六. 度胸試し
度胸だめし、などではなく、自殺行為だ。
あの性悪狐は確かにそれを知っていた。
知ったうえで、『死の崖』へと続く洞穴に、俺を押し込んだのだ。
滝の裏側から上へ登るための穴はいくつかあった。
滝の裏側に入った経験のない俺は、どの穴がどこに通じているか知りはしない。
それを、あいつは平気な顔をして嘘を教えた。
地表にでた俺は肝を冷やした。
謀られた──と気づいたときは遅かった。
川からの風が崖を吹きあがり、グラリと体が傾いた。
その瞬間に、我が身が滝壷へ落ちて行く幻が脳裏をかすめた。
背筋が冷え、睾丸が縮みあがった。
『あの時の恐怖に比べれば、これくらいは耐えられる。』
そう、自らに言い聞かせ、叔父の店での修行中、辛く惨めな奉公にも耐えたのだ。
腹の底から、沸々と怒りが湧きあがっていた。
怒り心頭の文長の耳に、旦那衆の会話は聞こえていなかった。
あいつに仕返しをしたい──自分が味わった恐怖を、あいつにも味あわせてやりたい。
俯いたまま、文長は呪詛を産み続けていた。
「あの男の身辺を、よく調べてみる必要がありそうですよ。」
一同は、神妙な面持ちで互いの顔を見交わした。
不穏な空気のうちに、この日の句会はお開きとなった。
帰り際、銘々が土産をもらい受けると、一人土産のない者がいた。
当然のように、七つの酒瓶を配り終えると、空の瓶が一つ残るのだ。
文長は、憮然とした表情で空瓶を箱に詰め、風呂敷に包んで持ち帰った。




