【番外編】5.“社交界の魔性の女”と呼ばれた令嬢
.
「あっ、あわわっ!」
アナベルと目が合うと、再び顔を真っ赤にして慌てふためくマルク。
アナベルへお祝いの言葉を述べる令息はいたが、それはアナベルへ誕生日プレゼントを渡すついでだった。
令息たちはアナベルに誕生日プレゼントを渡すことが目的になっていた。
家族以外に面と向かって、アナベルへお祝いの言葉を述べたのはマルクが初めてだった。
マルクから下心が全く感じられなかったのは、アナベルにとって新鮮だった。
「ありがとう。ねぇ、ハネスト男爵令息」
「は、はい!」
「私、そのヒマワリを貰えないの?」
「えっ!」
驚きながら、ヒマワリとアナベルを交互に見るマルク。
「こ、このヒマワリをですか!?」
「えぇ」
「ご贔屓にしてますが、一般のお花屋さんから買ったヒマワリですよ!?」
「綺麗なお花を扱うのに一般とか関係ないじゃない。くれるの? くれないの?」
「ど、どうぞ!」
深くお辞儀をしながら、アナベルへヒマワリを渡すマルク。
「ありがとう。嬉しいわ」
「い、いや、あ、あの、で、でも、そのヒマワリ……」
「私のことを考えて選んでくれたんでしょう?」
「へぇっ!?」
「お花屋さんに花言葉を教えてもらってって言ったじゃない。私にはどれが当てはまったの?」
:花は一種類に対して、花言葉は一つではない。
アナベルは気になって尋ねてみた。
「……あ、“憧れ”です」
「あら、そっち?」
てっきり“あなただけを見つめる”か“情熱”だと思ったのに、またもやアナベルの予想は外れたようだ。
「え、エククレム子爵令嬢の髪の色から黄色い花にしようと思いました。そ、その中でヒマワリはいつも周りから何を言われても凛としているエククレム子爵令嬢にピッタリだと思って……ぼ、僕にとってエククレム子爵令嬢はた、太陽だなって……」
目をぎゅっと閉じて顔を真っ赤にさせたまま、アナベルへ理由を告げるマルク。
「ハネ……」
アナベルがマルクへ手を伸ばしたその時、
「アナベル様~!」
「!」
アナベルの使用人が教室へ入って来た。
「リヤカーを返却して馬車に戻ってもいないから心配しましたよ~。ん? あれ、あなたは……」
マルクに気付く使用人。
「アナベル嬢のお時間を取らせてしまい、すみません」
「いえいえ、さっきはありがとうございました」
ペコペコと頭を下げ合うマルクと使用人。
「さっきって?」
「帰りますよ、アナベル様。今日は旦那様も奥様も楽しみにしているんですから!」
「分かったわよ。ハネスト男爵令息、それではまた明日」
「は、はい! ま、また明日っ」
マルクに挨拶して、アナベルは使用人と教室を後にした。
「ねぇ。さっき、ハネスト男爵令息と何かあったの?」
馬車へ向かう最中、アナベルは使用人へ尋ねた。
「あの方、ハネスト男爵令息って言うんですか。親切な方ですよね~。このまま校内に入ると不法侵入になっちゃうから、どこで許可証を貰うか困ってたら声を掛けてくれたんです」
「そうなの?」
「そうなんですよ~。アナベル様に聞けば良かったのに聞くの忘れてて。しかも、リヤカーの貸し出し場所も教えてくれて、超助かりました」
「………」
テキパキと動いてくれたから使用人は学園のことを把握してると思ったが違ったようだ。
「ハネスト男爵令息には明日、お礼を言わないとね」
「お願いします。ところでそのヒマワリはハネスト男爵令息から?」
「えぇ」
「アナベル様が男性から直接何かを受け取るなんて珍しいですね」
「そうかしら」
「そうですよ」
使用人は嬉しそうに笑う。
「帰ったらアナベル様のお誕生日会ですよ。みんな、飾り付けやら料理を張り切ってましたからね」
「もう小さい子どもじゃないのに……」
「何言ってるんですか。アナベル様はいくつになってもエククレム子爵家の大事なお嬢様ですよ」
「……そう」
馬車に乗り、エククレム子爵邸へ帰るのが待ち遠しくなるアナベル。
(このヒマワリ、どうしようかな。今日は私の部屋に飾って……押し花にしようかしら?)
エククレム子爵邸へ着くまで、アナベルはヒマワリの保存方法を考えるのだった。
.




