表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/179

第十一話 鬼道を行く(後篇)・4

「––––なるほど。要するに、そのオカルトライターという女の人の表層意識と君の能力の合作ということになりそうだね、今回の事態は」

「もともと部屋に結界を張ってあるから、この一週間で僕の力が部屋に充満したんだと思います」

「そうだね。そんな魔窟と化した空間内で術を使いまくったんだものね。そしてそんな部屋で一週間もその彼女と過ごしていた」

「誤解を招く言い方をしないでもらえませんか」

「間違ってはないんだろう? とにかく、そのオカルトライターさんの“大地震が起こってほしい”という願望と君の“世界を利用したい”という願望がシンクロした結果がいまだ」

「利用って、それはそうなんですが、そんなあからさまな」

「君にとっては、誰かを救うために世界を救うという考え方のもと力を使ったのだから利用と同じ、と、それは君自身が考えていたんだろ?」

「はい」

「もちろん、本当だったら君の作ってそこら中に貼った呪符自体は君の願望に沿った形で力を発揮したはずだが。今回は運が悪かったね」

「札は剥がさないといけないでしょうか」

「そうだね、一応念のため。君の念動力で回収するのは容易なはずだよ。貴重な単語帳が全部ただの燃えるゴミになるとはね。地球はどうなってしまうのだろう」

「あの」

 二人の奇妙な会話を横で聞いていた総一朗には、二人が何を話しているのか全くわからない。自分の出る幕がなさそうだったので黙って話を聞いていたが、遂に堪えきれなくなった。

 二人が総一朗の方を振り向く。何か言わなければならない。だが、いざ自分が発言するタイミングが訪れたら今度は何を言えばいいのかわからない。結局このように反応するので精一杯だった。

「二人は、一体」

「彼は君の大親友で、わたしは篠沢高校現校長ですよ」と、普賢が答えた。「それ以上でもそれ以下でもない」

「いや、それ以上でしょ」と、総一朗は突っ込む。「志郎も先生も、なんかその、さっきから力がどうとか、漫画チックなことをずっとずっと」

「総ちゃん。それは」

「いやあ、そんな説明の余裕があるのかないのか」

 と、普賢は志郎を遮った。

 志郎は怪訝に思う。「なぜですか?」

「だって、いま世界は二つに分岐した上、同時に存在している。シュレーディンガーの猫の状態と言えばいいのか。理系だが物理はそんなに強くなかったんだが、わかる?」

「わかりますけど、それならなぜ余裕がないんですか? 解決するまで世界が重ね合わせで存在するだけなのでは」

「“誰か”が箱を開けたとき、このままのんびりしていたら破滅を迎えた方の世界が世界の真実になる可能性がある」

 志郎は身構えた。

「“誰か”とは?」

「誰かは誰かさ。誰もが心の中で空想している理想的第三者だよ。そしてこの場合は––––宮嶋くんが、その“誰か”にはならない、とは言い切れない」普賢は軽くため息を吐いた。「ほんのひと時のこととはいえ生徒をこんな風に言いたくはないんだが」そして続けた。「彼女の目的が何であるかわからない以上、これが彼女の目的だった可能性もあるんだからね」

 そう言われてしまうと志郎は何も返せない。確かに可能性の話としてはまさにその通りだったからだ。

「じゃあ、どうすれば」

「我々に与えられた選択肢は二つだ」

 と、普賢は両手の人差し指を立てた。

 志郎は、そして総一朗も普賢に向き合った。普賢はまず右手人差し指を震わせた。

「一つは、山岡くんがいまこの場で呪符の力を全て無効化すること。そうすれば現象そのものが消滅するからいっちょ上がり。……が、これは得策ではない。わかるよね」

 志郎は頭を抱えた。

「賭け、ということになりますね」

「ご名答。そうした瞬間、この破滅した側の世界の方が真実になってしまう、というとんでもない可能性がある。もちろん、全てが元通りになる可能性もあるわけだが、そんなハイリスクハイリターンでいくわけにはいかない、だろ? あ、あと仮に成功した場合、オプションの懸念として突如街中にセーマンドーマンの描かれた紙切れが無数に現れた、というのはなかなかの怪奇現象だ。オカルトマニアがこぞってやってきちゃうかも」

「じゃ、もう一つは?」

 左手の人差し指を震わせた。

「もう一つの選択肢は、誰かがそのオカルトライターさんの力を消滅させに行くこと。その人は何の能力者でもないけど、山岡くんの力と組み合わさった結果のいまなわけだから力といっていいだろう」

 嫌な予感がした。志郎は恐る恐る普賢に訊ねた。

「誰か、って、まさか」

 普賢は、総一朗を見た。志郎も見る。

 しばらくの間、総一朗はなぜ二人が自分の方を見ているのかよくわからなかった。

 普賢は言った。

「この場合は理想的第三者じゃないね。ね、織部くん?」

 え、と、総一朗は目を剥いた。

「俺が、なに?」

「それはダメです。絶対に」と、志郎がやや怒りの目で普賢をまっすぐに見た。「どう考えても僕が行くべきでしょう」

「あ、ダメダメダメダメほんとにマジで」

「なぜですか?」

「君は、誰も箱を開けられないように、内側から鍵をかけなければならない。いまもかかってはいるが、幾重にもかけまくり続けなければならない。だからここで精神統一の必要がある」

「じゃ、先生が行ってきてください」

「いま、世界が重ね合わせの状態で存在しているのは、わたしの結界が辛うじて力を発揮している結果、という可能性がある。なんせわたしの結界内部で君が認識阻害の術を使ったんだからね。校内での君の行動を発見できたのだってわたしのセンサーに反応したからだもの」

「じゃ、街にも結界を張ってるんですか?」

「いいや? 君を鍵の状態にすることができているのはわたしのおかげ、と言っている。むろん、全ては可能性の話だけどね。だからそうだね、わたしの役割は君の鍵を複雑化させること、と言っていいだろう。わたしもここで精神統一の必要がある」

 沈黙。

 普賢はにこにこしているし、志郎は苦虫を噛み潰したような顔をして頭を抱えている。総一朗はうろたえた。

「確かに、世界の危機という状況で、可能性の段階で動くわけにはいかないんですが」と、志郎は話し始めた。「それでも総ちゃんを、いや、織部くんを巻き込むという選択肢はありません」

「別にわたしたち三人がこのまま校長室で餓死していくというのも、それはそれで運命ではあるんだけどね」

「あの」

 と、総一朗は手を挙げた。

「俺がなにかできるなら、俺が」

「総ちゃん、それは––––」

「俺しかいないんだろ?」と、総一朗は志郎と向き合った。震えながらもそれは強い口調だった。「俺ならできることなんだろ?」

 志郎は、黙った。その沈黙が総一朗の決意の合図だった。

 普賢と向き合う。

「俺がやります」

「いいね! 青春だね」

「何をすればいいのか、よくわかんないんだけど」呼吸が荒い。「教えてくれれば、やります」

「オーケーオーケー。わたしは教員だから教えるのは得意だよ」

 志郎は普賢を睨みつける。その目の意味を即座に理解した総一朗だが、それを無視して普賢に聞いた。

「教えてください」

「教えよう。君へ与えられたミッションは、これから、そのオカルトライターさんのところへ行き、彼女の力を消滅させること」

「お、俺、力を消滅とかそんな」

「やればできる。山岡くん、呪符はまだ残っているかい? なければないでいまここで作ってくれたまえ」

 志郎はため息を吐いた。もう、これしかないようだった。カバンを覗き込み、だいぶ枚数の減った単語帳を取り出した。

「あります」

「よかろう」

 と、普賢はにこにこしながら総一朗の両肩に手をやった。

「三年二組織部総一朗くん。世界は君に任せたよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ