ナラルル王国へ①
「本当に今日までありがとうございました!」
大きく頭を下げて感謝の気持ちを伝える。【ウルリパの癒し】にて最後の挨拶と感謝の気持ちを言葉と品物にして従業員一同に送る。【セスレナ】では有名な甘味やお菓子、普段から使えそうな布や雑巾などの雑貨を纏めて全員に渡した。
「イフルールさん、また来てくださいね!また、会いに来てくださいね!絶対ですからね!」
涙ながらに手を交わし強く握られる。熱い眼差しと体温を感じながら大きく頷き別れの挨拶をすると手を振りながら【ウルリパの癒し】を、そして【セスレナ】の街を後にするのだった。
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【セスレナ】の街から【ナラルル王国】まで凡そ1週間程かかる。乗り合い馬車も出ているが冒険者ギルドにて出されていた王国までの護衛クエストを受注する事にした。商人が荷物を載せた馬車を引き俺達はその後ろで荷物と商人を守る。
「いやぁ〜Aランク冒険者に守って貰えるなんて安心も安心ですな! 【ナラルル王国】まで数日間よろしくお願いしますなぁ〜!」
「こちらこそ乗せて貰えて助かります。よろしくお願いします」
単調、あくまで事務的な返事を済ませたパウルは挨拶を終えたのかそのまま荷台へと乗り込んできた。俺の顔を見るや否や綻ばせたその表情は可愛い女の子、そのまま俺の上に対面で座ってくる。
「ちょっとパウル!」
「なんだ?2人が隣に居るから私は上を貰ったまでだ。イフルール、ダメだろうか?」
「ダメってか、聞く前に座ってんじゃん....」
なんの事だ?と言いたげに頭に疑問符を浮かべるが両隣の2人は見逃さない。俺は観念して受け入れているがティルベーアとルルレットは中々しつこく言い合っていた。
出発した馬車に揺られ言い合いを眺める事数十分。俺はもうウンザリといった感じに両手を強く手繰り寄せると腕を強く回し言葉を出さずにその無意味な会話を止めた。パウルにも煽らないように注意した所で丁度【セスレナ】の街を出た。軽い検問を済ませると愈々【ナラルル王国】へと馬車が進み出す。
「.....イフルール重くないか?」
「今更じゃない?それ....」
「う、うるさい!き、聞かないようにしてたんだ....」
正直、少しだけ足が痺れているがそれは口に出さない。だが俺は何も返す事はせずただティルベーアと目を見合わせるのだった。暫くの沈黙の後軽くパウルに小突かれるとその静かさは破られ笑いが起きる。
少し前ならこんな空気は有り得ない事だったが今では何故か普通に感じでしまう。緩やかに、しかし穏やかに流れる時間は少しづつ今までの失った物を取り戻すように動いていく。
ティルベーアの<周囲索敵>によりモンスターや生物の気配を的確に把握する事が出来る為、常に警戒心を持つ必要は無い。その事を商人にも伝えている為に依頼人も安心して道のりを進んでいく。
【ナラルル王国】までは平坦な道が多くモンスターや山賊等に襲われる事は滅多に無い。しかし、見渡しの良い場所だからこそ油断する商人や御者を狙う輩は一定数存在する。それに距離と日程もかかる為、野営や寝込みを襲ってくる場合も有る。その事を頭に入れつつも俺達4人の会話は留まるどころか段々と弾んでいった。
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日が高くなり始め少し小腹が空いてきたタイミングで商人から昼食休憩を提案され街道沿いの開けた平原に馬車を停めた。見晴らしも良く行き交う通行人を遠方から確認出来るので安心して昼食の準備をする。
「昼食の準備は私達がしますので、ごゆっくりお休みください。」
「おぉ!よろしいのですかな?ではお言葉に甘えて、」
商人を馬車で休ませその間にテキパキと準備を進める。準備といっても簡単な昼食、それにある程度の荷物は<収納袋>に入れている為、嵩張る事も手間取る事もなくほんの数分で全てを完了させた。
「おぉ!なんという手際の良さ!流石はAランクパーティですなぁ〜!!それに<収納袋>までお持ちとは!」
気持ちの良い風が吹き抜ける平原にて行われるのは昼食会。地面に大きく広げた敷物の上に座り、取り出した小さな籠から本日のメニューを置いていく。
「やったぁ〜!今日はイフルールのバンズニッチね!しかもこんなに沢山!」
「昨日の夜から何か仕込んでいるとは思っていたが、旅のお供と言えばイフルールのバンズニッチで決まりだな!早速、幸先が良いなぁ!」
「うんうん!ほんとにね!私これが1番大好きかも!」
(※バンズニッチ=サンドイッチ)
バンズニッチの登場により商人からの言葉は虚しくも掻き消されてしまう。苦笑を浮かべながらも俺の料理に興味があるのかあまり気にしていない様子だ。
そして大いに盛り上がる3人はもう既に待ちきれないと言わんばかりに俺の方を見詰めてくる。商人も誘い皆で輪になるように食事を囲むと、誰が食べ始めたのか忙しなく昼食が開始されるのだった。
「今日も、天気が良いなぁ〜」
手料理を美味しそうに食べる一同を眺め、俺はふと青すぎる空を見上げ小さく零した。これからの道中、何事も無く無事に【ナラルル王国】に到着する事を感じながら。




