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第十四話 木もれ日の結晶・6

「––––なるほど。念動力(テレキネシス)ね」

「あと、主に残留思念感応能力と精神操作能力がある。他にもいろいろ」

「サイコメトリーとヒュプノシスか」

「ずいぶん詳しいね」

「読書が趣味なもんでな」

「理解が早くて助かるよ。でも」

 小石を宙に浮かせてみせたのだが、りつきはふんふんと興味深くうなずき続けるばかりだった。

 志郎は恐る恐る訊ねた。

「りつき、驚かないの?」

「世の中は多様だからな。それにオレ、不思議なものとか好きだし」

 あっけらかんとそう言うりつきに二人の方が驚いた。

 りつきは続けた。

「オレとしては、志郎の力っていうのも、現代科学では説明できない力、に過ぎないんだろうなと思う」

「僕もそう思う」

 志郎は、大きくうなずいた。

 いま三人は木漏れ日の降り注ぐ木の下のベンチに並んで座っていた。志郎は真ん中に座っている。

 なんだかりつきと、そして総一朗とも、ものすごく仲良くなれたような気がしていた。

「僕は世の中がそんなにファンタジックにはできていないっていう風に思ってるんだよね」

「同意だな。現実はリアルだ」

「たまたま僕のチャンネルが他の人たちとは異なるチャンネルに合わさってるだけの結果だと思う」

「うん。オレもそう思う」

「なんとなくなんだけどでもたぶん、科学がもっと発展すれば誰もがこういうことができるようになるんじゃないか、と」

「空間とか精神とかについてなんてわからんことだらけだからな」

「あのさあ」

 と、そこで総一朗は半ば呆れたような顔で二人の間に割って入った。

「なんか俺、すごい置いてきぼりな感じ」

「そうかな。そんなつもりないけど」

「要は物理とか、そういう話なわけだろ。っていう風に二人は考えてるっていう」

「そうだね」志郎は微笑んだ。「量子力学ってわかる?」

「俺にわかるわけないだろ」

「物理の一分野なんだけどね。『神はサイコロを降らない』と言ったアインシュタインには理解できない学問だったみたいで」

「あ、ごめん。いきなりわかんない」

「まあ、世界は不思議に満ちてるってこと」

「なるほどな」

「それじゃ、オレは帰る」

 と、唐突に立ち上がったりつきに二人は驚いた。

「なにか用事?」

「家庭教師が来るんだ」

 その言葉を聞いて、志郎も、あ、と声を出した。

「僕も夕方からバイトだった」

 りつきは訊ねた。

「バイト?」

「うん。家庭教師」

「ああ、なんかそんな感じ。じゃ、またいつかどこかで会おう」

 そこで総一朗がスマホを取り出した。

「LINEの交換しようぜ。せっかく会えたんだし」

「いまスマホ持ってないんだ」と、りつきは両手を広げて首を傾げた。「散歩中は持ち歩かないことにしてる」

「じゃ、ID渡すから。ちょっと待ってて」と、志郎はポケットからメモ帳を取り出し自分のIDを書き込んだ。そしてそのまま総一朗にもペンとメモ帳を渡す。

「はい、これ」と、総一朗はメモを切り取り、りつきに渡した。「待ってる」

「了解」メモをポケットに入れた。「それじゃ、またな」

「またね」

「またな!」

 うん、と、うなずき、そしてりつきは去っていった。

 しばしの間、二人はぼんやりとそのままベンチに座っていた。

「いい子だったね」

 志郎は呟く。総一朗も、うん、と応えた。

「また会えるといいんだけど」

「LINE、返してくれるかな?」

「どうだろ。俺は返してくれそうだって思うけど」

 見るといつの間にかすぐそばにアルキメデスがいた。アルキメデスはあくびをしてベンチの下に潜り込む。どうやらここで昼寝をするようだった。

 そして––––やがて二人は、公園を出ていく。

 ずいぶん爽やかだった。

 木漏れ日の降り注ぐ午後だった。


 それからの夏休み期間、二人はいつものように過ごした。

 とても充実した高校最後の夏休みだった。

 それはとてもとても楽しかった。

 それでも以前までとはどこか違っていた。

 それが、これからの関係性が構築され始めたということなのだろう、と、志郎は思った。


「でもさー。結局りつき、LINE返してくれなかったな」

 始業式の日を迎え、ホームルームが始まるのを待ちながら総一朗はため息をついた。

 あれからずっとりつきからのメッセージを待っていたのだが、結局、志郎にも総一朗にも送信されることはなかった。

「絶対返してくれると思ったんだけどなー」

「向こうは向こうで思うところがあるんだよ。こればっかりは全部相手次第のことだから仕方がないね」

「まあなー。でもなんか、すげー寂しい」さらにため息をついた。「もう会えないのかなー」

「またいつかどこかで会えるさ。なんだかそんな気がするよ」

「俺も俺も。そんな気がする」

「ま、いまはまだそのときじゃないってことなんだろうね」

 しかし、と、志郎は思う。

 こんな偶然があるのだろうか。たまたまその日、先輩に電話をし、総一朗に声をかけ、たまたまその時間にやってきた電車にたまたま乗り、たまたま降りた地域で、たまたまアルキメデスを発見し追いかけたと思ったら、りつきと出会った。そして、二人の問題は解決に至った。こんな偶然があるのだろうか、志郎にはとにかく謎だった。

 あの日あのときあの場所で出会えなかったら––––もしかしたら総一朗との関係は止まったままだったかもしれない。あるいはずっと距離が開き続けていたかもしれない。それをりつきが救ってくれた。

 そうなる運命だからそうなった、ということなのだろうか。それはあまりにもファンタジーな領域の出来事のような気がする。

 あるいは––––“人生はなるようになるから、自分もなるようになる”、その結果なのだろうか。そう全てが自動的に展開した気がする。あるいは神の見えざる手がそうさせたということなのだろうか。

 あまりにもできすぎている、そう思えてならなかった。それとも自分が考えすぎているだけで、単に人生が偶然の積み重ねでできているということを改めて目の当たりにしたからびっくりしている、というだけのことなのかもしれない。だから全ては偶然なのだろうか。しかし、それにしてはあまりにも可能性の高い偶然のように思う。それは志郎にとって、いまここで生きているということそのものを不思議に思うようなものだった。

 あるいは––––。

 “やれるだけのことをやれるだけやること。その中でなんとかうまくやっていくこと”。

 そのとき、ガラッと教室の扉が開き、多部がやってきて––––。

 総一朗は椅子からずり落ちそうになった。

 志郎は目を見開き口をあんぐりと開けた。

「はーい、時間ですよ諸君。そーしーてー、その前に! 転校生を紹介する」

 オレンジ色の髪をしたその転校生は、多部にうながされチョークを手に取り、黒板に自身の名前を書き始めた。

 そして振り返り、志郎と総一朗を発見してにやりと笑った。

「オレ、りつき。伊集院りつき」

 第三の男。

 志郎は、つくづく思う。

 “人生はなにがあるかわからない”––––。

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