【番外編】3.“社交界の魔性の女”と呼ばれた令嬢
.
それから、アナベルはげんなりしていた。
アナベルの朝の行動が広まり、誕生日プレゼントを直接渡しに来る令息はいなかったが、アナベルが教室の隅に目を向けると明らかに誕生日プレゼントの数が増えていたのだ。
どうやら、直接渡すのがダメならアナベルが教室にいない隙に教室の隅へ置けば良いとなったようだ。
教師たちは教室の隅を見ても何も言わないことから状況は把握しているようだった。
(全部馬車に乗るかしら?)
山積みの誕生日プレゼントを持ち帰るのに、迎えの馬車の広さを考えるアナベル。
(まっ、何とかなるでしょ)
別に誕生日プレゼントを本日中に全部持ち帰らなければいけない決まりなどない。
そもそも令息たちが勝手にやったことなので、アナベルが頭を悩ませる必要はない。
アナベルは考えるのを止めた。
「アナベル嬢」
昼休みになり、席を立とうとしたアナベルの元にやって来たのはカムグロス侯爵令息だった。
「ごきげんよう、カムグロス侯爵令息」
立ち上がらずに座ったまま挨拶をするアナベル。
「名前で呼んでくれ」
「一体何のご用でしょうか、カムグロス侯爵令息?」
「フッ、相変わらず恥ずかしがっているのか。まぁ、いい。誕生日おめでとう、アナベル嬢」
カムグロス侯爵令息がスッとアナベルへ差し出したのは小さな箱だった。
「………」
「世界に一つだけの特注品だ。今日こそオレの婚約者になれ、アナベル」
アナベルの前に跪き、小さな箱をパカッと開けるカムグロス侯爵令息。
小さな箱の中には箱にギリギリ収まるくらいの大きさのダイヤモンドとその周りに色鮮やかな宝石が散りばめられた指輪が入っていた。
カムグロス侯爵令息はアナベルに何度も求婚をしてきたが、こうして指輪を渡して来たのは初めてだった。
「きゃーっ!」
「いやぁー!」
「ぎゃー!」
その光景を見ていた生徒たちから色んな意味の悲鳴が上げる。
「お断りします」
にこやかに即答するアナベル。
「何故だ?」
「お断り理由は何度も申し上げましたわ。子爵令嬢の私はカムグロス侯爵家に不釣り合いです」
「そんなことはない。オレの妻にふさわしいのはお前だけだ、アナベル」
「………」
爵位を理由に断っても諦めないカムグロス侯爵令息。
「……馴れ馴れしく呼び捨ては止めてくださる?」
こうなったらとアナベルは強気に出ることにした。
「アナベル?」
「いくらそちらの爵位が高いとはいえ、礼儀知らずは会話する価値はなくってよ」
「なっ!」
「せっかくの誕生日なのに嫌な気分になりましたわ。そのセンスの無い指輪を早く持ち帰ってくださいませ」
「センスが無いだと!? 一体いくらしたと思ってるんだ!」
「知りませんわ。そんな宝石じゃらじゃらの指輪なんてつけたら重いし、はっきり言って邪魔ですわ。仕事も何も出来ません」
「お前は何にもしなくていい」
「ご冗談でしょう? 私はお人形になる気はありませんわ」
立ち上がるアナベル。
「まだ話は終わってないぞ、アナベル」
「………」
「アナベル!」
カムグロス侯爵令息を睨み付け、アナベルは教室を去るのだった。
(……あの男、ほんとどうしようかしら)
一人になり、溜め息をつくアナベル。
(誕生日を迎えたことだし、そろそろ婚約者を決めないといけないのは分かってるけど……)
本来なら貴族の令嬢の結婚相手は父親が決める。
エククレム子爵はアナベルには慕う令息との結婚を望んでくれ、自分の立場もあるのに求婚状が届いても断り続けてくれた。
こんなにありがたいことはない。
(お父様が優しいからって甘え過ぎてしまったわ。でも、私が誰かを好きになることなんてあるのかしら?)
美人なら得をすることが多いと思われているが、実際はそうではない。
アナベルは令息たちから好意を向けられても、令嬢たちからは敵意を向けられている。
おかげでアナベルには仲の良い令嬢は一人もいない。
容姿が美し過ぎて、アナベルはしなくて良い苦労をしてしまう。
(いっそのこと、お父様に婚約者を決めてもらおうかしら。相手を好きになるのは後からにして、カムグロス侯爵令息とかは候補から外してもらえば、私が探すよりもずっと良い人を見つけてくれるかもしれないわ)
ぼんやりとそんなことを考えるアナベルだった。
.




