ナラルル王国③ 〜不穏〜
馬車を無くした俺達は一度【セスレナ】の街へと足を戻す事にした。邪魔な荷物を担ぎ上げ(商人)来た道を引き返しながら俺は聞こえた気がした声について考えていた。
パウルやルルレット、ティルベーアに聞いてみたが3人とも何も聞いていないと言っていた。俺も気の所為だと思っているのだが、何故かその事を考えずにはいられなかった。性別も声色も言葉も、何も思い出せないのに何故か頭の中で木霊する。
「どうしたのイフルール?そいつ重い?それとも体調悪い?」
心配そうに顔を除き込んできたルルレットに対して俺は少しの笑顔で返す。人の気配に気付かない程、考え事をしていたらしい。
「まだ出発して1日とはいえ、この道を徒歩で行くとなると流石に疲れるな....。ちっ、クソ商人め余計な事をしてくれたな」
パウルが怒り気味に商人を小突く。移動には重い為皆の装備は一旦俺の<収納袋>に仕舞ってある。軽くなったとはいえ距離が短くなる訳では無いので確かな疲労が蓄積していく。
「これで王国に行くまでの道程が伸びたわね....。まぁ、気長に行きましょ?今までの時間を取り戻すには十分すぎるくらいなんだし」
「確かにそうよね...。これも良い機会なのかも。さぁ!パウルもイフルールがこのお荷物背負ってくれてるんだから文句言わない!」
「そうだな、私達の荷物まで....。いつもありがとうイフルール。」
「いいよそんな事気にしなくて。さぁ!もう少しだけ頑張ろう!」
俺の言葉に皆が頷く。もう少し、というのは俺が勝手に決めた休憩地点だ。少し進んだ先に見晴らしの良い丘が有るので其処を目標に今は街道を行く。
「それにしても、あのモンスターは何だったんだろうね。」
話題が尽きた訳では無かったのだが、ふとティルベーアがそんな言葉を放った。歩き始めてから俺が声を聞いたと言う話以降初めて、出会った恐怖の象徴『龍』について触れてのだ。
「あれは....『龍』と称すべきモンスターだった。一目見ただけで本能がそう訴えかけてきた、あれは『龍』だと。」
「うん、私もパウルと同じ意見。伝承や御伽噺なんかで書かれた文章表現の一部だと思っていたけど、あれは『龍』と言う以外表現出来ないわね。」
「やっぱり2人もそう思う?私も同じ....。イフルールもそうよね?初めて見たのにあれが『龍』だって本能で、直感で理解できた。だけど、あの最後....」
光に包まれ、気が付けば其処には何もいなかった。『龍』の心臓と商人が言っていた謎の物体と共に姿を一瞬にして消したのだ。
勿論、考えなかった訳では決してない。しかし、俺はその事より聞こえた気がした声に意識を取られていた。逆に言えばルルレットとパウルは何を考えていたのだろうか。もしかするとティルベーアと同じく『龍』の事を考えて今のかもしれない。
だからこそ思うのだ。あの一瞬の出来事が嘘か誠か、夢だったのではないかと。だが、抱える商人と失なった馬車を思うとこれが現実だと言うことが嫌という程分かる。
「幻....夢だった様に思うよ。」
俺の言葉を最後にこの話題は一度持ち越しとなる。考えても纏まらない話に花を咲かせても意味が無いと分かっているから。それよりも楽しい話をしよう、これから何をするにも俺達は以前にも増して明るく伸び伸びと活動出来るのだから。
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「フフフッ....。やっと、やっとだ。もう少しで念願の『龍』の心臓が手に入る。そうすれば...私は...やっと、やっと....」
暗く光を閉ざした囲いの中、蝋燭の火だけがその場所を照らす。男は一人で歓喜の音頭に打ちひしがれる。齢という物に抗えずただ死を待つだけの存在。寧ろ死を望まれている存在ともいえる。
男は国王であった。しかし、生の執着から離れられず老骨に成り果て子々孫々から恨まれて尚 まだ生きながらえている。
「まだ、まだ死ぬ訳には....」
男の名は『ヴィンセント・デラージュ・ナラルル』
ナラルル王国の国王にしてこの世の摂理を捻じ曲げようと必死に踠き足掻く凡庸と思い込んでいる男なり。
今回【戦擊の妖精】が起こした騒動がこの先大きな波乱と事件を巻き起こす事を今はまだ誰も知らない。
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〜3日後〜
「や、やっと着いた....」
担ぎ上げている商人を思わず放り投げてしまいそうになる勢いを押し殺し【セスレナ】の街に到着した喜びを噛み締める。馬車で来た道を引き返すのに丸3日。<身体強化>を掛けつつ移動した日も合ったが思いの外時間が掛かってしまった。その主な原因は...
「は、はなせ!何度言ったら分かる!お前達はとんでもない事を...いいから離せ!」
「フンッ!!」
ゴッッ!!!
「────────」
とこの様に喚く商人を何度も殴って気絶させている訳なのだが。目覚めては喚き散らし暴れるを繰り返すお荷物を大人しくさせるのに結構な労力を使わされた。
正直、気にする程の事でも無いのだが 何度も何度も同じ事をさせられては鬱憤も溜まるというもの。パウルやルルレットは何度か本気で殴ろうとしたので、それを諌めるのにも体力を消耗した。
「はぁ〜〜!!やっと...やっと着いたぁ〜!早く湯水を浴びたいわ!着替えもしたいし....」
「ほんとうに....徒歩の旅ってこんなにしんどかったかしら....」
「兎に角、このクソ商人を冒険者ギルドに連れていこう。話はそこからだ....」
「そうだね、俺も早くこんな奴とオサラバしたい。」
疲れきり重くなった身体に鞭を打ち、再び歩き始めた一行の背中には少しの安堵が見えた。しかし、この安堵が束の間である事をこのとき誰も知る由もない。




