決戦『地牙狼 アース・ウルフェリオン』
咆哮と共に周囲の地面が刺々しく迫り上がった。隆起した先端は鋭く尖り攻撃にも障害物にもなり得る。
其処で俺は漸く、自分の逃げ道が塞がれている事に気が付いた。刺々しく隆起した地面が疎らに見えたのは囮、本命は獲物を逃さないようにする為の囲いだった。
動きを止めてほんの数秒の小さな間が開く。そして一つの呼吸も出来ないまま、目の前のモンスターは此方に向かって駆け出してくる。
ガルルルルルルッ!!!!!
今まで見た事ないモンスターに戸惑ってしまうが身体は反応してしまう。咄嗟に剣を構え腰を据え体勢を整える。
腕を大きく振り上げ勢いそのままに飛びかかってくるモンスター。長く鋭い強爪は空を裂き地面に傷痕を残す。
剣で防ごうとするが爪に触れた瞬間に受けきれないと判断、寸前の所で回避、追撃を警戒しその場から距離をとる。
案の定モンスターは振り下げた腕をそのままに地面を爪で抉り小さな岩石郡を発生させ飛ばしてきた。小粒な為、目視で避けるには限りがある、最低限のダメージを考慮しつつ身を捻り体勢を低くしたり剣で受ける事で何とかこれも対処。
岩石郡の対応に追われ意識を少しモンスターから離してしまった。その一瞬の隙をつかれ頭上から巨大な腕を振り下ろされる。剣で受け止めたはいいものの両手が塞がり身動きが取れず、次に繰り出された尻尾による薙ぎ払いをモロに受けてしまう。
「ぐっぁぁぁ!!!!!」
痛烈な一撃が右半身を殴打する。倒れる事は無かったが膝をつき剣を立て踏ん張る事が精一杯。先程の衝撃も残っている為右腕は殆ど上がらなくなってしまった。
依然 攻撃の手を緩めないモンスターの猛攻は尚続く。痺れる身体を無理矢理に動かし攻撃を避けるのがやっと。視界が狭まっているのを感じ周囲を見渡すと囲いが段々と狭くなっている。
「ぐっ!!!」
確実に追い詰められている。此方に決定打はなく相手は一撃でも当てれば致命傷、逃げるのも無理なので論外。
<自然治癒>のお陰で時間が経てば怪我は治り体力もある程度回復するが永遠ではない。それにまだ一太刀も入れることが出来ていない。消耗してばかりの俺と違い万全な状態の強個体。
「駄目だ、このままじゃヤラれる....」
脳裏に過ぎる紛れもない死。久しく忘れていた恐怖、パーティを組んでからは特に無縁だった危険が明確な敵意を持って襲いかかって来る。
だがそれと同時に湧き上がる充実、生きているとこの身で感じて歓喜する細胞。高まる鼓動が二つの緊張で張り裂けそうになる。
「......<全能力強制向上>」
制限時間付きの奥の手全能力強制向上その名の通り一時的に全能力が格段に向上する。しかし、自身の限界を超えた強化を施す為、制限時間後はとてつもない倦怠感と激痛に襲われ1週間は動くのもままならなくなる。
だが、今はそんな事言ってられない。
「<付与・斬>」
剣に属性を付与する。本来は存在しない斬属性だが全能力強制向上発動時のみ使用可能なオリジナル属性だ。能力は至ってシンプルで兎に角良く切れる。
ガギャァァァァァァァ!!!!
離れた距離にいるにも関わらずモンスターの右前脚が宙に舞う。俺が斬撃を飛ばしたのだ。斬属性は空を裂き、剣の射程距離を一気に引き上げる。
突然の攻撃、加えて先程まで逃げ回るのに手一杯だった目の前の獲物の変化。地牙狼は失くした脚に戸惑いつつも状況を冷静に判断、自身に分があると考え欠損した部位を硬い岩肌で覆うと再び大きな咆哮を上げた。
アオォォォォォォォーーーーン!!!!!
眼光が鋭く光り体毛が逆立つ。それと同時に周囲の棘山も更に高く大きく広がっていく。傍から見れば内側の状況は全く分からないだろう。
しかし、俺は怯まない。
居合の構えからの抜刀、飛ぶ斬撃は横一閃に遮蔽物を切り捨てる。攻撃は躱されたが不利な状況は脱した。俺は少し開けた空間に勝機を見る。
斬撃を飛ばしつつ距離を詰め隙を突き首元に剣を振り抜く。あと一歩のところで岩石になった右脚に防がれ弾き返されてしまうが右前脚は再び切断。しかし、既に欠損している為ダメージはないだろう。
逆に俺は弾き返され、地面に打ち付けられてしまう。全能力強制向上発動中は痛みや疲労などは一切感じないが、(実際は肉体が超強化されてる為感じにくいだけ)全て蓄積される。そして効果時間終了と共にその蓄積分が代償と共に身体に返ってくるのだ。
つまり無敵に見えるが実際は攻撃を受ければ受けた分だけ、その後の反動が大きくなり大事に至る。
時間制限+反動、これが全能力強制向上を使いたく無い大きな理由である。
「はぁ...はぁ....」
少しだけ息が上がる。それは全能力強制向上の効果時間がもうすぐ終了する事を意味していた。
モンスターの方も飛ぶ斬撃を警戒しているのか一定の距離を保ち必要以上には攻めてこない。それでも俺は斬撃を飛ばし周囲を飛び回り隙を見て切りつける。一瞬の油断も隙も許さないそんな攻防が何度か行われ決着は呆気なかった。
ストンッ
「あ゛があぁぁぁぁあ!!!!!!!」
首を切り落としたのと同時に全能力強制向上の効果時間が終了する。全身が悲鳴を上げ底知れない倦怠感に埋め尽くていき、俺は横たわるモンスターの死体の横にそのまま突っ伏した。
「がぁぁあ゛っがあぁぁぁ......<自然治癒><安全地帯><睡眠>」
「(危険だけど、どっちみち動けないし一度眠ろう。クソッ、攻撃をくらい過ぎた...思ったより反動がデカイ...)」
身体中が軋み激しい痛みが襲う。朦朧とする意識の中、今の魔力量で発動出来る最低限の魔法を唱えた俺はそのまま深い眠りについたのだった。
・【安全地帯】野営やキャンプ時に使用する魔法。身の回りに『魔除け』を付与し、身動きを取らない時に限り『隠密』が追加される。
・【睡眠】対象を眠らせる事が出来る、但し有効射程範囲は両手を広げた程度。個人によるが効果時間は平均的に7〜8時間。




