ナラルル王国④ 〜予感〜
「だから!私達は実際に全員が見ているんだ!あのクソ商人の所為で無駄な労力と時間も使わされた!なのに、なのに!何故!私達が依頼失敗の責務を負わねばならんのだ!」
冒険者ギルドのとある一室にてパウルの怒号が響き渡る。周りには血相を変えたルルレットとティルベーアがギルド職員に詰め寄り圧力を掛けている。
「い、いえ、しかし....。あの商人の方は【ナラルル王国】でしっかりと手続きや申請を通して許可を得ている方でして...。それに、念の為 前歴等もお調べしたところ変わった点も無く...。こちら側としまして判断致しかねる部分が多々有りまして...」
気まづそうに説明をするギルド職員に対して3人の表情は更に強みを増して鬼気迫る物に変わっていく。
「じゃあ!なんでイフルールだけ拘束・監禁なのよ!!意味も筋も通ってないじゃない!」
話は数分前に遡る。
冒険者ギルドに到着した俺達は護衛依頼の手続きをしてくれた受付嬢の所へ足を向け事情を説明した。人目が着く為、個室へと案内されたのだが 何故か俺と商人だけが別室へと連れて行かれた。
最初は商人を拘束する為の部屋まで持って行くだけだと思っていたのだが、その考えは直ぐに打ち砕かれる。
ゴツッ!!
「あがっ!!!!」
バタン
部屋に入った途端、後ろから後頭部を思い切り殴打され気を失ってしまう。消えかかる意識の中で2〜3人の話し声が微かに耳へと入ってくる。
「────────」
「────そいじゃ...」
「────『ナラルル王』────」
その言葉だけが何故か耳に纏わりついた。だが、離れる事のないその言葉を最後に俺は意識を完全に手放したのだった。
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そして時は先程のパウル達【戦擊の妖精】メンバーへと戻ってくる。ギルド職員を含めたこの場に居る人間にはイフルールは念の為、拘束・監禁されていると説明を受けている。
しかし、実際の所は商人と共に既に【セスレナ】の街を出発しており【ナラルル王国】に向かっている。その事を知る由もない3人は何故イフルールの処遇だけが厳しいのかと激しく問い詰めていた。
その時、部屋の扉が静かに開かれる。
ガチャ
「まぁ、まぁ、皆様、少し落ち着きください。イフルール様は無事ですから。しっかりと丁重に扱わせて頂いております故どうかご安心下さい。」
「......貴方は?」
見るからに胡散臭い格好に貼り付けた様な気味の悪い笑顔を浮かべた中年の男が部屋へと入ってくる。この時、3人の中で本能的な警鐘が鳴らされる。此奴は招かれざる客だと。
「君は職務に戻っていなさい。」
「は、はい!かしこまりました。失礼します。」
ギルド職員を外にだし扉を閉めさせると部屋の中には再び4人だけになる。しかし、先程までとは全く違う雰囲気が場を包み込む。
「そんなに警戒しないでくだされ....。まぁ、イフルール様の安否は保証致しますが、それは御三方の態度次第で────」
その瞬間、剣を抜いたのはパウルだった。確信にも似た何かを【戦擊の妖精】メンバーは感じ取る。それは、イフルールが既にこの冒険者ギルドに居ないという事と【セスレナ】の街に居ないという事だった。
しかし、その剣を抜いたのと殆ど同時にその男は懐から何かを取り出した。その動きを確認し距離を取ろうとしたルルレットとティルベーアだったが時既に遅し。淡白い光が部屋の中を包み込み3人の視界を一瞬にして奪った。
「くっっ!!」
「な、なによっ!!」
「こ、これはっ!!」
「さぁ皆様....。いえ、【戦擊の妖精】よ!貴方達は今日から私の物です!私の手となり足となり!その体の全てを持って私の為に尽くしなさい!!!」
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馬車の中に居ると確信出来たのは揺られる感覚に身覚えがあったからだ。顔は何かで覆い隠されており両手両足も拘束されているようだ。しかも、感覚的には縄ではなく魔法による拘束だ。
「(マズイな....。この状況を理解するのにも時間が欲しいのに....何がどうなって....)」
周囲に人の気配は感じない。どうやら今この場所には俺以外は居ないみたいだ。確認は出来ないが俺はゆっくりと深呼吸をし一度落ち着きを取り戻す。
大丈夫だとは思うが【戦擊の妖精】の皆も心配である。実力的には申し分ない上、お守りも渡しているが不安感は拭えない。
「(『ナラルル王』....。意識が途切れる前確かに聞いた。あの商人が言っていた「とんでもない事」とは其の事だったのだろう。でも、何で俺だけか拘束され誘拐されているのか....。それと、何故ナラルル王が『龍』の心臓を欲しているのか。クソッ分からない事だらけだ.....)」
グルグルと纏まらない思考の中、痛みを忘れていたかの様に後頭部の痛みが電撃の如く奔る。
ズキッ!
「ッッ....!」
咄嗟に魔法を発動しようと試みるが結果は無駄に終わる。恐らく拘束されている両手足の魔法の影響だろう。感じる痛みを抑える事も擦る事も出来ぬまま塞がれた視界の中で溜息を吐く。
只管に長く感じる時間の中、気が付けば再び眠りについてしまった。意識を手放したと気が付いたのは次に目を覚ましたその時だった。




