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冒険者は塔に挑む  作者: 結城 からく


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第4話 塔は人を変える

 あなたは狡猾な盗賊だ。

 一攫千金を求めて塔にやってきた。

 あなたのそばには三人の冒険者がいる。

 酒場で誘った即席の仲間だ。

 三人とも塔に興味を持ちながらも、単独で挑む勇気がなかった者達であった。

 観察眼に優れるあなたは、それに気付いて集めた。


 個人主義のあなたが仲間を集めたのは、塔の構造が原因だった。

 ここは各階層の魔物を倒さなければ先に進めない。

 戦闘がほぼ必須なのだ。


 実は部屋の仕掛けを解くと階段を出現させられるが、魔物を無視してそれを実行するのは難しい。

 やはり戦闘で勝利するのが正攻法には違いなかった。


 あなたは戦いを得意としない。

 身のこなしには自信があるものの、腕力は人並みで武術も会得していなかった。

 魔術の才はなく、頭の出来もそこまで良くない。

 仮にゴブリンが四匹も集まれば、あなたの実力では真っ向から勝てないだろう。


 故に単独で塔を攻略するのは困難だと悟り、あなたは同行者を募った。

 実に賢明な判断と言える。

 よほどの事情がなければ、塔は複数人で挑戦するものだ。

 複数の魔物と戦う局面も想定されるため、単独で向かうのは無謀にもほどがある。


 あなたの集めた即席の四人パーティは、それなりに連携が成立していた。

 数の優位性を利用した立ち回りで戦闘を有利に進めていく。

 高い実力を持つ者はいなかったが、それを仲間同士で支え合うことで補っていた。


 あなたもそれなりに活躍した。

 盗賊の技能で罠の有無を調べたり、敵の装備を盗んで弱体化を図る。

 さらに設置された罠に細工を施して武器にした。

 そうして四人は、即席とは思えないほど上手く戦って順調に進む。


 現在、あなたは二十階にいる。

 新人から中堅の冒険者が鬼門と呼ぶ階層だ。

 難度が安定しない塔の中でも、特に多種多様な魔物が現れると話題だった。

 記録好きな魔術師によると、冒険者の死亡率も非常に高い。

 ここで勝てば脱出できるという油断も含まれている。


 そんな問題の二十階だが、あなたが対峙するのは鋼鉄のゴーレムだ。

 金属のブロックを積み上げた人型で、造形はやや不細工ながらも攻防において隙の少ない魔物である。

 倒すには体内に埋め込まれた核を破壊するしかない。

 鈍重だがそれを欠点としないほどの耐久性を誇り、怪力がもたらす打撃は直撃するだけで重傷を負いかねなかった。


 脱出の間際に現れる魔物の中では、明らかに外れの部類と言えよう。

 大きな弱点を持たないため、力押しで敵う相手ではない。


 ゴーレムが頭部から熱線を放った。

 全身鎧の戦士に胸に穴が開き、そこから肩まで焼き切られて崩れ落ちる。

 上半身が分断されかかっており、致命傷なのは明白だった。

 戦士は青い顔で口を開閉している。

 ここから助けることはできないだろう。


 ゴーレムはさらに熱線を発射した。

 あなたは素早く屈むことで躱す。

 防ごうとした魔術師は、半透明の障壁ごと胴体を切断された。

 戦士と同じように倒れたところに追加の熱線が往復し、魔術師は焼けた肉塊に早変わりした。

 異臭を漂わせるばかりで戦力的な期待はできそうにない。


 パーティはあっという間に二人となった。

 あなたは隣に立つ最後の仲間の僧侶を見やる。

 回復魔術の使い手で心優しい女性だ。

 戦闘では主に補助を担当し、前線に立って攻撃するタイプではない。


 僧侶は戦士と魔術師の死を目の当たりにして顔面蒼白だった。

 完全に怯え切っている状態だ。

 とてもゴーレムに対抗できるとは思えなかった。


 あなたは僧侶の手を引くと、部屋の端にある岩の陰に移動する。

 ちょうどゴーレムから死角となる場所だ。

 熱線が飛んでくるも、岩を貫通するほどの威力はないらしい。

 人体は簡単に焼き切っていたので、岩の成分が熱線に耐性を持っているのだろう。


 あなたはゴーレムとの戦いを諦めて、この場から生き残る方法を模索する。

 僧侶を囮にすれば、多少は時間を稼げるはずだ。

 その間に部屋の仕掛けを解いて脱出用の魔法陣を出現させる。

 かなり強引な方法だが不可能ではない。

 真正面からゴーレムと戦うより成功する可能性は高いはずだった。


 あなたは僧侶を騙すための言葉を考える。

 その時、彼女から手を握られた。

 恐怖に震える僧侶は無理に笑顔を作る。

 一緒に生き残りましょう、と彼女は囁いてきた。


 向けられた信頼にあなたは心が痛む。

 そこで考えを改めると、捨て身でゴーレムに突進した。

 僧侶のために命を尽くすことが最善だと考えたのだ。

 自分本位で生きてきたあなたが、ここで覚悟を決めたのである。


 ゴーレムが熱線を放った。

 あなたは軌道を予測して回避する。

 すぐに焼ける痛みに襲われた。

 熱線の掠めた片腕が剥がれ落ちようとしていた。

 胴体への直撃は免れたものの、しっかり命中していたのだ。


 あなたは焼き切られた片腕を拾うと、それをゴーレムに投げ付ける。

 宙を舞った片腕は熱線で解体された。

 その隙にあなたは疾走し、魔術師の死体から杖を盗んだ。

 さらにゴーレムの巨躯をよじ登ると、杖を首の隙間に捻じ込んで起動させる。


 杖に残された魔力が暴発して、ゴーレムの内部術式に干渉した。

 故障したゴーレムが四方八方に熱線を乱射する。

 あなたは杖にしがみ付いて外れないように固定した。

 己を犠牲に僧侶を生かそうと踏ん張る。


 僧侶はあなたには目もくれずに逃亡していた。

 部屋の仕掛けを発見して、大急ぎで魔法陣を出そうとしている。

 よく見ると戦士と魔術師の遺品を身に付けていた。


 僧侶の横顔は私欲と保身に塗れていた。

 あなたと目が合うと、彼女は鼻を鳴らした。

 侮蔑の眼差しを向けた挙句、あなたに罵声を飛ばしてくる。


 同類だった。

 僧侶は、実は盗賊だったのだ。

 そしてあなたを騙して生き残ろうとしていた。


 あなたの中の気持ちが冷めていく。

 捻じ込んだ杖の角度をずらすと、ゴーレムの熱線が僧侶の背中を貫通した。

 その瞬間に脱出用の魔法陣が起動する。

 うつ伏せに倒れた僧侶は手を伸ばすばかりで届かない。

 土壇場で本性を現した彼女は、詰めの甘さが原因となって死んだ。


 あなたは杖を深く刺し込む。

 ゴーレムの内部で高熱が蓄積し、危険を予期したあなたが飛び退くと同時に大爆発を起こした。


 あなたは爆風に吹き飛ばされながらも生きていた。

 隻腕となった上に重度の火傷を負ったが、命はまだ残っている。

 咄嗟の判断で勝利をもぎ取ったのだ。


 あなたは覚束ない足取りで報酬や死体の装備を奪うと、倒れ込むように魔法陣を踏む。

 疑心暗鬼の戦いを制したあなたは、塔の二十階から脱出して生き残った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >疑心暗鬼の戦いを制したあなた こんな経験をしたなら、十中八九、人嫌い(特に異性嫌い)になるだろうな。
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