八. 人誑し
杉田屋と諭利が肩を並べて歩く姿は、あちらこちらで目撃された。
『杉田屋の連れている、あの男は何者だろう。』
艶やかな黒髪の麗人の噂が、初夏の夜風に乗り、流れた。
杉田屋は、あの句会のあと諭利と連絡を取り、ふたりきりで会ったのだ。
桃華会の者には知らせず、個人的に諭利を呼び出していた。
──あいつは俺を無視した。
杉田屋に会うのを諭利は事前に知らせなかった。
桃華会の者たちに引き合わせたのは俺だ。
会うなら会うと、報告をしておくものだろう。
礼儀を知らぬ奴だ。
恩ある者を蔑ろにする態度は許し難い。
一月ほど経ち、諭利を商いの組合に入れると達しがあった。
組合には入れたことに対し、一言の礼もないのだから、呆れてものが言えぬ。
思えば、あいつは昔から人を誑しこむのが得意だった。
誰に取り入れば一番得か、その辺を嗅ぎわける能力に秀でていた。
そして、何故だかあいつは『力』を持つ者に気に入られた。
自身はなんの力も持たないくせに、力のある者の庇護を受ける。
あいつの親父は旅芸人だそうだ。
芸人は芸を売り体を売る。
演技で人の目を惹きつけ、甘い言葉で惑わし、人を籠絡する手管に長けている。
そうして、拗ねたり擦り寄ったりしながら、贔屓を離さない。
お得意の下劣な手管で、杉田屋を籠絡したに違いない。
くされ芸人の親父の血を受け継いで、仔猫みたいに足元に擦り寄り、図々しくも膝上にあがりこんだのだ。
文長の脳裏に、杉田屋の膝に頬を乗せ、髪を撫でられている日吉の姿が浮かぶ。
日吉は得意気に頬笑みながら、嘲るような視線をこちらへ向けてくる。
腹の底から、ドス黒いものが込み上げてきた。
──あのジジイに、いいことをしてやったのか。
枯れ井戸を掘り起こし、水を湧かせてやったのか。
あのジジイの萎びた魔羅を、手の平で注連縄みたいに太く依り合わせてやったのか。
ジジイの腹のなかで熟成され、グダグダに濁った酒を、飲み干してやったのか。
──日吉、このクサレ芸人めが。
杉田屋。
上品ぶって座ってやがる、あのジジイ。
君子面しくさって、日吉の顔をじっと睨んでいるから、怒っているものとばかり思ったが、内心はあいつに見蕩れていやがったんだ。
あいつの歌声に、股ぐらの鈴を鳴らされていたのだ。
芸人くずれなんぞに、簡単に籠絡されやがって、あのモウロクジジイめ。
ああいう取り澄ました野郎に限って、閨房では、女みたいなよがり声を捻り出してやがるのだ。




