ナラルル王国へ⑤ 〜救出〜
揺れる馬車が急停止するその反動で再び目を覚ます。強い衝撃が頭に走り身体も荷台の中で大きく転がる。拘束されている為動く事が出来ず、寝惚ける暇もなく覚醒した意識は状況の整理・判断へと勝手に切り替わっていく。
「なんだなんた!!何が起こってるんだ!いや、というより何故お前らがここに居るんだ!」
外から初めて声が聞こえる。男の声で発せられた怒りにも似た焦りの色が今の状況を鮮明に物語っていた。恐らく此奴が俺を連れ去ろうとしている人間だろう。そして、外に居るのは救助にきた冒険者か何かで追いついて来た事に驚いているのだろうと。
「フンッ!私達を甘く見ない事ね!!」
そして次に発せられた声に俺までもが驚ろかされる事になる。聞き覚えの有るその堂々とした口調は正に俺の知るその人、それに気が付けば3人の気配を勘付くのに時間は掛からない。
「イフルールを連れ去ろうとした事、死んでも償えんぞ?」
「アナタ達が何者で一体何をしようとしているのか、洗いざらい吐いてもらうわよ」
ルルレットの声が聞こえたかと思えば次にパウル、ティルベーアと続けざまに声が聞こえる。怒気が混じり深く恐怖を彷彿とさせるその雰囲気は姿が見えなくても容易に頭にに浮かぶ。
「や、やめてくれ!ま、まてぇぇ!!!」
ゴギャ!ドギャ!グチャ!ベチャ!ゴギィ!
酷く鈍い音が馬車の荷台にまで響き渡る。苦しむ声が次第に消え入り呻きに変わっていく。しかし、殴打の音は止む事なく暫くの間続いた。
「..........」
「ちょっとルル!これはやり過ぎよ!此奴まともに話せないじゃない!」
「し、しかたないでしょ!コイツの顔ムカつくんだから!」
「2人ともそれよりイフルールだ、早く助けよう」
声が少し通さがったと思えば段々と気配が近付いて来るのが分かる。バサッと音を立てて荷台の中へ入ってくると俺の名前を呼びながら足早に駆け寄って来た。
「イフルール!!無事か!大丈夫か!」
「もう!心配したんだから!!」
手足の拘束をティルベーアに解除して貰い頭の被せを取られる。視界が晴れ自由となった身体を噛み締めつつ飛び込んでくる3人を受け止める。
「みんな、助けに来てくれてありがとう!」
「イフルール!何があったんだ?」
「実は....」かくかくしかじか
俺はセスレナの冒険者ギルドで3人と別れた後に起きた、事の顛末を説明した。険しく歪む顔に宥めを入れつつ自分の不注意である事を改めて謝罪し感謝を述べる。
俺が連れ去られた後、想像していた嫌な予感は的中したようだ。冒険者ギルドの上役である人物から洗脳・服従の魔導具を使用され危うく操り人形にされかけたらしい。
「そんな事が...。皆は大丈夫?身体や、どこかに違和感とか変なとこはない?」
「うん!イフルールが渡してくれたお守りが魔導具の効果を弾き返したの!そのお陰で私達は今ここに居る!」
「うむ!正に【戦擊の妖精】パーティの勝利と言うやつだ!」
「あのキモい奴なら安心して、半殺しにしてきたから」
「お、おい おい」
場の空気が一気に和み緩んでいく。緊張の糸が切れた俺は少し安心したのか立ち上がりざまにふとふらついてしまう。身体を支えられ蹌踉ける足元を立て直しながらもう一度意識をハッキリ保つ。
「大丈夫か?イフルール?」
「うん、ごめんパウル。ありがとう...大丈夫」
頭を左右に振り目を覚まそうとするが後頭部の痛みを思い出す。
「ぐっ!!....」
「イフルール!<回復促進>!!」
ティルベーアの魔法に合わせ反射的に<自然治癒>を発動させる。魔法を使えた事から思った通り拘束魔法による弊害だったようだ。
「だ、だいじょうぶ?」
「....うん、ありがとうティルベーア、痛みが引いてきたよ。ルルレットもありがとう大丈夫になってきた...」
後頭部を摩り乍、はにかんだ笑顔で応える。心配が無いことを確認すると、手を引かれるままに荷台を降りた。
閉ざされた視界が世界と共に広がり駆けていく。青く遠く更に高く、透き通る様な空は点々とする雲さえ芸術に見えてくる。息を呑み呆然としているその時、パウルの声で我に返る。
「すぅ〜〜〜.....ふぅ〜〜〜」
深く息を吸い込みゆっくり静かに吐き出していく。空気を味わうよに匂いを嗅ぎ、正に生き返る様な感覚だ。
「世界よ....矢張り君は素晴らしい」
「イ、イフルールがおかしくなっちゃった!!」
「も、戻ってこい!イフルール!イフルール〜!」
「イフルールが居れば私は他に何も要らないわ」
「はっ!!....。おっと....思わず世界に入ってしまった....」
ティルベーアの一言で再び我に返った俺は皆と顔を見合せて思わず笑ってしまう。丸で一連の流れが全て決まっていたかの様なやり取りは助かった事をより実感させてくれる。
「よしっ!一息着いたら王国へ向かおう!この魔馬なら3日もあればスグだぞ!スグ!」
「え?なんて?....。え?魔馬?」
驚きの連続で処理が追いつかない。先ず、王国に向かうと言った...。うん、間違いなく。それと魔馬?何それ?え?
当たり前の様な顔でルルレットが連れるその魔馬と呼ぶに相応しい其れは馬型のモンスターだった。黒き体に鎧の様な皮膚を纏い顔を覆い隠す骨の様な衣は、言葉にするなら正に魔馬。
「うっわ....めちゃくちゃカッコイイじゃん何コイツ」
「だろう?イフルールも分かるか!コイツのカッコ良さが!」
「この子のお陰で速くイフルールに追いつく事が出来たのよ!」
バフフンッ!!!
返事でもしたかのような魔馬の誇らしげな表情は丸で人間のように思える。ここで、ほのぼのしそうな雰囲気を一度飲み込み次に王国に向かうと言った件について言及していく。
「だってどうせ行くつもりだったんだし...それに、私達【戦擊の妖精】の名前に泥を塗った挙句イフルールに手を出すなんて...王国ごとぶっ壊してやるわ!!」
「うむ、ルルレットの言う通りだ。腐った王国など斬り捨てて塵にしてしまえばいい」
「うん賛成、燃やし尽くしてやるわ」
「お...おう?」
拭えない疑問と強大な不安感を募らせ、促されるままに馬車こと魔馬車に乗り込んでいく。
「え?誰が魔馬を引くの?」
「イフルール...この子は賢いのだ。一人で目的地まで走ってくれる。」
「えー....。てか何処で借りてきたのこれ」
「『セスレナ』の冒険者ギルドマスターにキモオジを突き出した時に事情を説明したら無期限で貸してくれたの!!」
本当はギルドマスターの魔馬らしいが何故か皆好かれているらしく言う事を素直に聞くみたいだ。それに、人間の言葉を理解できる程に賢く大体の方角を言えば匂いで街の方向まで走ってくれるらしい。
「よし!では頼むぞ!」
バッフフーーン!!!
勢いよく走り出した魔馬に揺られながら俺達は王国へと向かう。この先に何が待ち受けているか想像も出来ずに。




