあっただけなんだろ?なんかすっげー眉唾なんですけど」
アリスとエイリークの会話に、ジェイクが横から疑問を挟んだ。
ジルからもらった火酒をチビチビ飲みながら、すでに三つ目の豚肉と格闘している。
「残念ですが、いるのはほぼ間違いないと思いますよ。現実的にもすでに複数の目撃情報が寄せられていますから。……まあ、古文書に記述があった種族の全てが実在するとは、僕も思っていませんけど」
エイリークが真顔で答える。
「ただの見間違いじゃねえの?今まで聞いたこともなかったぜ」
「一般市民の目撃報告の中には、確かにそう言うのもあるでしょうね。でもいわゆる“プレート持ち”の上級冒険者や軍事訓練を受けた各都市の兵団からの報告も複数ありますし、何より身近なところでもすでに二つ、戦闘記録が上げられてますからね」
「一つはオルフェ隊長から報告があった、『グレムリン』だね」
エイリークの言葉をアリスが引き継ぐ。
「ああ、蝙蝠男ってやつね」
「正確には蝙蝠鬼ね」
すかさずアリスが訂正するが、ジェイクは「そんなん、どっちでもいーわ」と軽くあしらい、
「んでもう一つは?」
「王都内に出没したって言う『アフカル』てやつだよ」
ジロリとジェイクを睨んでいたアリスに代わって、ローズが答え、
「クリスティーナ隊長たちが交戦した魔物だよね」
リリィが補足する。
「ああ、それだよ、それ!」
不意に、ジェイクが喰いついた。
「?」とそろって首を傾げるアリスとリリィに向かって、灰髪の少年が言葉を続ける。
「他の『高等妖魔』ってのはまあ、いるかどうかは別として、とりあえずわかるんだけどよ。その王都に出たってのだけ、いまいちピンとこねえんだよな。それって本当に妖魔なの?不死者とかじゃねえの?」
「ああ、まあそうだよな。それは……」
「アリス」
答えようとしたアリスをジルが穏やかに制し、
「それについては、復習も兼ねてサラに説明してもらってはどうだ?」
と提案した。
「え!……わ、私ですか」
「あ、いいですね」
「人に教えると自分の理解も深まるって言いますしね!」
「大丈夫、間違えても誰も怒らないからさ」
動揺するサラを尻目に、エイリーク、リリィ、ローズが賛同する。
「そうですね、じゃあ、サラ。ジェイクに説明してやってもらえる?」
アリスが頷いた。
「は、はい……やってみます……」
自信なさげに答えてから、何故かサラは姿勢を正してジェイクに向き直った。
「え、えっとですね……『妖魔』というのは、いわゆる『魔物』の中でも知恵を持つ人型の種族で、『闇に魅入られし子ら』とも呼ばれていて……もともとは『光に祝福されし子ら』が、大昔に闇に堕ちて変貌した姿だと考えられていてですね……」
「え、ちょい待ち。……そこから始まるワケ?いくら地下街育ちで『学校』に行ってないっつっても、オレだってそのくらいは知ってるぜ」
「あ、ご、ごめんなさい……!」
ジェイクが呆れた顔をすると、サラは慌てて謝罪する。
「いや、別にいいけど」
一方のジェイクはまるで気にした様子もない。
「サラ。そいつはそんなんでも、一応冒険者なんだよ。一通りの情報はギルドに共有されてるから、とりあえず今回遭遇する可能性のありそうな『グレムリン』と、それからそいつが聞きたいって言う『アフカル』の説明だけしてやればいいよ。……まあ、おれ達だって、どっちも最近知ったばかりの話だけどね」
アリスが苦笑すると、
「わ、わかりました。……では」
サラはアリスに向かって頷いてから、またジェイクに向き直った。
「えーと……今から三週間前の【妖魔皇帝】の復活の後のことです……さっきエイリーク先輩が言っていたように、『新種』の妖魔が次々と報告されるようになったんですが、その中に……」
そうしてサラは、彼女たちが対峙しなくてはならない今回の”敵”について、説明を始めた。




