第13話 塔で慢心してはいけない
あなたは合理的な洗脳術師だ。
強力な魔物を手に入れるのが目的で塔にやってきた。
あなたの周囲には、数十人の奴隷がいた。
彼らはあなたの洗脳魔術に支配されている。
非常に従順で、決して命令に逆らうことがない。
あなたは他力本願な戦法で塔を攻略していく。
洗脳魔術を除くと、あなたにこれと言った力はない。
奴隷に命令して陣形を組み、相手を無力化するのが基本戦術である。
そうして魔物に洗脳魔術を施すのだ。
二十階を突破した時、あなたの奴隷の顔ぶれは変わっていた。
戦死した者の代わりに魔物が参入したのだ。
まだ低階層なのでゴブリンやスケルトンといった弱い魔物が大半だった。
最も強い個体はミノタウロスだろうか。
それなりの犠牲が出たものの、無事に奴隷にできたのであなたは満足している。
次の階層にいたのは炎の精霊だった。
見た目は人型の炎で、高熱が室内をじりじりと炙っている。
戦いが長引くと焼け死にそうな環境であった。
あなたはすぐさま奴隷をけしかける。
奴隷達は炎に焼かれながらも肉迫し、精霊に攻撃を始めた。
ところが振るわれた剣や槍は素通りする。
非実体の精霊に物理攻撃は通用しないのだった。
反撃とばかりに精霊が炎を放ち、接近した奴隷が燃やされていく。
そのような事態でも、あなたは落ち着いていた。
自分の命令で死ぬ奴隷を見ても顔色一つ変えなかった。
安全な場所に立つあなたは指を鳴らす。
次の瞬間、精霊の近くにいた奴隷が爆発した。
既に焼け死んでいた者も同様に爆発する。
体内の魔力を圧縮して一気に解放したのだ。
至近距離での魔力の炸裂は、精霊への痛打となって動きを封じ込める。
あなたは素早く接近して精霊に手をかざした。
起き上がろうとした精霊は硬直し、自我を改竄された末にあなたに跪く。
洗脳が完了したのだ。
この術は実力差を無視して効果を発揮する。
本来なら格上となる精霊でも、あなたの術には逆らえなかった。
新たな奴隷を得たあなたは、意気揚々と次の階層に向かう。
広々とした部屋には亜竜がいた。
分類上は竜と異なるが、容姿が酷似していることからそう呼ばれる魔物だ。
見た目は青色の巨大な蜥蜴である。
飛行能力はないものの炎を吐くことができる。
さらに強固な鱗で全身が覆われていた。
本物の竜ほどではないにしろ、室内で戦うには厄介な相手だった。
それにも関わらず、あなたは不敵な笑みを浮かべる。
躊躇なく奴隷を前進させて、人間爆弾として攻撃を開始した。
跳びかかった奴隷が次々と破裂して亜竜の顔面を破壊する。
頑丈な鱗も自爆攻撃を耐えられるほどではなかった。
怒り狂う亜竜が火を噴くも、あなたは奴隷を盾に耐え凌ぐ。
火だるまになって苦しむ奴隷をよそに、炎の精霊に指示を出した。
炎の精霊が揺れ動いて腕を振るう。
すると亜竜の放つ炎が打ち上がって壁や天井を焼いた。
軌道が変わったことで、あなた達への被害がゼロになる。
他力本願なあなたであるが、奴隷の能力を見極めることには長けていた。
故に手持ちのカードで最適解を選べるのだ。
あなたは奴隷を連れて亜竜に近付く。
亜竜が爪を叩き付けてくるが、前に出した奴隷に受け止めさせた。
ゴブリンが千切れ飛び、スケルトンが一瞬で粉々になった。
人間の奴隷も臓腑を撒き散らして倒れる。
炎が封じられたところで、亜竜の恐ろしさは健在なのだ。
他の種族と比べて遥かに強大であることに違いはなかった。
奴隷の犠牲で距離を稼いだあなたは、亜竜を洗脳魔術の射程に捉える。
即座にその力を行使して支配下に置いた。
途端に大人しくなった亜竜は収縮し、あなたとさほど変わらないサイズとなる。
洗脳魔術のオプション機能で、大きすぎる種族は大きさを変更できるのだ。
人間基準の構造である塔ではほぼ必須と言えよう。
亜竜を奴隷にしたあなたは次の階層に移動する。
階段の先に広がるのは、闇に覆われた部屋だった。
隣にいる者が分からなくなるほど何も見えない。
あなたは炎の精霊に命じて火を放たせるも、闇に呑まれてしまった。
闇には魔術的な効果が込められているらしい。
炎の精霊がどうにもできないとなると、すぐに解決するのは困難だろう。
これは不味い、とあなたは思った。
もし室内に魔物がいるのなら危険な状況だ。
とにかく守りを固めなければならない。
そう考えたあなたは、背後に冷たい殺気を感じる。
振り向く寸前、首筋に鋭い痛みが走った。
直後に脱力感に襲われて片膝をつく。
血を吸われている。
それを理解したあなたは、そばの奴隷を自爆させるために指を鳴らそうとした。
しかし、なぜか失敗する。
何度か試すも、一向に音が出なかった。
焦るあなただったが、闇に目が慣れてうっすらと周囲の輪郭が見えるようになってきた。
そこで一つの事実に気付く。
あなたの両手が消失していた。
手首を境に切り落とされて血が噴出している。
指を鳴らせないのも当然だろう。
刹那、あなたはパニックに陥った。
声で命令しようとして、空気の抜けるような音を発する。
血を吸われながら喉を潰されたのだ。
ついにあなたは倒れる。
視界の端に立つのは端正な顔立ちの美女だった。
口元が赤く汚れており、それすら美しく感じられてしまう。
女は吸血鬼だった。
己のテリトリーである闇を展開して、あなたを待ち構えていたのである。
加えて吸血鬼は隠密魔術を発動しており、そのせいで周囲の奴隷は反応しない。
その存在を認識しているのは、被害を受けたあなただけだった。
瀕死のあなたは洗脳魔術を発動しようとする。
しかし、その前に頭部への強烈な衝撃を受けて視界が暗転した。
吸血鬼に踏み砕かれたのだ。
それを理解する前に意識が途絶えた。
上がりかけた手が床に落ちて、二度と動かなくなる。
己の能力に絶対的な自信を持つあなたは、慢心によってあっけなく死んだ。




