表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この心臓に愛を  作者: 竜花
孤独の心臓 -誕生-
PR
50/56

第50話 刻

『魔王の母親が逃亡した!』


 唐突に耳に飛び込んだデックスの声に、アンミは閉じていた瞼を持ち上げる。視線の先で、(あかり)に火をつけたタキと目が合った。


「どうやって? 魔王の母親は、砂漠の警備隊が厳重に監視してただろ」

『詳しいことはわからない。今警備隊が必死に捜索してる』

「騎士団は?」

『多少動いてはいるけど、警備隊が主力みたいだね』


 処刑を自ら見届けるために、国王は今砂漠に来ている。護衛を手薄にするわけにはいかない。王城にも騎士は残っているはずだが、そちらはそちらで王が留守の間に攻められたら困る。騎士団の出せる戦力は限られている。


「警備隊はどこら辺を捜してる?」

『国中に分散してる。魔術で逃げたのを追ってるのかな』

「……いや、だとしても逃げ切れるはずがない」


 魔術の形跡は、砂漠の民ならば容易に辿れる。そして身篭った肉体では、魔術を使わずに遠くへ逃げることは不可能。無駄な足掻きだ。きっとすぐに捕まる。

 ――でも。


「タキ。イクタのところに行って、ここを中心に結界を張って拠点を作るよう頼んでほしい。中級魔族二体分の魂を要求されるから、森のシーモン二体って言って。んで、今各地にいるレベリオのみんなを拠点に呼べ」

「え、今!?」

「警備隊が出回ってんだよ。何かの拍子に見つかったら困る」


 それに。警備隊が国中の魔術の跡を追っているのなら、それを攪乱すれば母親を逃がすことにも繋がるかもしれない。しかもこちらの行く先は強固な術によって隠された場所。見つかるリスクも少ない。

 そして、それだけでは足りない。アンミは立ち上がって焚火を囲う仲間に声を掛けた。


「トラ。砂漠の民の集落行くぞ」

「えっ? 集落は今騎士団がいるんじゃ……」

「だから、変身術が上手いトラに来てほしい」


 意図を理解したトラは、口を堅く結んで頷いた。アンミは変身術を纏い、その上からマントを羽織って頭を覆った。トラも同様にして姿を隠す。

 薪の周りを囲っていた仲間たちに「行ってくる」と告げた。どの顔も強張っているのが見てわかる。その中で、一番がちがちに固まっていた顔に目を留める。

 刻印のように地面に描かれた蘇生陣のすぐ隣で、医学書を握りしめている、ラード。ここのところずっとそればかり見つめている。脳に刻みつけるように、同じページを何度も何度も。背後から覗けば、そこには人間の赤子の解剖図が描かれているのがわかる。たまにページを捲ったと思えば今度は大人の人間の解剖図。真面目なところは感心するが……。


「お前は、休んどけ」


 それだけ、告げる。それ以上何かを言うべきではないと思った。余計なプレッシャーをかけてしまう気がした。だが、ラードはその強張った顔のまま、真っ直ぐにアンミを見据えた。


「待ってます」


 いつでも行けます、とその目が言った。それで十分だった。

 アンミはトラと顔を見合わせ、頷き、転送魔法を各自施した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ