第42話 波紋
「じゃ、俺はこいつらと砂漠に行く。お前は、残るメンバーの取りまとめよろしく」
洞窟の入り口で、リブに告げる。リブは落ち着いた様子で「気を付けて」と頷いた。
砂漠へ行く面々は、タキやラード含む数人に絞った。使える魔法などを考慮すると自警団の主要メンバーを引かざるを得ず、残るメンバーに対しては不安が残る。戦力は十分でも、リーダーとなる立ち位置がいない。だが、そもそもカンがいない時点で不足しているようなものだと、無理やり妥協した。
外に出ようとしたところで、海の民の男が一人、慌てた様子で飛び込んできた。
「今出るのは危険です! 集落に、騎士団が来ています」
随分と早い。アンミは小さく舌打ちを漏らし、洞窟の奥の方へ招き入れる。
「騎士団はなんて言ってる?」
「まだ疑われている段階で、確たる証拠はないようです」
「メア殿は?」
「上手くかわしていますよ」
彼はどこまで庇ってくれるだろう? いつ切り捨てられてしまうだろう? 彼の第一優先は当然、海の民なのだから。こちらの考えを見透かしたかのように、男は「大丈夫です」と続けた。
「族長は心配ないでしょう。それより、ウィルが心配です」
「ウィル? なんで?」
男の言葉に、眉を顰める。彼が何かやらかしたのか。
「どうやらハピのところに騎士団の聴取が入ったようで。その関係で、今こっちにいるウィルのところに騎士団が来たようですね」
ハピ、か。彼女は今、遠い城下町におり、連絡がなかなかできない。レベリオ側としては城下町に立ち入るのも今は危険。何を聞かれどう答えたか、洗いざらい聞き出したいところなのだが。
「仕方がない。少し待とう」
騎士団が去って、状況がいくらかはっきりするまで。その間も、次のことを考えねばならない。あらゆる可能性を考慮して、安全のために。
――だが。先日フェルスに浴びせられた言葉が、頭の片隅に棘のように刺さったまま、思考を遮った。タスカならこの状況でももっと上手くやっただろうか。タスカがまだ生きていたなら、カンがいなくなることもなかったのだろうか。考えたって意味がない。時間と労力の無駄。わかってる。わかっているのに。靄のように頭の中を曇らせては、だらだらと考えるだけの時間が続いた。
どれくらい経っただろうか。そう長くはなかったはずだ。一度洞窟を出ていった海の民の男が、再び戻ってきてアンミたちに告げたのだった。
「ウィルが、捕まりました」
傍で聞いていたラードが、「え」と小さく呟いたのが聞こえた。
「ハピが一度偽のレベリオに攫われたんですよね? その救出をしたのが本物のレベリオだったことが、騎士団に伝わったようで。ウィルがレベリオに協力を依頼したのではと疑われて、今なお繋がっている可能性があるとのことで、連行されました」
「証拠が出たわけではないよな?」
「はい。疑いが晴れれば解放されるはずです」
なら、アンミの出る幕ではない。ウィルが口を割らない限りは、証言が引き出されるようなことはないはず。正義の執行者である騎士団は、容疑者を拷問するような真似はできないのだから。
「じゃあ、砂漠行くか」
アンミが振り返ると、砂漠に行く面々が揃って大口を開けて、悲鳴を上げるように息を呑んだ。
「嘘でしょ、放っておくの?」
その中でタキが一言発したが、アンミにはその驚きの理由がわからなかった。
「逆に聞くけど、俺らにできることがあるのかよ? 粘って隠れ続けて、諦めてくれるのを待つしかない」
「そうだけど……」
「何なら、俺らが砂漠の方で活動してれば、レベリオはこの近くにはいないんだって思ってくれるかもな?」
各々が顔を見合わせる。不安そうな顔をしているが、反論は出てこない。
「ほら、行ける奴から行け」
アンミがそう言えば、次々と姿を消していく。皆、理屈ではわかっているはずなのだ。決断する勇気がないだけ。心配する感情が邪魔しているだけ。あらかたいなくなった後には、ラードだけが一人俯いて立ち尽くしていた。
またか、と思った。
「ラードも。行くぞ」
ごねる子供の手を引く親にでもなった気持ちだ。置いていけるなら置いていきたいのに、彼が作戦の要となってしまったがために連れて行かざるを得ない。感情に浸るのは後にしてほしい。
もう一度名前を呼ぼうとしたところで、ラードがふと顔を上げた。
見慣れた深緑の瞳。そこに、曇りはなかった。
「すみません。僕は後から行くんで、アンミさん先行っててください」
「は?」
そう言うや否や、ラードも姿を消した。いやでも、彼の言葉通りなら砂漠には向かわなかったということだ。じゃあ、どこに?
「悪いタキ、俺とラードは後から行く。拠点で待機してて」
『え!? わかったけど……』
一言連絡だけ通して、ラードが行きそうな場所を思い浮かべる。
――まさか、城下町?
アンミは変身術を纏って、慌てて飛び出した。




