テレベア山脈の麓で
鳥の囀りで目を覚ます。ゆっくりと瞼を開け見慣れない天井を見詰め、改めて自分がパーティを脱退した事を実感する。
今までの俺なら皆んなの朝食を作る為、こんなにゆっくりと眠る事はできなかった。目を覚まして憂鬱な気持ちで身体を起こし、皆が起きてくる前に朝食の支度を済ませる。
今となっては嫌いな奴の料理を美味しそうに食べていたのは唯一救いだったのかも。
「ほんとに、もう一人なんだな....」
小さな呟きに誰の返答もない。部屋の中には自分だけ、外に出れば見慣れない街並みに風景。
俺は身体を起こすと軽く伸びをし、身支度を済ませ部屋を出た。
「取り敢えず、ご飯でも食べよう。作らなくて良いなんて変な気分だな....」
今日の予定を朝食を摂りながら考えよう。まだ街も全部見て回れた訳じゃないし、ギルドにクエストを見に行くのもアリだな。
そんな事をグルグル頭の中で巡らせつつ階段を降りていく。この宿屋は昨日に受付嬢からお勧めして貰った【ウルリパの癒し】という。1階が受付と食事をする所で2階と3階に宿泊できる部屋が用意されている。
因みに俺が泊まっている部屋は3階だ。
「あ、新参さんおはようございます!今朝は早いですね!」
1階に着いた途端声を掛けられる。見えて来た顔は明るい笑顔で花や太陽とも例え難い可愛らしいものだった。
「おはようございます!えーーっと....」
「あ、まだ名乗って無かったですね!改めましてここ【ウルリパの癒し】で働く従業員の『ミシェラ』です!以後お見知りおきを!」
「ミシェラさんですね!俺はイフルールって言います!当分の間お世話になると思うのでこれからよろしくお願いします!」
「はい!よろしくお願いしますね!ではイフルールさん、お食事ならこちらへ、ついでにお伺いしますよ?」
「あ、じゃあ お願いします!」
案内されるがまま席につきそのまま注文する。昨晩もここで夜食を頂いたが大変絶品、超美味しかった。
「かしこまりました!ではお待ちください!」
ミシェラさんの笑顔を見ていると今日も良い1日になりそうな気がする。この後は冒険者ギルドにでも行ってみよう。昨日は拠点登録をしただけでクエストボードの確認もしていないし。
よし、そうと決まれば
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〜冒険者ギルド〜
朝食を食べ終えた俺はそのまま直ぐに冒険者ギルドへと向かった。クエストボードを確認しどんなクエストを受けようか思案する。
こんな風に1人でクエストを選ぶのも久しぶりだな。いつもパウルかルルレットがクエストを選んでくれていたから自分で選ぶのは新鮮だ。昔は自分で決めるのが当たり前だったのにな。
「う〜ん.....。ソロでクエストも久しぶりだし。取り敢えず様子見で....よしこれにしよう!」
俺はBランククエストの『ポバポイラの討伐』を取ると受付で手続きを済ませ混み合う冒険者ギルドをすり抜けるように出発するのだった。
〜『ポバポイラの討伐』〜
【セスレナ】から半刻程歩いた場所に位置する山岳地帯『テレベア山脈』そこの麓にある森林の中に今回の討伐対象である『ポバポイラ』が生息している。
『ポバポイラ』とは2匹〜3匹で動く中型のモンスターだ。大きさは3〜4mで灰色がかった水色の体毛に黄色い眼球が光り大きな両腕を持って森林内を徘徊している。
「すぅ〜〜〜はぁぁ〜〜〜」
森林の入口で大きく深呼吸をし、空気を吸い込み全身で自然を感じる。何も気にせず自分のペースで冒険するのも久しぶりだ。昼食の事を気にしなくてもいいし誰かに気を遣う事もしなくていい。
「よし、行きますか!!<身体強化>」
自身に身体強化魔法を付与し一気に駆け出す。腰に据えている剣を抜き奥へ奥へと進んでいく。少しひんやりとした冷たい空気を肌身に感じつつ木々を掻き分けて進む。
ゴギャア!!
シュピィー!!!
オブルルルフッッ
様々な鳴き声が入り乱れ所々でモンスター同士の縄張り争いが勃発している。『テレベア山脈』一帯は非常にモンスターが活発的でこの森林も例外では無い。
「うわぁ、『飛竜』同士が縄張り争いしてる。テレベア山脈から降りてきたのかな?......ここは慎重に」
進行方向で【飛竜種】同士が激しく争っている。一方は空中を滞空しながら足で踏みつけたり火球を吐いたりしている。もう一方は地上から息吹を放ったり、踏みつけのタイミングで噛み付いたりし、激しいながらも実力は拮抗していた。
俺は2体の飛竜種の縄張り争いに巻き込まれないように気配を出来るだけ消して静かに進んだ。
気配に関しては2年に及ぶパーティハウス生活に於いて培われた俺の特技だ。自分の気配を消す事も相手の気配を察知する事もできる。
「....................っ、よし」
縄張り争いを上手く切り抜ける事に成功した俺は勢いそのままに一気に駆け出した。
目的地まではもう少し、今回の討伐対象である『ポバポイラ』の住処はテレベア山脈の入口付近だ。
複雑な森林に段々と隙間が見え、光が差し始めた
その時
ドガッッッン!!!!
「!!!!!?????」
右半身に強烈な痛みと衝撃が走る。勢いよく吹き飛ばされ木々をへし折りながら何処かの岩山にぶつかる。
「.....っぐふ....ゲホッ」
意識がまだハッキリしているのは<身体強化>のお陰だろう。口から血を吐きグラグラする頭を小さく揺すりながらゆっくりと起き上がる。
周囲を見渡し状況を確認する。地面は抉られた跡が続いており至る所に大量の血飛沫が付着していた。醜い肉塊が離散しており塊の大きさから中型以上のモンスターだと言う事が窺える。
恐らく俺は飛んできたこの肉塊によって吹き飛ばさたのだろう。攻撃というよりは重い何かにぶつかった印象だった為そう考えた。
「.....この体毛、若しかしてポバポイラか?」
肩で息をしながら離散している肉塊に近付く。血みどろだが色合いから『ポバポイラ』だと推測出来る。
一体何が起きているのだろうか。普段居る筈の無い飛竜種が縄張り争いをしていたり『ポバポイラ』がグチャグチャの肉塊で飛んできたり。これは異常事態ともいえる。
「<自然治癒>」
付与魔法で自然治癒力を上げ体力を回復する。直ぐに回復する訳では無いが気休め程度にはなる。
「よし....あれ?剣は....っと。あったあった」
手に握っていた剣は吹き飛ばさた衝撃で地面に落ちていた。幸い自分の近くに落ちていたのが唯一の救いだ。
腰を低くし落とした剣を拾った瞬間、近付いてくる何かを感じる。其れは抉れた地面の先から強烈な気配を放ち物凄い速度で此方へと向かってくる『何か』
だが、直感で『ポバポイラ』を肉塊に変えたのは向かって来る『何か』であると感じる。
俺は直ぐに剣を持ち直し体勢を整えると<身体強化>・<自然治癒>に加えて<持久力強化>を発動させる。
「おいおい...あんなモンスター、見た事ないぞ」
前方から姿を見せたのは真っ黒な体毛に身を包む巨大なモンスターだった。鋭い爪を尖らせ牙を剥き出しに四足歩行で地面を蹴る。蹴った地面は細かく隆起しそのモンスターが通った痕跡を深く残す。
ガグルルルルルッ!!!!!
アオォォォーーーーーーン!!!!!
『地牙狼 アース・ウルフェリオン』
Aランクモンスター『牙狼獣 ウルフェリオン』の亜種でありその危険度はウルフェリオンを遥かに凌駕するという。




