【番外編】4.“社交界の魔性の女”と呼ばれた令嬢
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「どう考えても今日中に持ち帰るのは無理な量だから、空き教室を使いなさい」
放課後。教師からありがたい提案をされ、迎えに来ていた使用人と一緒に借りてきたリヤカーを使って空き教室へ山積みの誕生日プレゼントを運ぶアナベル。
令息たちから手伝うと言われたが全て断り、使用人と二人で空き教室へ山積みの誕生日プレゼントを全部運ぶことが出来た。
空き教室の鍵も借りられたので施錠をしっかりして、これでトラブルになることはまずないだろうと安堵するアナベル。
「手伝ってくれてありがとう」
「いえいえ、アナベル様の頼みならこれくらいへっちゃらですよ。学園にもアナベル様の誕生日プレゼントが届くことを全く予見出来ていませんでしたね。申し訳ありません。それにアナベル様のお手を煩わせてしまって……」
「もうっ、そんな顔しないでよ。私、教室を見て来るから今日持ち帰る分を馬車に運んでくれる?」
「はい」
使用人にリヤカーを任せて、教室に誕生日プレゼントが落ちていないかを確認しに行くアナベル。
「!」
誰もいないはずの教室に、誰かがいた。
(あれは……)
誰かは男子生徒でアナベルの席の前に立ち、机の上に何かを置くとキョロキョロと辺りを見渡している。
「あ」
「!」
見渡したことでアナベルは男子生徒と目が合った。
「えっ、エククレム子爵令嬢ぉっ!?」
「ごきげんよう」
教室に入って来たアナベルに慌て出す男子生徒。
男子生徒はサッと机の上に置いたものを取って、自分の背中に隠した。
「私の席の前で何をしているのかしら。ハネスト男爵令息」
男子生徒の名前は、マルク・ハネスト男爵令息。
マルクはふくよかな体型で大きいのに目立たない令息で、お世辞にも容姿が良いとは言えない。
アナベルと同じクラスなのに授業以外はいつも教室にいなかった。
「ぼっ、僕の名前、知ってるんですか!?」
「クラスメートなんだから知っていて当たり前でしょう。いいから私の質問に答えなさい。私の席の前で何をしていたの?」
「っ!」
びくっと両肩を震わせて、マルクは背中に隠した物を更に隠そうとする。
「背中に何を隠したの? 出しなさい」
「………」
観念したのかおずおずと背中に隠していた物をアナベルに見せるマルク。
それは綺麗な包装紙に包まれた1本のヒマワリだった。
「それは?」
「あ、あのっ、エククレム子爵令嬢が今日お誕生日って聞いてまして! く、クラスメートとして何か贈りたいなと思いまして! で、でも、うちは裕福ではないのでエククレム子爵令嬢に贈れるような高価な物は買えなくて……だ、だからせめて花束を贈ろうとしたんですけど……エククレム子爵令嬢の好みが分からなかったのでご贔屓にしているお花屋さんから花言葉を教えてもらって1本だけ買ったんです」
緊張しているのか、顔を真っ赤にして吃りながら話すマルク。
「え、エククレム子爵家へ届けようと思ったんですけど、ヒマワリ1本だし知らない家名の男からの贈り物なんて恐怖でしかないと思いまして……で、でも、学園で渡そうにも荷物になってしまうし、誕生日プレゼントを見てエククレム子爵令嬢は嫌そうにしてたので、その……」
「明日、私に受け取ってもらおうとして今、置いたの?」
「ち、違います!」
「違うの?」
アナベルの予想は外れたようだ。
「うう、受け取ってもらおうなんてそんな罰当たりなこと思いません! こ、これは僕の自己満足なので……このヒマワリはエククレム子爵令嬢の机の上に置いたら持って帰ります。あっ! ちゃ、ちゃんと掃除はしますので安心してください!」
花を置いたくらいでアナベルは机が汚れるなんて思っていないのに、マルクは的外れなことを言う。
「………」
「っ」
アナベルが黙っているので、マルクは話すのを止めた。
「……あ、あの、エククレム子爵令嬢」
「なぁに?」
「お、お祝いの言葉を述べても良いですか?」
「え? ああ、どうぞ?」
話している最中に言えば良いのに、アナベルへ許可を取るマルク。
「お誕生日おめでとうございます、アナベル・エククレム子爵令嬢。あなたにご加護がありますように」
「!」
マルクは吃ることなく、真っ直ぐにアナベルの目を見ながら微笑んでお祝いの言葉を述べた。
アナベルはこの時、マルクが美しい新緑の瞳を持っていることを初めて知ったのだった。
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