【戦擊の妖精《ヴァルキュリア》】
「はい、イフルール あ〜ん♥」
「あ、あーん」
夜が明け、次の日の朝がやってきた。いつになく気持ちが晴れやかで自分でも驚くほど心は落ち着き凪でいた。
青空が眩しく光り、太陽も窓越しに顔を出す。そんな希望に満ちた一日の始まりな筈が....。
ベッドの横に椅子を並べ朝食を食べさせてくれるルルレットに困惑を覚えつつも潔く口を開く。ルルレットの隣には同じ様に椅子を並べたパウルとティルベーアが恨めしそうにルルレットを睨んでいる。
「むぅ.....。お昼ご飯は私が食べさせるからな!」
「夜ご飯は私だからね!ついでに体も綺麗にしてあげるから!」
「い、いやいや!体は本当に大丈夫だから!」
昨晩お互いの本音をぶつけ合い気持ちを確かめあった事で今までの反動が来たのか、皆の距離感を含めた言動や行動、其の全てが著しく変化していた。
先ずルルレット。今までは口を開けば罵詈雑言、顔を見合せれば何故か不機嫌になっていたのだが、今は無邪気な笑顔で楽しそうにご飯を食べさせてくれている。
初めての表情にドキマギし、この前とは違う意味で心臓がキュッとなる。
「えぇ〜なんでよぉ〜。ちゃんと隅々まで綺麗にしてあげるから、ね?」
ティルベーアに関しては 別人なのでは?と思ってしまうほどの変わりようだ。事ある毎に「気持ち悪い」と罵ってきたのに今では顔を少し赤らめながら上目遣いに見詰めてくる。
「イフルール...私は下の世話でもしようか?」
「いや、全然大丈夫だから!うん、なんか、ごめんね?こんな状態で、でも大丈夫だから....マジで」
パウルに至っては何故かこの調子。何かにつけては直ぐに下だ下だと、身動きが取れないのをいい事にズボンを下ろそうとしてくる。パウルは完全に別人だ、俺はそう思う事にした。
「ちょっと2人とも!イフルールが落ち着いて食べられ無いでしょ!全く....はい、イフルール あ〜ん♥」
「......どうしてこうなった?」
疑問符が浮かび頭を抱えたい気持ちになりつつも、俺はされるがままに朝食を食べ続けるのだった。
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「ふぅ〜〜〜....。」
溜息とは少し違う、落ち着く為の大きな息を吐き出した。朝食後、静けさを取り戻した部屋の中で一人昨日の事を思い返す。
「これからどうしようかな、、」
昨日の話し合いで皆の本音を聞いた。俺が好きな事、嫉妬してキツく当たってた事、優しさに甘えて歯止めが効かなくなっていたこと。考えれば考える程、意味が分からないが、そういう事らしい。
其の話し合いを経て、今の俺の一番の悩みは間違いなく今後についてだ。正直、今更【戦擊の妖精】に戻ろうとは思えないし、自らの意思で脱退した事には変わりない。しかし、皆には「もう一度やり直したい」「一緒に冒険したい!」と言われている。
だが、現状を考えれば このままソロで活動するのはあまりにも危険といえる。今回に関しては異常事態が発生した為仕方ないとも言えるが、全能力強制向上の使用後、毎回動けなくなってしまうのでは冒険者としては致命的すぎる。
一応、最後の最後の奥の手 本当にどうしようも無い時に限り使用するつもりではいるがソロで活動していけば使用頻度はパーティを組んでいるより遥かに多くなるだろう。
実際、【戦擊の妖精】に在籍していた頃は全能力強制向上を使った事は一度も無い。使いそうな場面も無かったほどだ。
勿論、【戦擊の妖精】の皆が強い というのも有る。各々がAランク最上位の強さを持っているのでパーティ単位になればその強さは相当なものだ。
一方で俺はAランク最下位、強さだけで言えばBランク上位と言ったところだろう。付与魔法が得意だった事で支援職として何とか【戦擊の妖精】でAランクまでいくことが出来たが他のパーティだったら怪しいかったかもしれない。
そう、足を引っ張っていたのは事実なのだ。皆は「イフルールの付与魔法があったからAランクまで上がれた」と言ってくれたが、俺の場所は別に俺じゃなくても成立する 云わば替えのきく存在なのだ。
こう考えれば逆に何故 今までパーティから抜ける選択肢がなかったのかと思ってしまう。
俺は心のどこかで.....いや、俺は【戦擊の妖精】というパーティが好きだったんだ、紛れもなく。
一番最初に声を掛けてくれたパウルの事は今でもハッキリ鮮明に覚えている。Cランク時代に7回連続クエストに失敗し内3回は死にかけたあの時、ボロボロの身体で次のクエストを探していた時だった。
『君、一人かい?もしよければ私達のクエストに参加してくれないか?クエスト受注条件がパーティ4人以上らしくてな、私達のパーティは私を入れて3人だけなんだ。』
この時彼女らは既にBランクパーティだった。何故か受注したクエストがCランクで4人以上という条件があったのだがこれは俺に声を掛ける為の口実だったと昨日、告白された。
告白にも驚いたが、当時の俺にはパウルが女神にでも見えていた。絶望というよりは希望、天啓なのではと思う程自分の中では衝撃が走ったのを覚えている。
俺は「なぜ?」という疑問よりも先に自ら頭を下げ嘆願していた。
当時は本当に我武者羅で無我夢中、やれる事をやる日々、兎に角誘ってくれたパウルに、パーティに、報いようと必死だった。
そのお陰もあってか、こうして今はAランク冒険者としてやっている訳だが。
「......今のみんな となら もっと上を目指せるかもな」
ふと頭に過ぎるのは再出発した【戦擊の妖精】の未来の姿。本音をぶつけ合い、心の中を打ち明け全てをさらけ出した今の俺達なら。
こう考えてしまった時点で答えは決まっている。そう決まっているのだ。
「.......まだちょっと痛むな」
今朝みんなと話した時は痛みなんて感じてなかったなぁ そんな事を思う。ここ数日ですっかり見慣れてしまった天井を仰ぎ、これから始まる新たな冒険の予感に心を踊らせながら。




