【番外編】9.“社交界の魔性の女”と呼ばれた令嬢
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数日後。
「え、エククレム子爵令嬢!」
学園中の噂になってからアナベルと会わないようにしていたマルクが声を掛けてきた。
切羽詰まっているのか、教室でだ。
ざわつく教室内。
「き、来てください!」
「はーい」
マルクと一緒に教室を出るアナベル。
「え、なにあれ……」
「あの二人、まさか……」
「いやいや、あり得ないだろ!」
二人について憶測が飛び交うが、二人の後を付ける生徒はいなかった。
「いっ、一体どういうつもりですか!」
マルクに人気の無い場所に連れて来られたアナベル。
アナベルを気遣ってか、二人っきりなのに距離を空けるマルク。
「何のことかしら?」
「と、惚けないでください!」
惚けるアナベルにマルクはあるものを見せた。
「い、悪戯にしては酷すぎます!」
「いたずら?」
「だっ、だって、エククレム子爵令嬢が僕なんかに―――求婚状を送るなんてあり得ないじゃないですか!」
マルクが持っていたのは求婚状だった。
通常、求婚状は令息の家から令嬢の家へ送るものだが、令嬢の家から令息の家へ送る場合もある。
「あら、どうして?」
「えっ?」
「その求婚状はエククレム子爵家からハネスト男爵家へ送ったものよ。本物なのにいたずらだと思われるだなんて……」
「っ!?」
瞳を潤ませて泣きそうになるアナベル。
「ごっ、ごめんなさい! で、でも、あの、本当に僕なんかに求婚状を送る令嬢がいるなんて……しかも、あのエククレム子爵令嬢からだなんて信じられなくて……宛先を間違えたとしか……父さ……父もちゃんと本人に確認しろって……」
慌てふためきながら説明するマルク。
「……ふふっ」
「っ?」
「心配しなくてもその求婚状は間違いなくアナベル・エククレムからマルク・ハネストへ送ったものよ。私はあなたに結婚を申し込みます」
「えっ、えぇっ!?」
「お父様には結婚の許可をもらったわ。あとはあなたが承諾するだけ。どうかしら?」
「う、あ……」
距離を空けていたのに、マルクと一歩ずつ距離を詰めるアナベル。
顔を真っ赤にしながら、一歩ずつ後ろへ下がるマルク。
「男爵を継ぐ嫡男なら女性を待たせたりしないで!」
「まっ、ままっ、待ってくださいぃ~っ」
「!」
マルクは両手を前に出して、待ったをかける。
「おお、おっ、落ち着きましょう!」
「落ち着いてるわ」
「な、なんで僕なんです……?」
「え?」
「ぼ、僕は確かに男爵家の人間ですけど、ハネスト男爵家は古い歴史があるだけで、財産も権力も何もありません。借金はありませんが……ち、父が僕を作ったことでハネスト男爵家にあった財産は殆ど無くなりました」
「………」
マルクの話を大人しく聞くアナベル。
「……ど、どこまで調べたか分かりませんが、僕の母にあたる女性は大金と引き換えに結婚して僕を産みました。自分の代でハネスト男爵家を終わらせたくない父が子どもを産んでくれる女性を探し続けて45で僕を授かりました」
「………」
「ぼ、僕は実母には会ったことがありません。ぼ、僕を産むとすぐに父と離縁して別の家へ嫁いだとしか分かりません。りょ、両親は一時期婚姻関係があったので僕は庶子ではないのは断言出来ます」
「………」
「ち、父は60を過ぎていて、大病を患っていて体調がよくありません。学園を卒業したら僕はハネスト男爵を継承します」
「早いわね」
「えぇ。父の年齢なら孫がいてもおかしくない年です。は、ハネスト男爵家は代々晩婚なので当主を務めるのが長いんです」
「そうみたいね」
「え、と……だから、その、何が言いたいのかというと……か、仮に僕と結婚したらその……男爵夫人として、くっ、苦労します!」
「あら、それは遅かれ早かれそうなるんだから気にしないわよ」
「………」
「?」
「あ、あの……」
「なぁに?」
何かを言いづらそうにしているマルク。
「ち、父の話をしたことで察してるとは思うんですけど……」
「ん?」
「僕と結婚したら、あなたは僕の子を産むことになるんですよ」
顔を赤めながらも吃らずに告げるマルク。
「やだ、そんなの当たり前じゃない」
「……へっ?」
「あなたが望むなら何人でも産むわよ」
「ぼ、僕に似た子ですよ……?」
「あなたとの子どもなんだから似るでしょうね」
「お、女の子だったら可哀想じゃないですか……」
「可愛いじゃない。愛情いっぱいに育てましょうね」
「……あ、あなたならもっと顔が良くて条件が良い相手を選べますよ」
「アナベルはマルクがいいの」
「きゅ、求婚状を受けてしまったら、婚約破棄にしたくても時間がかかります。あ、あなたの経歴に傷がつきます」
「最初から婚約破棄なんて求めてないから」
「………」
「……私じゃあなたの妻にふさわしくない?」
「逆です!」
「まだ不安なことがあるなら、とことん話し合いましょう」
「……いいんですか?」
「えぇ。でも、残念ね」
「?」
「私、諦めが悪いのよ」
「っ!?!?」
勢いよくマルクへ抱き付くアナベル。
「覚悟してね?」
そう言って、無邪気に笑うのだった。
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