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第十二話 されど風立ちぬ・3

「––––アイドルのキャミィ・Dっているじゃん」

 汐理との授業。休憩中に二人は雑談をしていた。

「中学三年生の女の子でしたね。最近ニュースはそれ一色です」

「売れないバンドマンの子を妊娠しちゃったって大騒ぎよね。まだ中学生だっていうのに大変よ。結局、その彼氏らしき男は逮捕されちゃったし」

「どうなるんでしょうね、あの子」

「さあ、なるようになるんだとは思うけど。やっぱ気になるのはお腹の子よね〜どうなるのかしら」

 そのアイドルはまだ中学生である。おそらく中絶するのであろう、と志郎は思っていたが、それにしては続報が流れない。

「産むのかしらね」

 ふむ、と、志郎は戸惑う。

「まだ中学生ですよ」

「そうは言っても本人次第だからね〜中三ならバッチリ産めるだろうし」汐理はペンをくるくると回した。「前々からあの子、芸能界には向いてないのよね、と思ってはいたのよね。前も自殺未遂とかしてたしさ。仕事する上で“こうすればいいんでしょ”って割り切れなかったのよね〜芸能人に一番なっちゃいけないタイプ」

 はあ、と、汐理はため息を吐く。

「でもそういう女の子に限って悪い男に惹かれるのよねー」

 志郎はちょっと話題に突っ込んでみる。

「どうして避妊しなかったんでしょう」

 汐理は、そりゃそうよ、と即答した。

「ゴム付けて〜なんて言ったら嫌われちゃうでしょ」

「そんな男な時点で拒絶するべきでは」

「そこが恋する乙女の手に負えないところなのよね。ほんと。その点、あたしはちっちゃい女だからその分リアルなのよ」

 志郎は、くすっと笑う。

「ちっちゃいとリアルなんですか?」

「そうよう。夢見る少女はそのままじゃいられなくなるのよ」

「夢があるのはいいことだと思いますが」

「夢によるよね。通常の状態だと、女の子って、俺は世界一のギタリストになるんだ! みたいな男はちょっと引くもん」

 総一朗もいつもそんなことを言っている。

 うっかり、志郎はため息を吐いてしまった。ここのところいつも総一朗のことばかり考えている。

「ん、どしたのため息なんか吐いて」

 となるのは当然である。いまさらなんでもありませんなどと言って納得する汐理ではないことは志郎にはよくわかっていた。志郎は説明を始めた。

「友達と、ちょっといろいろあって」

「なに、喧嘩? じゃ、このあたしさまが話聞いてあげるわよ」

 それも心強いことではあった。志郎も、誰かに話したい気分がずっと続いていたのである。だが学校の人間に話せば本人に伝わってしまうかもしれないと思い、これまで誰にも吐露できなかったのだ。

「喧嘩、というか」

「とにかくなんか面倒なことがあったんでしょ」

「そうですね」

「なにがあったか聞いてもいいの?」

「それはちょっと」

「おっけ。じゃあ––––その人はどう思ってるの、志郎先生のこと」

 警戒心を抱いている。その確信はあった。しかしそう説明をするわけにはいかない。

「このままどうやって付き合っていこうかと思われてる……という感じでしょうか」

「なーんだ。じゃ、すぐ仲直りできるわよ」

 あっけらかんと即答する汐理を志郎は怪訝に思った。

「どうして?」

「だって、志郎先生的に、その人志郎先生とこれからも付き合っていきたいと思ってるとは思えるわけでしょ」

 何か、答えに辿り着けるような気がした。

「もう少し具体的に」

「だからさ。その人、志郎先生と付き合いたくないって思ってるわけじゃないわけじゃん。という風に見えるわけじゃん。なんとかして付き合っていきたいって思ってるように見えるわけじゃん。じゃその人、自分でも戸惑ってるっていうか困ってんのよ。志郎先生からのアクションがないから」

 自分からのアクションがない。

「その人はその人で悩んでると思うのよね。きっと。お互いがお互いに気を遣って2人してなにも行動起こしてないって感じ? ううむ、自分で言っててなんか真相に辿り着けてるような気がするわ」

「……」

「だから、志郎先生にそういう確信があるのであれば、志郎先生が先に動くべきよ。あたしいつも思うのよね〜先に気づいた方が先に動くべきだと」

 それが答えだ、と、志郎は思った。

「ありがとうございます!」

 つい大声で感謝してしまい、汐理は一瞬戸惑ったがすぐ笑顔になった。

「大事な友達みたいね」

 はい、と、志郎は大きくうなずいた。

「生まれたときから一緒の幼馴染みで、親友なんですよ」

「へえ〜いいね男同士の友情」

「大事な友達なんです。ずっと一緒で、これからもずっと一緒にいようっていつも言ってます」

 すると、汐理は目を丸くさせた。

「それ、彼氏?」

 志郎は苦笑した。

「それ、いつも言われるんですけど、本当にそうじゃないんです。友達で、親友です」

「はあ〜。男同士の友情なんてあたしにゃ経験できん世界だからな。あたしにはいま彼氏の話してる男にしか見えなかったけど」

 おそらく仕事以外で付き合うこともないだろうし、と思い、志郎はこれまで疑問に思っていたことを汐理に訪ねてみた。

「一体どういう辺りでそう思うんですか?」

 汐理はやや考え、すぐに言葉を紡ぎ出した。

「だって、その親友が優先順位圧倒的第一位なわけでしょ。それは恋人と思われるわよ、つーかあたしにはそうとしか思えなかった」

 志郎は反論した。

「なにが大切かは人それぞれなのでは。恋愛が一番って人もいれば、友情が一番って人もいると思うんです」

「でもなんか志郎先生、その人が死んだら人生とか生活とかだいぶヤバそう」

「それはそうです」

「即答できる感じがね〜」汐理は再びペンをくるくると回し始めた。「まああたしは親友って呼べる友達いたことないから、よくわかんない世界なのかもしんないけど」

「でもきっと、一口に親友って言ってもいろいろなあり方があるとは思います」

「まあそうね。でもさっきの話踏まえると、その親友が志郎先生とこれからもそのままの関係でいたいと思ってるかどうかはわかんないわよ」

 ん? と、志郎は疑問に思う。

「もう少し具体的に」

「だから––––関係性の更新とかアップデートとかとでもいうのかしらね。要は志郎先生とその親友のこれまでの関係性の構築が終了して、これからの関係性の構築が開始するわけよ。そして––––これからの関係が始まった時点で、もうそれ以前には戻れなくなる。そうなったとき、志郎先生がその人をどう思うかっていうと、どうなるのかしら」

 いま、汐理が、とんでもなく大切なことを言ったような気がする。

「……」

「ま、あなたたち次第よね。そのとき二人がどうするのか。そのとき二人がどうなるのか。なんか興味沸いたから、話まとまったらまた聞かせてね。よろしくね〜ん、待ってます」

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