ナラルル王国へ⑦ 〜襲撃〜
「.......。結局、ご飯を食べてる最中もずっと視られていたわね。」
夜食を摂り終えた俺達は今日泊まる宿へと帰ってきていた。ティルベーアの言う通り食事中も、そして今も尚続いている視線を感じながら。
楽しい食事の筈が、普段通りを装うという演技にも似た状況の所為で心から楽しむ事が出来なかった俺達は不機嫌気味になりながら部屋へと戻ってきた。特に気配や魔法で存在を感じている俺とティルベーアは気が散ってしょうがない。
「今もまだ居るのか?」
「ええ。この宿には居ないけど近くには潜んでいるわ。でも、私の魔法に気付いたのか正確な位置までは分からない。イフルールはどう?」
「うん、視線は感じるけどティルベーアと一緒で何処から視られているかは検討もつかないよ。」
「そもそもティルの<周囲索敵>を誤魔化すなんて、そんな事できるものなの?」
「何かしらの魔法か魔導具でしょうけど....。私の」<周囲索敵>も万能じゃないから.....。」
「それだけ、相手も手練と言うことだな。この会話も聞かれてはいないだろうか」
「流石に会話まで聞かれてたらお手上げね。」
会話の流れを切らぬようにお茶を用意した俺は皆に飲むように促す。<心労緩和>を自分含めた全員に掛け一度心を落ち着かせる時間を作るために。
「ありがとうイフルール。.....ふぅ〜、少し落ち着かなければな。」
全員でお茶を飲みながら一息つく。少し間が空き<心労緩和>の効果も有り緩やかで穏やかな時間が流れる。
だが、それも束の間。先に異変に気が付いたのは俺の方だった。腰掛けていた椅子から立ち上がり気配のしていた方向を見詰めながら窓に近付く。続いてティルベーアがお茶を置き直ぐさま立ち上がり俺の隣へと駆け寄ってくる。
「ど、どうしたの?2人とも」
「何があった!」
「気配が消えた、視線と一緒に.....。」
「うん、気を抜いた一瞬を突かれた...。」
丸で初めから何も無かった、居なかった。そう思わされる程に自然と居なくなった気配に少しの恐怖を覚える。
Aランクパーティである俺達【戦擊の妖精】は生半可の冒険者では無い。パウル・ルルレット・ティルベーアの3人は特にAランク冒険者の中でも有数の実力を持っている。
中でも魔法に長けているティルベーアや気配察知に敏感な俺が、気配が消えるまで全く気付け無かった。それは監視していた人間がその分野に於いての専門家である事を示している。
「.......。もしかしたら王国、ひいては王家が関わっている可能性も考えられるな。」
「うん俺もそう思う。本物だとは思っていたけど、まさかここまでなんて。王国や誰かに依頼された暗殺者の可能性もまだ有るけど、下手をすれば......。」
「【常闇の月光】.....。」
「!!!!!」「!!!!!」
「うん、噂が本当だとするならだけど....。俺もティルべーアと同じ事を思った。」
驚きを隠せないパウルとルルレット。2人の言いたい事は分かる。都市伝説にも似たある噂、存在しているのかしていないのか『ナラルル王国』に伝わる秘密部隊それが【常闇の月光】である。
「そ、それって!...。ただの噂じゃ無いって事?」
「あくまで可能性....、でも....。」
「まさか、そんな事が....。」
消えていた緊張感が一気に戻ってくる。張り詰めた空気の中自分達しか居ない筈の部屋なのに落ち着く事が出来ずより一層、強い警戒が走る。
「『龍』に【常闇の月光】、一体この国で何が起きようとしているんだ...。」
「イフルールが狙われたのが『龍』関係なら、クソ商人の言っていた事も納得いくわね。やっぱり王家が関わってると考えた方が良いかも────」
「中々に勘が鋭いな、流石はAランク冒険者と言ったところか?」
「「「「!!!!!!」」」」
聞き覚えのない声が聞こえた瞬間、気配を察知した俺は其の方向に飛び込む。少し反応が遅れた為、攻撃は避けられてしまうがお陰で全員の戦闘態勢は整った。
「反応も良いな〜。だが、そんなんじゃ俺はやれないぜ?」
「貴様、何者だ....。いや、それよりもどうやって此処に」
「もう俺達の正体には気付いてるんだろ?こっちのお得意様から話は聞いていたけど、一筋縄ではいかなそうだな〜?【戦擊の妖精】」
飄々とした態度に余裕を見せるその男は全身を黒く染め深く被ったローブの所為で顔もまともに見れない。
「やっぱり、【常闇の月光】なの」
「ご名答!!凄いなお前達、少ない情報と勘だけで良く俺達の存在に気が付いた!!殆ど存在を知られていない筈なのにも関わらずだ!どうだ?今ならその男を差し出せば女3人は何事もなくこの国に滞在を許し出国も自由にさせてやるぞ?」
「愚問だな。」
「そうか、それは残念だなぁ〜。雇い主は男だけ連れて来いって話だったし....。まぁ、しょうがないか生死は問われてないし全員殺しても問題ないだろ」
その言葉が嘘では無いと理解できる。しかし、ここである疑問が浮かぶ。
「なんでイフルールだけなの?何が狙い?」
「うん?それは俺も知らないが....、まぁ、何でも若い男の体が良いらしいぜ?」
そう言いながら男は身振り手振りをユラユラと揺らしながら踊るようにして俺を手招きしてきた。
「.....ッ!此奴!!」
「どうした ティル!!!」
「おうおう〜!俺の結界魔法にまで気付くなんてなぁ〜。ま、気付かれた所で対処なんて出来ないけど」
話に夢中になっている隙に部屋の中に結界魔法を張られたらしい。外界と完璧に切り離された空間はこの部屋で起きる損害や騒音を漏らさない。
キッン!!!
音が先か飛んできた刃物が俺の頬を掠めた。咄嗟に意識と目線が背後に飛んで行った刃物に向かう中、その意識の外を突いて差し迫る男の気配を強烈に感じる。
叫び声が聞こえるよりも反射的に身体を屈めた。少しでも遅ければ首を跳ねられている軌道で振り払われた男に向かいパウルが思い切りかかる。
ガギンッ!!
「!!!!」
口に咥えた刃物でパウルの攻撃を止める。体勢を整えるよりも先に踏みつけにされる俺と男の横腹を的確に撃ち抜くルルレットに後ろで魔法を準備するティルベーア。
「<身体強化> <自然治癒> <持久力強化> <範囲付与>........」
直前で速度が上がったルルレットの拳をいとも簡単に交わした男は体を捻りながら俺の背中の上で回った。パウルの斬撃が再び手に持つ刃物によって防がれるとティルベーアの魔法が飛んでくる。
「ふぉっわ!!!」
的確に放たれたティルベーアの魔法のお陰で一旦距離をとった男。その隙に体勢を立て直す俺達は再び陣形を整える。
「良いコンビネーションだ!!」
相手が見せた一息の隙を見逃す事なく距離を詰めるパウル。その攻撃をいとも容易く避けた男にルルレットの追撃が襲いかかるも、それもまた防がれてしまう。
「よしっ!!」
掛け声と共に徐ろに武器を直し始めた男は戦闘態勢を解くかの様に敵意を抑えていく。
「なんの真似だ?」
「お前達の実力はある程度分かった!俺では押し切れないだろう、流石はAランク冒険者と言ったところか。なら────」
パリンッッ!!!
「「「「!!!!!!!」」」」
硝子が忘れた様な音が響き渡った瞬間、左肩に衝撃と熱さを感じる。その時に既には後方に吹き飛ばされた後であり背中を壁面に強打する。
「ぐっあぁぁ!!!!」
「イフルール!!!」
「油断っ!!!」
苛烈な戦闘の間に結界魔法の一部分だけに綻びを入れ外部からの攻撃を受け入れさせた。それにより一部崩壊した結界魔法をティルベーアは見逃さない。だが、男もまた油断したルルレットの隙を見逃すことは無い。
ガキンッン!!!
ガキンガキン!!
男の刃物がルルレットの腕に届くかと思われたギリギリの所でパウルが男を吹き飛ばす。
「ちっ!!!だが、まだま────」
「いえ、時間切れよ」
「なっ!!!」
吹き飛ばされた男はそのまま外へと放り出される。ティルベーアが隙をついて崩壊させた結界は次の瞬間には再構築を始める。
「貴方の結界魔法...よく出来てる。参考にさせてもらったわ。」
「俺の結界を自己流に改変して新たな魔法を作るか.....。これは思ったより厄介な相手に目をつけられたもんだな。」
「それは此方の台詞だ。」
「ふん。まぁ良い。俺達が居る限りお前らは王国を出る事も出来なければ好き勝手動く事もできまい。精々死の時間を先延ばしにするんだな」
こうして一度目の襲撃を終えた俺達はティルベーアが張った結界魔法が展開された後、泥のように眠るのだった。




