ナラルル王国へ⑥ 〜到着〜
走り出した魔馬が『ナラルル王国』に到着するのにそう時間は掛からなかった。
3日と言わず2日半程で着いてしまい王都に入る頃には既に日が暮れ初め、辺りは赤く紅に染まっていた。美しい王都の街並みも今は血染めの景色に見えてくる。その理由は...
「さぁ、イフルールを襲った奴等を締め上げるぞ。皆、準備はいいか?」
「ええ!」「もちろん!」
「気が早いよみんなぁ〜」
殺気立った3人の所為である。何とか魔馬の安全を信じてもらい入国出来たは言いものの、狙われた事実から3人の警戒が強まるばかり。こんな殺気立っていれば逆に勘付かれるのではないかと思ってしまう。
「と、取り敢えず今日泊まる宿を探そうよ!もう日暮れだし魔馬も休ませないとだしさ!」
「む、それはそうだな。よし!それでは宿と....、夜ご飯も食べに行くか?イフルール?」
「え?あ、別にどっちでも....。あ、」
パウルが少し困り顔で覗き込んでくる。はじめは分からなかったその意図がこの2日でずっと朝昼晩と料理を作っていた俺を労っての事だと気付くのに時間は掛からなかった。
「うんパウル!そうしましょ!久々に王都のご飯も食べたいし!ね、ティル!」
「そうねルル!イフルールもそれでいいでしょ?」
「あ....。うん!それじゃあそうしようか!」
ルルレットとティルベーアが俺の応えるよりも先に問いかける。俺もそれに便乗させて貰う事にし、皆で久しぶりの外食をする事に決めた。
「先ずは宿だな、この子も休ませてやらねば」
「広い部屋に泊まりましょう!4人で泊まれる広い部屋!」
有無を言わさずに決められた同室にも俺は何も言わない。もう既に慣れ始めた3人の距離感や、やり取りはつい最近まで不仲でメンバーが脱退したなんて思えない。まぁ、脱退したのは俺なのだが。
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「うわぁ〜!!広い!!」
「これはまた....見事な部屋だな」
「うん!これなら快適にすごせそう!」
「いや、、、、広すぎない?」
魔馬車を置ける広いスペースがある大きな宿を見つけそこに泊まることにした俺達。宿の中でも1番大きくて広い部屋を取ったのだが、4人でも広すぎると感じる内装は豪華絢爛。高額なだけ有り見るもの全てが気品溢れる最高級品だ。
「.....そういえばさ、良かったの?イフルールを連れてたあの御者を連れて来なくて。」
「ああ...。連れていくには荷物になるし、逆にヤツを突き出せば また適当な文句をつけ私達を悪者にする可能性もあったしな。それにあの状態では情報も聞き出せまい。それなら逆に彼処に放置した方がモンスターや野党に狙われる危険も有るし最善だろう。まぁ、あの平原なら何方とも現れない可能性の方が高いが...」
「それでも、行方に気付かれるまでの時間稼ぎにはなる...か。」
「うむ、そういう事だ。」
ルルレットがボコボコにしたヤツは結局連れて来る事もせず情報も聞き出さないまま、その場に放置した。馬車の残骸は燃やして灰にし跡形も残っていない。
「それじゃあ、これからどうするの?」
「情報収集....、と言いたいところだが私達が入国している事は既にバレているだろう。ギルドが繋がっているという事は【戦擊の妖精】という名前が相手方に把握され、顔も割れていると考えた方がいい。なら、下手に動くよりも先ずは本来の目的であるイフルール再加入の申請をしに行くのが得策だろう。」
「なるほど、下手に変装したり情報を集め回るより普通に過ごす....。上手く行けば向こうから何か行動を起こしてくる可能性もあるしな。」
「そういうことだ。」
「よし!今後の方針も決まった事だしご飯食べに行きましょ!」
ティルベーアが空気を切り替えるように手を叩き場を整える。張り詰めた緊張が一気に解けるように皆が立ち上がり笑顔で部屋を後にした。久々の王都に久々の外食、楽しみで仕方ないが笑顔の裏にはもう一つ、訳があった。
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「国王様、例の冒険者パーティが王国に入ったとの情報が、如何なさいますか?」
暗く光を閉ざす一室、国王の傍らで膝を着き淡々と語り掛ける彼はナラルル王国 国王直属秘密部隊【宵闇の月光】隊長『ハング・オルガン』
【宵闇の月光】
情報収集や暗殺から王国内での給仕に至るまでありとあらゆる事を一隊だけで熟す少数精鋭集団。中でも隊長である『ハング・オルガン』は隠密に長けており暗殺・密偵の達人である。しかし、彼の本当の強さは暗殺や密偵ではなく単純なるその、強さであった。
「やはり、護衛にお前達を付けるべきだったか....。が、都合は良い。直ちに密偵を送り其奴等を監視せよ。」
「仰せのままに。」
音も無く消えたハング・オルガンが居た場所に目線を落としながらナラルル王は胸中に一抹の不安を募らせる。
「(聞いていた話では『龍』に心臓を返した男だけ連れ去り残りのメンバーは洗脳する、そういう手筈だったはずだが....。それよりも早くに王国に到着したとなると...作戦は失敗したと考えるべきか....。)」
「ゴホッ!.....ゴホッゴホッ!」
呼吸する事さえままならない。人目を避け王城内で唯一の安らぎの場所を確かめながら忌々しく怒りを覚える。自身の希望を絶たれた事への憂さ晴らしか、日に日に衰弱していく身体を感じたからか、今のナラルル王にはそれすらも最早分からない。
「......。必ず、必ず。私は生きねばならない。まだ....まだ、死ぬ訳には.....」
異常な迄な生の執着、彼を突き動かすものは一体。
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「....。視られてるな。」
「私が合図した時からずっとよ....。<周囲索敵>を発動してなかったら気付けなかった、全く気配を感じない....。」
俺達は平静を装いながら小声で会話をしていた。出来るだけ人通りが多い道を歩き、あくまで何も気付いていないフリをする。
「俺もティルベーアに言われて初めて気付いたよ。意識しなければ絶対に気付けない....確実に本物だ。」
「意識すれば気付けるイフルールも十分凄いわよ。私とパウルは言われても全く感じれないんだもん....。」
「我ながら情けない....。が、ティルとイフルールのお陰で警戒は出来る。それに相手がかなりの強敵である事も分かった。」
殺意や敵意は一切感じない。視られている、という感覚だけが身体に突き刺さり気色悪さを沸き立てる。
視線の主が何者かは分からないが、俺達を狙う刺客なのは間違いないだろう。監視兼伝達係の線も考えられたが、此方からは近付けない雰囲気からその可能性は無いと判断した。ただの監視係なら気配を消し、回り込んで情報を吐かせようと思ったのだが、其れは不可能だと言うことが嫌という程に分かる。
「でもこれじゃあ、落ち着いてご飯も食べれないじゃない」
「「「たしかに.....」」」
ルルレットのボヤキにも似たその言葉に3人の声が重なる。それに、今はただ視られているだけだが何時目的が変わって襲ってくるかも分からない。
解けない緊張の中、俺達は出来うる限り普段通りを装いながら街の喧騒へと身を投じていく。人混みの中、減り始めたお腹を満たす為に視線を感じながらも夜食を取るべく店の中へと入って行くのだった。




