絶望を待ち望む
少し長くなってしまいましたが、よろしければ。
おねしゃすい〜
【戦撃の妖精】side
各々がイフルールを追い掛ける準備を済ませパーティハウスを後にする。取り敢えず向かうのは冒険者ギルドだ。事情を説明して当分の間【メーギビア】から離れる事を伝えなければ。
基本的に冒険者は登録した街や国で拠点・専属が決まる為クエスト以外で長期・不定期で街を不在にする場合は冒険者ギルドに一報入れておかなければならない。それがAランクパーティなら尚更だ。
〜冒険者ギルド〜
ギルドに入ると相変わらずの大盛況、何処もかしこも混雑している。クエストボード前で屯する連中に朝から酒樽を開ける冒険者、受付嬢を口説こうとする輩に真面目にクエストを思案するパーティ等々、騒がしくも賑やかな普段通りの冒険者ギルドだ。
私たちは真っ直ぐ受付カウンターに向かう。
「おっ!珍しいじゃねぇか!ティルベーア嬢に続いて他のメンバーまでギルドに来るなんて、今日は大荒れか?」
1人の大男が体で道を塞ぎながら絡んでくる。其奴を皮切りに他の冒険者達も次々に此方に群がってくるではないか。
普段ならそれなりに対応しているのだが今は心の余裕がない、申し訳ないが全員無視して素通り、そのまま受付カウンターまで進もうとした
その時
「やぁルルレット、それとティルベーアにパウルも。久々じゃないか、珍しいね?君達がギルドに顔を出すなんて。まぁ僕は君達の美しい姿を見れて嬉しく思うがね?」
絵に書いた様なキザったらしい口調。その声を聞いた途端に全身の血流が熱くなり始めたのを感じる。
「なんでも噂ではイフルールとかいうお荷物を追い出したそうじゃないか。」
周囲の冒険者達が戦擊の妖精の雰囲気が変わった事を察し距離を取り始める。それでも目の前のキザ男は何も気にせず話を続ける。
「僕は前々から気に食わなかったんだ。見た目も普通な上に大して強くもなければ出来る事といえば雑用や荷物持ちくらいだろう?そんな奴が君達とパーティを組んでたんでは【戦撃の妖精】の名前に関わる、引いては君達の美しさに関わるというもの。これで漸くせいせいしたじゃないか。さぁ、早く手続きを済ませよう。」
そこでパウルが口を開いた。
「......手続き、だと?」
「あぁそうさ!イフルールを辞めさせたって事は僕達と一緒に組む気になったって事だろう?ほら遠慮は要らない、早く行こうじゃな────」
3人同時だった。パウルが剣を抜きティルが魔法を帯同させ私はキザ男の頬を掠める様に拳を振り抜いた。
「っ!......。ふぅ、中々に刺激的な愛情表現じゃないか。そこまで強い気持ちなら僕も大歓迎だよ!」
減らない口を今すぐ閉じてやろうと顔に向かって拳を振りかざす。しかし、私の拳はキザ男の顔面に当たる前に防がれてしまう。
ガキンッッ!!!!
「ちょっと!私達の『セリオール』になにしてんのよ!それに、ギルド内での冒険者同士のやり合いは禁止な筈でしょ?何で誰も止めないのよ!」
「そうですよ、そんな魔法なんて滞留させて....流石に非常識じゃありませんか?」
キザ男を守るように姿を表した2人の女。私の拳を防いだ方は槍持ち、もう1人はティルと同じ魔法使い。
「そもそも何故私達の誘いを断るのか理解できません。私達と組めば貴女方の実力ならSランクも夢では無いと思いますが。」
話す事も無い私達は無視するように通り過ぎようとするがキザ男はずっと着いてくるし連れの女もずっとキィキィ煩い。
「ちょっと!無視すんな!なに?アンタらちょっとAランクでチヤホヤされてるからって調子乗ってんの?セリオールが折角アンタらみたいな不細工に声掛けてやってんだから有難く感謝しなさいよ!」
「.........」
私達は何も言わない。というかこんな事してる場合じゃない早く退いてくれ....
「あれ、【戦撃の妖精】の皆さん!イブ君以外が来るなんて珍しいですね?どうかされたんですか?」
受付カウンターに行きあぐねていると丁度出勤してきたシャリスが声を掛けてきた。普段はあまり好きじゃないが今この瞬間だけは本当に女神のように見える。
「シャリス、実は....」
「あ、此方でお伺いしますねどうぞ。.......セリオールさん達は部外者なので着いてこないでくださいね?」
「ん?何故僕が部外者なんだい?今日から同じパーティになるんだから部外者なんて事は無いだろう?」
コイツは何を言っているんだ? という目付きでセリオールを睨むシャリスが私の目を見て無言で質問の可否を尋ねてくる。答えはもちろん否、声を出す事さえしない。
「失礼、戦擊の妖精の皆様にその御意思はないようなのでお引き取りください。」
「何をそんなに頑固になることがあるルルレット!もうイフルールは居ない、それなら気兼ねなく僕のところに来れるはずだ!」
「え?セリオールさん今なんて?」
「ん?あぁ、イフルールが戦擊の妖精を脱退したらしくてね。それで僕が────「え!!イブ君が?え?どういう事?え?ルルレットさん?どういうことですか!?」
しまった、シャリスはまだ知らなかったのか。
「......実は今朝イフルールが手紙を残して出て行ってしまってな。直ぐティルにギルドへ確認しに行って貰ったのだが、既にパーティを抜けた後だったのだ。」
パウルは話すべきと判断したのだろう。シャリスに手紙を渡しイフルールがパーティを脱退した事を伝えた。手紙を受け取ったシャリスは内容を確認しながら再び私達を受付カウンターまで案内する。呆気に取られたセリオールは他のメンバーに窘められ何処かへ連れていかれた。
「.....では皆さん、どのようなご要件でしょうか?」
先程より低い声で侮蔑的な眼差しで私達を見るシャリスは何処か寂しそうに見えた。
「....イフルールを連れ戻しに行くから少しの間、街を空けるわ。その報告に────」
「イブ君を探しに、ですか。手紙の内容を見る限りイブ君はあくまで自分が悪くて皆さんに嫌われてるから皆さんの為にパーティを抜けた、ということですよね。それで会いに行ってどうするんですか?今更イブ君に謝罪するんですか?それとも今更本当の気持ちを伝えるんですか?」
シャリスの言葉が深く突き刺さる。本当に耳が痛い。今更イフルールに会って何を言うのだろうか?それでも私は.....私達はイフルールに対して謝罪しなければならない。
「皆さんがイブ君に好意を持っているのは知っていました。だから私の事はあんまり好きじゃない、ですよね?」
「そ、それは....」
図星を突かれ口篭ってしまう。実際私達はイフルールを愛称で呼び自然なままに笑顔を向けるシャリスが嫌いだ。だからシャリスではなくサラに対応してもらう事が多かった。いや、多く対応してもらっていた。
「そうだね、私は確かに君が苦手だ。それと同時に羨ましくも思っている。あんなにも自分の気持ちを真っ直ぐ表現出来るなんて....私には絶対に出来ないから。」
普段あまり喋らないパウルが本心を語った。まさか肯定すると思っていなかったので私は呆気に取られてしまう。逆に普段よく喋るティルが全く口を開かないままだ。
「その素直になれない気持ちをイブ君を前にしてちゃんと出せますか?また傷つけるだけなんじゃないですか?」
やはりシャリスの言葉は耳が痛い。今までの事を知っているから尚更だろう。それでも、それでも私は
「.......私は────」
「私ちゃんと謝りたい。このままイフルールと二度と会えないなんて絶対に嫌。イフルール以外の男なんて皆気持ち悪い、私イフルール以外考えられない。だから許して貰えなくても、話を聞いて貰えなくても私はちゃんと気持ちを伝えたい。」
ここにきて初めてティルが口を開いた。それは決意を胸に宿した一人の女性、熱い炎が瞳に宿っている。その姿を見て私は口を噤んでしまう。
「いつも.....いつもイフルールに気持ち悪いって、思ってもないのに言ってた。イフルールが私以外の事を考えるのが嫌で、他の女の名前なんて聞きたくもなかった。だから気持ち悪いって....。そんな私が我儘言っても聞いてくれて、美味しい料理もいっぱい作ってくれて、そんなイフルールの優しさに私は漬け込んで.....」
ティルの止めどない言葉がどんどんと溢れ出てくる。今まで私達にも言った事の無い思いを、気持ちを、吐き出す様に。
それでもシャリスの顔色は何一つ変わらない。
「だから、だから!どう思われても何を言われても私はイフルールに会ってちゃんと話がしたい!」
ティルはハッキリと言い切った。すると、シャリスの態度は一変して唇と肩を小さく震わせながらその口を開いた。
「何を今更なんですか!!もう遅いんですよ!分からないんですか!?.....なんで...なんで!出て行ってしまう前に其れが出来ないんですか!今まで出来なかった事を今になって出来るんですか?そんなの私がイブ君なら絶対に信じられません!」
シャリスの声はギルド中に響いていたと思う。静まり返るギルド内に集まる視線、騒ぎを聞きつけたサラが此方へやってくる。
「ちょ、ちょっとちょっと〜どうしたのよシャリス。落ち着きなさいよ、ね?」
「サラさんもサラさんです!イブ君の脱退をパーティリーダーの許可なく勝手に申請、許可させるなんて懲戒免職ものですよ!!」
「あ、あれはイフルールの奴に頼まれたから仕方なく....」
「サラさんは頼まれたら何でもするんですか?」
「べ、別にそこまで言ってないでしょ!」
「ならギルドマスターに報告しても問題無いですよね?」
「ちょ、そんなマジになんないでよ、どうしたのよシャリス」
何故かシャリスとサラの口論になってしまい状況は悪化していくばかり。私もどうしたらいいか分からず静観していると視界の端でパウルを確認する。そのまま私の前に立つとサラとシャリスに向かい土下座をし始めた。
「2人ともすまない。こうなったのも全て私が悪いのだ。謝って済むことでは無いが、ここはどうか私に免じて収めて欲しい。」
誰もが呆然とするしかなかった。私とティルも例外ではない。だが、そんな中でも怯まず声を出したのは土下座をされた本人だった。
「....その謝罪は、私にするべき事ですか?相手を間違っているのではないですか?」
「!!!シャ、シャリス!では、」
「そもそも私に皆さんを引き止める権利を資格も権限も、何も無いですから。」
シャリスはヒラっと向き直り含みの有る笑顔で最後に私達に告げた。
「せいぜい、絶望した表情でお帰りになるのを心待ちにしております。気をつけて行ってらっしゃいませ。」
その口調は何処までも業務的で、僅かに恐怖したのは私だけでは無いはず。
諸々の申請をシャリスに任せ私達【戦撃の妖精】は【メーギビア】を後にするのだった。




