第5話 塔は運命を曲げる
本日二回目の更新です。
あなたは老いた騎士だ。
難病を患う孫娘の治療薬を手に入れるのが目的で塔に来た。
重い鎧を着れないあなたは革鎧の上からマントを羽織っている。
武器は属性剣で、その名の通り属性を切り替えて戦うことができる。
現在、あなたは四十階で吸血鬼と対決していた。
相手は燕尾服を着た美男子だ。
陶器のように白い肌で、瞳は真紅に染まっている。
大まかな外見は人間に酷似しているが、実情はまるで異なる。
種族的にはアンデッドで、悠久の時を生きる不死者だ。
老いることなく、いつまでも全盛期を保つ。
人間の数倍とも言われる膂力に加え、高速再生能力を持つ。
どれだけ傷付いたとしても、たちまち治癒してしまうのである。
さらには各種魔術も使いこなすため、非常に難敵だった。
そんな吸血鬼にも弱点が存在する。
日光を浴びると灰になり、聖なる攻撃による傷は再生が遅い。
十字架を目にすると精神的な苦痛を覚える。
強大な力を有する一方で、それに比例して致命的な弱点も多いのだ。
属性剣を振るうあなたは、首から十字架のペンダントを吊り下げていた。
教会で祝福を受けたそれは確かな効果を持つ。
事実、吸血鬼は十字架を露骨に嫌っていた。
たびたび集中を乱されており、本来の力を発揮し損ねている。
あなたの属性剣が吸血鬼の腕を浅く切り裂いた。
白煙が上がり、裂けた皮膚から血が滲む。
血はなかなか止まらない。
今の属性剣は聖属性になっていた。
最も効果的な攻撃だ。
これで優れた再生力も封じられたに等しい。
吸血鬼の生態を熟知するあなたは、当然ながら弱点を狙った戦い方を意識した。
孫娘の命が懸かっているので手段は選ぶつもりはなかった。
相応の執念がなければ、塔の四十階まで来れるはずがないのだ。
思うように戦えない吸血鬼は苛立ちを覚えていた。
そのうち牙を剥き出しにして跳びかかる。
あなたはマントで隠していた瓶を持つと、中身の聖水を撒いた。
顔面に浴びた吸血鬼は悶絶しながら飛び退く。
焼け爛れた顔を憎悪に歪めると、怒声を上げて再び突進した。
あなたは大上段から属性剣を振り下ろす。
斬撃は吸血鬼の頭部を縦断するも、不死の怪物は止まらない。
勢いのままに手刀を繰り出してあなたの心臓を捉えた。
指先が体内を抉って引き抜かれる。
吸血鬼はそれに満足すると、力尽きて倒れた。
割れた頭部が元に戻ることはない。
徐々に枯れて灰へと変わる。
あなたは勝利したが、心臓を潰されて瀕死だった。
口から大量の血が溢れ出してくる。
猛烈な痛みが全身を苛んで思考を掻き乱した。
あなたは残る力を振り絞って吸血鬼の死体に圧し掛かると、流れ出る血を啜り始める。
二度、三度と大きく嚥下する。
やがてあなたは無言で立ち上がった。
胸の傷は完治していた。
瞳の色は真紅に染まっているも、すぐに元の緑色に戻る。
口元の血を拭ったあなたは、用意していた小瓶に吸血鬼の血を収める。
これを薬師に渡すと治療薬になる。
副作用として人間という種族から変容するが、このまま衰弱して死ぬよりは良い。
死の運命から逃れられるのだから安い代償だろう。
何よりあなた自身が、同じ手法で病を乗り越えた過去がある。
あなたは数十年前から半吸血鬼だった。
種族的な特徴はあまり発現しておらず、日光や聖属性の弱点は無い。
それでも怪力と生命力は人間を凌駕していた。
治療薬にできるほど己の血が濃くないと判明した時は絶望したが、結果として肉体の特性が役に立った。
ただの人間なら相討ちで死んでいたところだった。
同種とも言える吸血鬼の血を飲むことで素早く回復できたのも大きい。
いずれも半吸血鬼だからこそ得られた恩恵である。
あなたは小瓶を懐に入れると、報酬を回収してから魔法陣を踏む。
速く治療薬を完成させて孫娘に渡さねばならない。
家族には反対されるかもしれないが、なんとか説得する他ないだろう。
ある意味では、ここから本当の戦いとも言える。
半吸血鬼のあなたは、塔の四十階から脱出して生き残った。




