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第二話 邂逅の日・4

「––––またか」

 自宅アパートで、志郎は一人精神エネルギー具現化能力の練習をしていた。朝から何度も何度も同じことをしている。

 結局学校は休校となり、週明けまで不要不急の外出が禁止となった。総一朗とももうずっと会っていない。アルバイトと買い物など必要のある外出以外で志郎は自宅にずっと引きこもりひたすら練習をし続けていた。

「……」

 右手に意識を集中させる。

 ぼうっ、と、赤い光が小さく現れ、それが次第に大きくなっていく。サッカーボールぐらいの大きさになったらそれを手から切り離す。手のひらの上に固定して、そのまま前後上下左右に動かす。ある程度同じ作業を繰り返したのち、球体となった赤い光をそこから部屋の端まで動かし、そこで消滅した。

「うん……やっぱりあんまり遠くまでは動かせないみたいだ」と、志郎は独り言を言った。「この部屋の中で消えちゃうんだもんな」

 このワンルームのアパートは十畳ある。志郎はいま部屋の端で壁にもたれながら座っている。だから、赤い光はだいたい四メートルちょっとぐらいまでしか自分の意思で存在を維持させることはできないようだった。

「ただ、使いこなせればなんとかなるかもしれない」

 おそらくこの能力の特性からいって、普通の人間に見ることはできないだろうから、ちょっと歩いた先の公園に行けば全力で練習ができるとは思ったが、それでもやっぱり人目が気になるし、そもそも外出禁止令が要請とはいえ出ている以上部屋の中でやるしかなかった。しかしそれでも最低限の練習はできるし、志郎のスタンスは何事もまず最低限のことができるようになるまで同じ練習を続けることだった。かえって練習になる、と、志郎は思うことにしていた。

「……」

 今度は両手を膝の上に置き、意識だけでやってみる。

 また、ぼうっ、と、眼前に赤い光が出現した。そのままさっきと同じことをする。

「うん、やっぱり特に身体的動作が必要なわけじゃなさそうだな。ただ動作があった方が発動はさせやすいかも」と、人差し指でちょっと膝を叩き、すると赤い光は消滅した。「あと、自分の意思で消すことも可能、と」

 今のところ赤い光を出現させたのち形状を変化させることと、自分の体から切り離すことを重点的に練習していた。形状変化に関しては自分自身のイメージが重要のようで、どんな形にでも変えられる、というためには自分自身のイメージ力を鍛えるしかなさそうだった。ただ、とりあえず棒状にすることと球状にすること、そして壁のように平面状にすることは容易にできるようになった。

 体力に限界があるようにもちろん精神力にも限界があるが、それでも精神エネルギーの具現化はあまり無茶をしなければさほど疲労は蓄積されないようだった。志郎は何度となく複数個赤い光を出現させ、全てをコントロールしながら動かすという練習もしていたが、そこまでのことをすればさすがに疲れるようだった。ただ、基本的にはイメージ力が全てのようで、頭の中でより視覚的に表現することができればそのまま思った通りのことができるようだった。テレキネシスで疲労困憊になるのとはちょっと違っているようで、おそらくそっちの能力は物体に物理的な作用を及ぼすからであろう、と、志郎は考えていた。サイコメトリーやヒュプノシスも理論的には同じだろう、と考えていて、他に適切な言葉が見当たらないがあえて言えばそれらの力は“現世”に直接影響を及ぼすから疲労するのだろうと、なんとなく思っていた。

 もしこの力を使って“戦う”ことになるとすれば、それは体力勝負だけではなく頭脳戦もしなければならない世界になるようだ、と、志郎はいまから覚悟を決めていた。

「図工や美術にもっと力を入れておけばよかったな。頑張らなきゃ」

 体育倉庫で猟奇的殺人事件が発生し、昼下がりの魔女が“出現”したことで警察の捜査が開始され、全校生徒が帰宅した辺りでマスコミの大群が突撃した。立川校長の影響か、先日も彼は欠席していたのだが他の教職員たちがみな迅速に行動を開始していたためほとんどの生徒は即帰宅することができた。今のところ志郎や総一朗のもとに警察やマスコミは現れなかったが、他の生徒に関してはちょっとわからない。少なくとも、複数の友人たちと連絡は取り合っているがその中では誰も被害に遭っていないようだった。しかしみんなピリピリしている。もちろんそうなるに決まってる、と、志郎は思った。春休み中に多発した不審死と何の関係もないかどうかはまだわからないが、あれから不審死は発見されておらず、だから仮に関係があるとして犯人は本気を出したのかもしれないし友人に電話連絡をしたのちひたすら傾聴作業に入ることになるのもやむを得ないな、と、いずれ()()()()()()という仕事を夢見ている志郎は思っている。

 連日テレビや新聞は大騒ぎをしている。志郎のメディア情報源は主にネットとラジオだったが、地元ラジオ局のニュースによると犯人はいまだ見つかっていないようで、インターネットでは早くも陰謀論が飛び交っていた。志郎の想像通り、やはりこの事件はそういうものが好きな人間たちによって完全におもちゃにされていた。おそらくテレビのワイドショーでは専門家や自称専門家の身勝手な意見が飛び交っているのだろう。この部屋にテレビはないのでそれは志郎にはネット上の情報からでしかわからなかったが、やはりここも想像通りだった。結局みんな退屈してるんだな、と、志郎は少し世の中を憂いた。

 それにしても、と、志郎はちょっと疑問に思っていた。

「どうして赤いんだろう。僕のイメージカラーなのかな」

 スマホが鳴り響く。志郎は練習を中断し手に取った。

「もしもし総ちゃん?」

「元気か?」総一朗だった。他の友人たちとは違い、彼とはあれから毎日電話連絡をとっていた。「ずっと同じかな」

「元気だよ」と、志郎はスピーカーモードにしたスマホを持って答える。「総ちゃんは?」

「うん。元気だよ」

「おばさんは?」

「相変わらず。まだ軽くパニクってる」

「やっぱり恐怖の事件が起こったもんね」

「それもあるけど」と、電話の向こうで総一郎は、うん、と言った。「志郎を心配してて」

「ああ––––」心底すまなさそうな表情になった。「それは申し訳ないな。やっぱり電話で大丈夫ですって言っても伝わらないか」

「まあ、それは俺も同じだけどな。なんてったって志郎は一人暮らしだし。ちゃんと食ってるかなーとかもだけど」

「家族団欒の中襲ってくるかもしれないよ」

「怖いこと言わないでくれよ。でも、俺がいりゃ大丈夫だろ」

「大丈夫って?」と、志郎はちょっと言葉を選びながら言う。「総ちゃん、人を殺せる?」

 む、と、総一郎は口を噤んだ。

 しかし、決意をもって彼ははっきりと答えた。

「できないかもしれない。いや、できないと思う」

「だよね」

「でも、やれるだけのことをやれるだけやるよ」

「そうだね。それは僕も同じだ」と、右手で、球状になった赤い光を上下前後左右に動かしながら志郎は言う。「だから、その中でなんとかうまくやっていこう」

「そうだな」

 その後しばらく雑談をして、二人は電話を切った。

「……」

 赤い光を二つ同時に出してみた。簡単に出してみることができた。

「そうだね。やれることをやれるだけやって、その中でなんとかうまくやっていく。それしかないんだよね」

 先日、翼の生えた黒猫の襲来に遭って、志郎は精神エネルギー具現化能力の練習をしなければならない、と思ってはいたが、まさかここまで日がな一日練習することになるとは思わなかった。

「でも、仕方がない」と、志郎は今日何度も続けている独り言をまた呟いた。「殺人事件の犯人が、僕を襲ってきたのかもしれない」

 志郎は目の前に赤い光で壁を張ってみた。結界のつもりだった。

「この一連の事件の犯人が特殊能力者である可能性は否定できない」

 もしこの力で人を助けることができるなら、絶対に助けたい、そう思い、それで志郎はずっと練習をし続けているのだった。

 翌日には、学校が始まる……。

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