それぞれの朝
【戦撃の妖精】side
朝起きると何時もイフルールが作ってくれている朝食の匂いがしなかった。昨日に続き今日もか そんな事を考えながら、頭に嫌な予感が走るのを感じた。
イフルールが今まで朝食を作り忘れた事はなかった。と、いうかイフルールが役立つなんて事は一切ない。寧ろイフルールのお陰で物凄く助かっている。
パーティハウスの管理から冒険者ギルドに関する雑用を全てこなしクエストに際しても自前の<収納袋>で野営やその他の準備も完璧、居なくなってしまえば【戦撃の妖精】は終わってしまう。
そしてその嫌な予感は最悪の形で的中する。
「こ....これって...」
「........朝食の匂いがしなかったから気になって来てみたら、机の上に手紙とお金が置いてあった。恐らく昨日の夜には家を出ていると思う。」
1人悲しげに俯くパウルは訥々と語る。
「そ、そんな!!なんでよ!意味がわかんない!なんで急に────」
「冒険者ギルドに行って来たけど、もう脱退した後だった。サラが昨日の夜に勝手に脱退申請を通したって....イフルール、居なくなっちゃったって....」
冒険者ギルドから戻ってきたティルは目に涙を溜め小さく震えている。話を聞くと昨日の夜にイフルールから脱退申請をお願いされ私達の為にとサラが勝手に許可を通したのだとか。
全くなんて事をしてくれたのだろうか。
「そ、そういえば手紙にはなんて.....」
私はイフルールが残した手紙の中身が気になった。パウルから渡された其れを恐る恐る開き読み上げる。
『【戦撃の妖精】のみんなへ
先ずはありがとう俺みたいな奴をパーティに誘ってくれて。みんなと過ごした2年間は確実に自分を成長させる事ができたしその甲斐あって念願だったAランクになる事ができた。
そして、ごめん。今まで気付けなくて本当に申し訳ない、心からそう思っている。何で皆が俺に辛く当たるのか、それもそうだよね、嫌いな奴と一緒に居て鬱陶しくない奴なんて居ない。それがクエストだけじゃなくて普段の生活から一緒だと尚更だ。だからこれはほんの囁かな謝礼と御礼だと思って受け取って欲しい。
今までお世話になりました。 イフルール』
手紙を読み終えた時、居間の空気は死んでいた。かくいう私もその空気を作り出している1人といえる。正直言葉が出なかった。イフルールからの素直な感謝と思いもよらな謝罪。
「わ、わたしが..私が辛く当たったからだ」
ティルが絞り出す様な声で気持ちを吐露した。それを皮切りに表情を沈めていたパウルが言葉を曝け出す。
「私だ、全部私が悪いんだ。皆の許可なく勝手にイフルールをパーティに入れた癖に、素直な気持ちを伝えるのが恥ずかしくて強く当たっていた。ほ、他の女性とも話して欲しくなくて.....その結果がこれだ。」
「わたしも......イフルールと話すのが恥ずかしくて、思っても無い言葉言ってた。」
「......追いかけよう。このままイフルールと別れたら絶対に後悔する。ていうかもうしてる。なら、兎に角会って謝罪だけでもしないと」
私の口から出たのはそんな言葉だった。心の中に渦巻く後悔と懺悔を押し殺す。それを全てイフルールに伝える為、もしも許してくれなくたって構わない。それよりも今はただ会いたい、イフルールの顔が見たかった。あんなに酷い事を言っておいてよく言えると自分でも思う。
「.....うん、ルルの言う通りね」
「あぁ、私も同意だ。」
私達【戦撃の妖精】はイフルールを探す旅に行く事を決定した。各々何を思っているのかは分からないが1つだけ言える事は私達はイフルールが大好きだっていう事だけ。
「待ってなさいよイフルール。」
イフルールの事を考えていると気が付けばいつもの調子に戻っていた。私も、何でもっと素直になれなかったんだろう?
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イフルールside
【メーギビア】を出発してから約半日。野営を挟み朝方に辿り着いたのは、【セスレナ】の街だった。
【メーギビア】と同じくらいの大きさを持つ街並みに少しだけ落ち着きを彩った雰囲気。【セスレナ】の街は個人的にもお気に入りで機会があれば住んでみたいと前々から思っていたのだ。
「今日からここを拠点にしよう!心做しか空気も美味しいきがするな......それは言い過ぎか」
新たな地での新たな生活。胸が踊り興奮が冷めやらぬ気持ちを身体が表現したがっている。もちろん、パーティの皆なから嫌われていた事は悲しいが今となれば申し訳ない気持ちが勝ってしまう。
「とりあえずはギルドだな.....。登録して、宿をとって...あとの時間は街の散策にあてよう!」
人の往来をすり抜けて【セスレナ】の冒険者ギルドを目指す。綺麗に舗装された道を歩きながら街を見渡す。以前に訪れた時は殆どギルドにしか行けなかったので今から散策が楽しみでしょうがない。
〜冒険者ギルド〜
そんなこんなで冒険者ギルドに到着した。扉を開けるとクエストに行く前のパーティや冒険者でギルド内は混みあっていた。その人混みを掻き分けて受付カウンターへと足を運ぶ。
「おはようございます、ようこそ冒険者ギルドへ。クエストの受注でしょうか?それとも登録でしょうか?」
薄緑色のツインテールに視線が勝手に流れる色艶な唇。大人の色気と子供っぽい無邪気さを兼ね備えた受付嬢が丁寧に対応してくれた。
「登録でお願いします」
「畏まりました。冒険者登録は初めてでしょうか?」
「いえ、登録はしています。」
「畏まりました。」
そう言うと受付嬢は無駄の無い迅速な動きで早急に手続きを済ませてくれる。
「......お待たせ致しました。Aランク冒険者のイフルール・エヴァン様ですね。これで登録は完了致しました。イフルール様の拠点は本日よりセスレナになります。」
俺はそのまま受付嬢にお勧めの宿を聞くと登録だけ済ませ冒険者ギルドを後にした。
「これで今日から俺の拠点はセスレナだ!思えば1人で宿に泊まったりクエストに行ったりなんて久しぶりだな。....戦擊の妖精に居た時は他の街に行っても好きに出歩けなかったし....。」
受付嬢に教えて貰った宿屋を目指しつつ街並みを再三見渡す。騒がしくはあるものの落ち着きを見せる【セスレナ】の街は不思議と心を安心させてくれる。
「.....本当に新しい生活が始まるんだな。」
久しく忘れていた初心を噛み締める。目に映る風景が色鮮やかなのはきっと気のせいじゃない、そう感じなら新たな生活に胸を踊らせるのだった。




