【番外編】7.“社交界の魔性の女”と呼ばれた令嬢
.
密会していたわけではないが、アナベルがマルクと一緒にいるところを生徒たちに目撃されていた。
“社交界の魔性の女”と呼ばれたアナベル・エククレム子爵令嬢が数分間でも特定の令息と一緒にいるのだ。
しかも相手は冴えないだけではなく、お世辞でも容姿を褒められない男爵令息だ。
学園中の話題に上がらないはずがなかった。
「エククレム子爵令嬢。あなた、ハネスト男爵令息と仲がよろしいみたいですわね?」
数人でアナベルに声を掛けてくる令嬢たち。
「えぇ。それが何か?」
隠しているわけでもないので素直に肯定するアナベル。
「まぁっ! それではあの噂は本当ですの!」
「噂?」
「エククレム子爵令嬢はハネスト男爵令息に弱味を握られて、迫られているというのは」
「怖いですわね~」
「大丈夫ですの~?」
アナベルを心配する口振りだが、状況を楽しんでいる令嬢たち。
「弱味? ないない。ハネスト男爵令息はそんな方じゃないし、私には他の令息たちにも握られるような弱味なんてありませんわ」
「えっ」
「エククレム子爵令嬢にはなくてもエククレム子爵家に弱味はあるでしょう?」
「エククレム子爵家には周りに知られて損失を与えるような弱味はありませんから大丈夫ですわ」
令嬢たちの嫌味が全く通じないアナベル。
「心配してくれてありがとうございます。ごきげんよう」
「「「………」」」
話が終わったのでその場から立ち去るアナベルだった。
「……………」
アナベルがマルクと話題になってから数日。
アナベルはマルクと話すことが出来なくなっていた。
授業は受けているので学園にいるのは分かっているが、マルクはアナベルの前に姿を見せなくなってしまったのだ。
学園での数分の平穏がなくなったことに不機嫌になるアナベル。
不機嫌になっているアナベルを見て、愉快になる令嬢たちと心配する令息たち。
「エククレム子爵令嬢。ハネスト男爵令息と喧嘩でもしましたの?」
「いいえ」
「あら、そうなんですの~?」
「………」
ニヤニヤ顔を隠そうともしない令嬢たち。
そんなアナベルと令嬢たちを見守る令息たち。
令息たちはこういう時に声を掛けようものなら、令嬢たちから糾弾されるのは分かっているのだ。
「お二人はお似合いでしたのに残念ですわ~」
それは、単なる嫌味の一つだった。
美しい容姿のアナベルと、醜男と呼ばれているマルクでは釣り合うはずがなかった。
「……お似合い? 私とハネスト男爵令息が?」
「!、えぇ、とってもお似合いですわ」
「私も二人はお似合いだと思いますわ!」
アナベルが反応したことで便乗する令嬢たち。
令嬢たちにしたら肯定することで、アナベルを更に不機嫌にさせたいだけだった。
「お二人が結婚したらおもし……理想の夫婦になりますわね!」
「ちょっと~、それは言い過ぎですのよ~」
「あら、そうかしら?」
「………」
令嬢たちがまだ何か喋っているが、考え込むアナベル。
(私がハネスト男爵令息と……?)
アナベルは今までマルクと“男女の関係”になることを想像したことがなかった。
自分に近付いてくる令息たちにうんざりしていたので、そういうことは考えないようにしていたというのが正しいのかもしれない。
(あら? あらあら?)
試しにアナベルが、マルクと笑い合って隣を歩く自分を思い浮かべても不思議と嫌悪はなかった。
それどころか、違和感がなかった。
カムグロス侯爵令息や他の令息たちでは思い浮かべてみようとも思わなかった。
(……よし!)
アナベルは帰宅したらあることを確認しようと決意するのだった。
.




