第十七章:聖女の家庭の味、あるいは不殺の包囲網
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世界を消し去る恐怖の虚無の正体が、まさか聖女の「愛する旦那様」だったとは……。しかも、スマホの転移アプリで追いかけてくるという、現代的な執着心。不惑を過ぎた独身男には、少々刺激が強すぎる真実でした。 第17章は、キョムの残した「虚無の残り香」を追いながら、新たなバグに立ち向かう一行を描きます。歩花の意外な家庭的な一面と、俺の「不殺」がさらなる家畜を生むシュールな光景。どうぞ、温かい目で見守ってください。
1. 焚き火の告白:牧場の星空
「……ほら、歩花。そんなに落ち込むな。あいつの輪郭は、俺の物語で少しだけ安定したはずだ」
夜の街道、野営の焚き火を囲みながら、俺はスープの入った木皿を歩花に差し出した。 彼女は、キョムが消え去った夜空をずっと見上げていた。その横顔は、峻烈な聖女ではなく、夫の身を案じる一人の妻そのものだった。
「……ありがとうございます、タイガさん。キョムは、本当はとても臆病で、優しい人なんです。私が聖女として選ばれた時も、『君がいない世界なんて、データの塵と同じだ』って、泣いて私の足にしがみついて……」 「……想像してた虚無の化身像と、だいぶギャップがあるな」 俺は苦笑いした。不惑の独身作家には、その熱烈な愛が少し眩しすぎる。
「法華堂の牧場で、いつか生まれる子供たちの名前を百個も考えていたような人なんです。……だから、彼が虚無になってまで私を追ってきたのは、きっと、私を一人にしたくなかったから」 歩花はスープを一口啜り、ふっと微笑んだ。 「このスープ、あの人が作ったシチューの味に、少しだけ似ています」
「コケッ(……ケッ、やってられん。こっちはドラゴンから鶏に落とされたっていうのに、この空気は何だ)」 足元の黒鶏が、不機嫌そうに羽を膨らませる。 「お前は黙ってろ。……さて、キュア。1+1は?」 「……『ご馳走様』だよ、お兄ちゃん! 聖女様がデレ始めると、世界が平和に見えるね!」
2. 襲来する「欲」の群れ、あるいは牛への転生
翌朝、俺たちの平穏を破ったのは、街道を封鎖する数百人の重装歩兵団だった。 彼らは近隣の強欲な領主が差し向けた、私兵集団だ。 「聞いたぞ! この一行は、悪党を家畜に変えて村に配っていると! ならば、その魔力を我が軍のために使え! 逆らうなら、その女(聖女)ごと捕らえてやる!」
隊長らしき男が、下卑た笑いを浮かべて剣を抜く。 「……やれやれ。歩花、下がってろ。こいつらに『救世』の光を当てるのはもったいない」 俺は、白紙のノートを片手に、45歳の重い腰を上げた。
「お前ら、力で人を支配し、搾取するのが趣味か? ならば、これからは『人々に恵みを与える存在』として、一生を捧げてもらおうか」
俺の指先から、因果を書き換える「不殺」の奔流が放たれた。 「な、なんだこの光は!? 身体が……四足に……モォォォォッ!?」 数分後、そこには軍勢の姿はなく、毛並みの良い数百頭の「乳牛」が、のどかに草を食んでいた。
「……タイガ様! ありがとうございますだ!」 噂を聞きつけて集まっていた近隣の農民たちが、一斉に駆け寄ってくる。 「こんなにたくさんの牛がいれば、村は救われます! 毎日牛乳が飲めますだ!」
「……不殺の悪魔、万歳!」「おじさん神様、ありがとう!」 農民たちの感謝の声が響き渡る。 俺は意気軒高に、胸を張った。 「いいんだよ。こいつらは元々、他人の血を啜ってきた連中だ。これからは、美味い牛乳を出して、世の中に貢献しろ。……死なないだけ、感謝するんだな」
3. スマホの通知、あるいは夫の足跡
「……タイガさん、これを見てください」
歩花が、自分の法衣の懐から、一台のスマートフォンを取り出した。 それは、キョム……彼女の夫が持っていたはずのものだ。 画面には、奇妙なアプリが起動しており、そこには「キョム:現在地・北の忘却の都」という通知が表示されていた。
「……スマホのGPSで、夫を追跡してるのか?」 「はい。彼はまだ、安定していません。……急がないと、彼自身の『愛』の重さに耐えきれず、今度こそ、その存在が消滅してしまいます」
歩花の瞳に、強い決意の光が戻る。 「行きましょう、タイガさん。私の夫を……私たちの『家族の物語』を取り戻すために」
「……わかったよ。45歳の独身男が、夫婦の再会を手伝うってのも、なかなか皮肉な話だが……」 俺は、新しい『えびさビール』を一本開け、ぐいっと飲み干した。 「……キュア。1+1は?」 「……『ハッピーエンド』だよ、おじさん!」
不殺の創造主・タイガ。 聖女・歩花。 そして、スマホの通知を頼りに虚無を追う、奇妙な一行の旅。 物語は、世界を救う戦いから、一人の夫を救い出す「愛の救出劇」へと、その色彩を深めていく。
第17章、お読みいただきありがとうございました。 強欲な兵団を一瞬で「乳牛」に変え、農民たちに感謝されるタイガ。彼の「資源循環型・不殺」は、もはや一つの経済圏を作りつつあります。 そして、スマホを使って夫を追う歩花。ファンタジーと現代ガジェットが交錯する、この物語ならではの展開になってまいりました。 果たして、北の都で待つキョムは、無事に実体を取り戻せるのか。
【感想・高評価のお願い】 「45歳のおじさん、牛のブリーダーみたい(笑)」「歩花さんのスマホ追跡、親近感わく!」など、皆さまからの感想や高評価をお待ちしております。 皆さまの応援が、タイガの「胃薬代」と「ビール代」になります! (ぺこり)




