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第十六話 少年時代・1

「さて、というわけで来週の今日が学園祭ということだが」

「りつきに家の地下スタジオを使わせてもらって感謝してるよ」

「いや、オレも同世代と合わせられて嬉しいよ。それにしても志郎、たった一週間で最低限のベースプレイができるようになるとは凄まじい学習能力だ」

「おかげさまで」

「志郎は飲み込み早いもん」

「ありがと総ちゃん」

「それで曲目も曲順も決まったわけだが、総はいいんだな? 自分の曲じゃなくて」

「うん。まだ作り込みしなきゃいけないし」

「そんなんじゃプロにはなれんな」

「え、なんで?」

「テレビとかライヴとかで思わない? この歌唱力でステージに立つのか!? みたいな酷い音痴のプロ」

「ああ、それは割とよく思うよ。調子悪いとか、生歌が苦手なんだろうなとか、そういう風に思うけど」

「結局そういう度胸がなきゃプロにはなれんよ。おれは音痴だから、ヴォイストレーニングで一から鍛えて、ある程度歌えるようになってから活動しよう、なんてやつにそもそも才能はない」

「うう……それはなんか俺に言われてるようだ」

「バカかお前。お前に言ってるんだよ、文脈を読み取れ」

「でもやっぱ、いまの俺の曲じゃとても戦えないって、どうしても思っちゃうよ」

「でかい図体の割にはなかなかメンタルが弱いな。会場が白けるとかそんなこといちいち気にするな」

「うう……気にするよ……」

「そんなことより気にしなきゃならんことは山ほどあると思うがな、プロを目指すなら」

「まあ総ちゃんのパワーアップは今後の案件として、それより学園祭のことを話そう」

「志郎のこれからの予定は?」

「このまま練習できるよ」

「明日は?」

「明日は昼間に一人。だからそのあとからなら来れる」

「そうか。働き者だ」

「生活がかかってるからね。でも仕事自体が楽しいから」

「なるほど。ま、とにかく明日も合わせよう」

「そうだね。月曜日から放課後音楽室で、一時間ほどしかできなくて申し訳ないけど」

「了解。じゃ、ガッツリ練習できるのは明日までだな」

「あー、でもようやくバンドができる〜。スリーピースずっと憧れてたんだよな〜。あとキーボードがいれば俺の夢が叶うんだけど今回は今回でめちゃくちゃ嬉しいよ俺」

「そうだね。僕もベースが弾けるようになってきたし、本格的にバンドができるのは楽しみだ」

「とにかく総はギター・ヴォーカルだからな。どっちも頑張れ」

「おう!」

 土曜日。志郎たちはりつきの家の地下スタジオで練習していた。自宅にかなりの設備が整った地下スタジオがあるとは伊集院家はなかなかの富豪のようだと二人は感嘆していた。金持ちだとは聞いていたが、そもそも伊集院家自体が巨大だったし、これは伊集院一族は歴史的にどんな悪さをしてきたのであろうと志郎はりつきに改めて興味を抱いた。

 今日になって曲目も曲順も決まり、あとは細かい修正作業をするだけである。

 志郎はりつきからフェンダー・プレシジョンベースを貰い受け時間のあるときにひたすら練習していた。志郎としては借りるだけのつもりだったのだが、りつきが初めて志郎のベースプレイを聴いたときにそのままやると言われたのでいまでは自分の楽器である。志郎の人生において演奏という点で未知の楽器だったが、圧倒的な学習能力によってたった一週間で最低限のことができるようになっている。それが総一朗には嬉しくもあり、羨ましくもあるところであることは志郎にはわかっていたが、りつきと出会ってから志郎は総一朗に対してなかなか気楽に接することができるようになっていたため、その羨望に憎悪の念がないことがわかっているからこそ、特に気に留めないことにしている。

 いや、これまでも気楽に接してはいたのだが、どこか無理をしていた、というのはあったと思う。最近になって総一朗に対しての扱いがちょっと杜撰になってきている自分に気づいておりそれが志郎にはあまりよくない傾向なのではないかと思っていたのだが、当の総一朗からすればその態度が嬉しくて嬉しくて仕方がないようだった。これでようやくちゃんとした親友になれた、と思っていた。それだけこれまでの志郎は総一朗に対する決定的な配慮で満ちていたのである。

 志郎からすれば他人を配慮することは当然のことだったし、それにしたって他の友人知人たちに対する配慮と比べればそれほど重く考えていないつもりだった。しかし、総一朗にとってはずっともっとのんびりと接してほしいと思っていたのだ。先日そんな話を総一朗にしたら、総一朗は「俺たちの絆がどんどん深まってきてる証拠だ」と喜ぶばかりであったので、志郎は柔らかく微笑んでいた。

 ちなみに校内での総一朗と志郎とのBL疑惑は復活していたが、これまでの腐女子たちの妄想とはちょっと種類が違っていることも気づいていた。その件に関してはどうでもよかったし、別に自分たちは付き合っているわけではないのに困るな、と思っていたが、しかしどうでもいいことではあった。どうせ腐女子は男友達同士という関係があればなんでも妄想の材料にしてしまうのだから、と思うようにしていた。事実、いまではりつきを混ぜたトリオの妄想が彼女たちの中では捗っているようだった。しかしそれもこれも当事者志郎たちにとってはどうでもいいことである。

 志郎たちは再び練習を始めた。

 来週の今日、いよいよ待ちに待った学園祭である。それは高校最後の学園祭である。それもあって、特に総一朗の熱気が凄かった。ちょっとテンションが高すぎるんじゃないか、と、志郎とりつきはなぜだか少し不安だった。

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