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冒険者は塔に挑む  作者: 結城 からく


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第3話 塔に慈悲はない

本日2話目です。

 あなたは自信家の刀使いだ。

 鍛え上げた鋼のような巨躯で、裸の上半身には無数の傷跡が刻まれている。

 痛々しいがいずれも勲章であった。

 下半身は布のズボンとサンダルだけで、防具の類は着けていない。


 武器はよく使い込まれた分厚い剣だ。

 特別な力はなく、とにかく頑丈なのが長所だった。

 使い手の負担を度外視すれば、竜の牙すら受け止めると言われている。


 あなたの目的は強敵との戦いだった。

 その身で数々の伝説を築いてきたが、称賛されるたびに物足りない気持ちを燻らせてきた。

 ある日、あなたは知り合いの魔術師から冒険者の塔の話を聞いた。

 塔ならば己の欲求を満たすことができる。

 そう考えたあなたは、異国の地からはるばる来訪し、ほとんど何も知らずに挑戦したのであった。


 些か無謀な行動だったものの、あなたは優れた実力で三十四階まで辿り着いた。

 報酬の大半は放置してきた。

 回復薬はその場で飲み干した。

 空腹は魔物の死体で満たして眠る。

 数多の伝説を打ち立てたあなたは富に飽きていた。

 貨幣などは邪魔にしかならないため、常に一文無しである。


 あなたは塔での戦いをそれなりに楽しんでいる。

 しかし、まだ不満だった。

 命の危機に瀕するような事態は起きていない。

 どこまで上がれば味わえるのか。

 期待を膨らませながら、あなたは三十五階に進む。


 石畳の広い部屋には人間が立っていた。

 金髪の美青年で、糸目と微笑が印象的だ。

 革と金属を使った軽鎧を着ており、腰の鞘には細身の剣が収められている。


 青年はどう見ても魔物ではなかった。

 しかし、あなたにとっては関係のないことだ。

 容姿なんてどうでもいい。

 大切なのは、どちらが強いかだけである。


 あなたは雄叫びを上げた。

 そして猛速で飛びかかって剣を叩き付ける。

 青年は自然な動作で剣を抜いて防御した。

 とてつもない威力の斬撃が簡単に受け流される。


 初めての感覚にあなたは興奮した。

 そしてさらなる攻撃を青年に仕掛ける。

 以降、二人は互角の戦いを展開した。

 あなたは少しずつ傷が増えるも、そのたびにいたく喜ぶ。

 ひりつくような殺し合いに感謝すらしていた。

 青年も嬉しそうに剣で応えている。


 冒険者の塔には、外れと呼ばれる部屋がある。

 序盤の階層にも関わらず、たまに攻略難度の高い魔物が紛れ込むのだ。

 その突発具合が異様で、どの階でもたまに発生する点から罠の類だと認識されている。


 今回、あなたはそれを引き当てたのだが、心底から歓喜して気付いていなかった。

 人生最高の瞬間であると確信して堪能している。

 塔を訪れた目的を達成しているので、ある意味では間違っていないのかもしれない。


 しばらく戦闘が続いて、剣戟の音が止んだ。

 あなたは壁に背を預けて立っていた。

 右腕の肘から先が消失し、断面から血が垂れ流しになっている。

 鍛えた腹も裂けて臓腑が覗き、今にもこぼれそうだった。


 あなたは乱れた呼吸を鎮める。

 全身が汗だくで、何百もの真新しい傷が増えていた。

 いずれも相手の青年に付けられたものだ。

 魔物の牙すら通らない自慢の筋肉は、その硬さを存分に発揮しながらも敵わなかった。


 青年は少し離れた場所に立っていた。

 変わらない糸目の微笑で剣を構えている。

 彼は戦闘前と同じ状態だった。

 傷一つなく、落ち着いた様子で佇んでいる。


 両者の実力差は圧倒的だった。

 当初は互角に見えたが、実際は違ったのである。

 青年はだんだんと速度を上げて、あなたはそれに対抗した。

 しかし、やがて追い付けなくなって拮抗が崩れた。


 あなたは青年の剣に注目する。

 そこに彫り込まれた紋章を目にした瞬間、あなたは驚きと喜びを露わにした。

 満身創痍の肉体で進み出ると、未だ折れない愛剣を掲げてみせる。

 片手での構えには欠片の揺るぎもない。


 あなたは絶望していなかった。

 むしろ逆だ。

 太陽のように輝かしい希望に満ち溢れて立っている。

 実際に大笑いしていた。


 死力を尽くすべき相手に会えたのだ。

 これより幸福なことはあるまい。

 敗北寸前であることを理解しても尚、遥かに強烈な喜びを覚えている。

 あなたは微塵の恐怖も感じず、塔にひたすら感謝した。


 膝を曲げて、床を蹴る。

 暴風を巻き起こすあなたは、獣のような突進で青年に斬りかかった。

 青年は微笑を僅かに深めると、親しみを込めて技を放つ。


 あなたは古代の剣聖に敗れて死んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >あなたは絶望していなかった。 >むしろ逆だ。 >太陽のように輝かしい希望に満ち溢れて立っている。 >実際に大笑いしていた。 慈悲は無くとも粋な計らいはする模様。
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