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第十七話 蠅をぶち殺したくなったら・1

「じゃ、わたしはこれで」

 と言って千鶴はそのまま立ち去ろうとした。無駄足だった、と言わんばかりに。

「ちょっと待って」

 志郎は彼女に声をかける。千鶴は面倒臭そうに後ろを振り返った。

「なに?」

「雨宮さんの話を聞きたいんだ」

 うんざりしたように千鶴は言う。

「あなた、咲の居場所知らないんでしょ」

「でも、一時期付き合ってたんだ」

 千鶴も汐理もびっくりした。

「志郎先生、咲先輩と?」

「はい」志郎はうなずく。「ほんのちょっとだったんですが」

「……」

 そういえばいつか志郎に彼女ができたという話を聞いた。いつの間にか話さなくなっていたのでこれは別れてしまったのだろうと思い汐理は追及しなかったのである。

 青ざめる汐理をよそに、千鶴が再び志郎のもとへとやってくる。

「別れたの」

「いえ。いなくなってしまって」

「そう。それでいま、どこにいるのかは知らないのよね」

「––––」

「それなら、やっぱりあなたに用はない」

「僕はあるんだ」と、志郎は前のめりになる。「彼女のことを知りたいんだ。いつの間にかいなくなってしまって、僕自身わからないことばっかりで」

「なにを知りたいの?」

「……」

 咲のなにを知りたいか。なぜあんな超現実的な現象が起こったのか。なぜ消滅をしたのか。そして––––昼下がりの魔女といかなる関係があったのか。しかしいずれにしても普通の人間に理解できる内容ではない。だから、志郎は口籠もってしまった。

「別れた彼女のことを知りたいっていうのは悪趣味じゃないの」

 志郎は思う。

 汐理も、千鶴も––––もしも千絵となにか関わりがあるのだとしたら。

「雨宮さんの周りになにか不思議なことが起こったりしたことはないかな」

 しばしの沈黙が二人に走る。

「不思議なことって?」と、千鶴。

「なんというか––––超能力的な」

「あなた、咲に()()()()()()()

 なにか含むところがある。

「いえ、別になにも」

「そう」

 しかしさっきまでのぶっきらぼうな態度とは打って変わって千鶴は志郎にいくらかの興味を持ったようだった。

「なにを知りたいの?」

 と、千鶴は志郎に改めて訊ねた。

 志郎は決意した。

「彼女は消滅したんだ」

 沈黙。

「––––消滅」

 千鶴は目を伏せた。

 だが、やがて顔を上げる。

「……わかった。わたしに話せることなら話してあげる」

「ありがとう」

「汐理も来て」

「あたしは」と、汐理はたじろいだ。「あたしは、別に、なにも––––」

「あなたの話もしなきゃいけないんだから、わたしが勝手にあなたのことを話すのは面白くないんじゃないの」

「……」

「いいよね」

 汐理は承諾するしかなかった。はい、と、うなずく。

「じゃあ、こっちに」

 そう言って志郎は二人を音楽室に誘導した。総一朗にLINEをし、知り合いと話があるから音楽室を使いたいと打った。すぐさま返信が来て、わかった、とだけ書かれていた。

 やっぱり親友だ、と、志郎は総一朗に感謝した。

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