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果ての畑でメシイモを  作者: 鰤金団
見紛うほどのイモの茎
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9/22

総合組合での出会い

「お届け物でーす。はい、では行きましょう」

 教会に到着して秒で仕事を終えたメイティア。

「いや待って。今、手紙を投げ入れただけだよね?」

「違いますよ~。ちゃんと、お届け物でーすって言いました」

「ああ、うん。言ってたね。でも、それ駄目じゃない? もっとちゃんと手渡しした方が」

「大丈夫ですよ。ちゃんと誰からの物か、誰宛なのかは書かれていましたから」

 これはあれだ。私の家に初めてやって来た時のように冷静さを欠いている状態だ。

 今後の彼女の立場もあるだろうし、私がしっかりしないと。

「駄目。そんなんじゃ一人で行くから」

 この後の行動に支障が出ないようにとなるべく優しい言葉で言ったつもりだけど、彼女はどう受け取ってくれるだろう。

「そ、そそ、そんなぁ~」

 一気に青ざめ、今にも倒れそうな状態になるメイティア。このままでは気絶してまた時間が減ってしまう。

「だから、そうしないためにもちゃんとやる事やってきなさい。それが一番早いから」

 私に向いていた体を回転させ、教会の方へ向かせ、背中を押す。

「この間に一人で行ったりしません?」

 まるで捨てられるんじゃとばかりに瞳を潤ませる。

「しないしない。そんな事する人間に見える?」

「出会った時、倒れた私を放置していましたよね?」

 あ、前例が在った。

「そんな話は忘れてなさい。ほら、行った行った」

 ただ立って見送るんじゃ動かなさそうだったから、丁度良く置いていた背もたれ付きの縁台に腰かけた。

 これでようやく安心したようで、彼女は風のような速さで教会の中に入って行った。

「まったく。楽しみにしていたのは知ってるけど、困った子だわ」

(彼女とあなたの関係はとても強いものになりましたね)

「そうね。って言いたいけど、これもあんたは見通していたんじゃないの?」

(可能性としては見ていました。ですが、全てはあなたの行動の結果です)

 ほんと、調子の良い事を言う。

「で、さっきの話よ。今日だけで終わらないっていうのは何? この町に何が起きるの?」

(この町の中では起こりませんよ)

 その言い回しがとにかく不安を煽るって理解しているのかね、このチートは。

(余波による影響については触れませんが)

「なんでよ。そこ、重要でしょうが」

(あなたは平和で安定のある暮らしをしたいという願いを持っています。その願いに最大限寄り添った結果、最小限の情報を伝える事にしたのです)

「また訳の分からない事を。私の不安を煽るだけでこれが一番の平和って事?」

(はい。最も被害の少ない結果になるでしょう)

 外で何かが起こる。でも詳しく言ったら被害が大きくなる?

 それは具体的な内容を知った私が行動をしたら問題が起こるって事?

 分からない。町の様子なんて全く分からない私がどんな行動をするっていうのさ。

(では、町歩きを楽しんでください)

 こんな状況で楽しめる訳が無いのだけど、チートなりの皮肉だろうか?

「おっまたせしました~。さあ、お出かけです。お出かけ」

 やる事をやって自由になったと晴れやかなメイティア。

「あれあれ、どうしました? お手洗いですか?」

「違うから」

「そうですか。では、総合組合まで行きましょう。すぐ行きましょう」

 私の手を取り、歩き出す彼女の力が先ほどよりも強い。

「そんなに急ぐのは良いけど、道はちゃんと分かってるんでしょうね?」

「大丈夫です。しっかり町一番の大きな建物だって聞いてきましたから」

 それなら大丈夫か。う~ん、本当に?

 百科事典の言葉も気になるし、気になる事だらけで本当に大丈夫なんだろうか。

 でも、こんな事を考えていたのは最初だけで、メイティアが考える時間をくれないほど喋り倒すから、意識がどんどん町歩きの方に向かっていった。

「あ、あれですよ。見つけました。今度はちゃんと見つけましたよ」

 彼女が指差す先には三つの入口が在り、その上にはそれぞれの組合の窓口に近い場所を知らせる看板がぶら下がっていた。

 この外装についても、道中でメイティアが教えてくれた事だ。

「えっと、どこから入るのが一番なの?」

「神父様から聞いた話では郵便組合を尋ねると良いそうですよぉ」

「郵便組合? えっと……」

 近づいて看板を見比べる。それぞれ、違う絵柄となっていた。

 背負い籠、剣、つるはしと鎌を交差させた絵。

 馴染みが無くてもそれぞれの役割が想像できた。

「背負い籠が郵便組合で合ってる?」

「はい。それぞれ、郵便は荷運びを連想させる背負い鞄。討伐護衛は戦いに繋がる剣。採収は掘るつるはしと鎌を交差させた物を組合の印にしているんですよ」

 文字では無く絵であるから、目が悪くても違いが分かって間違えなさそうだ。

 おかげで、初めて見た私でも安心出来る。

「さあ、ルイシアさん。行きますよ」

 メイティアを先頭に郵便組合の入口から建物の中に入った。

 組合で思い出されるのは、いかつい荒くれの姿。なので、殺伐とした空気でいっぱいなのかなと思っていた。でも、建物に入ると私の想像とは違う世界が広がっていた。

 建物の中は明るくて綺麗。見回す限りへこみやひび割れているような場所では無かった。

「なんか、意外……」

 深呼吸しても汗や血生臭い臭いがしないのだから。

 建物内に居たのも荒くればかりじゃなくて、職人や商人とかの荒事に直接関わらなさそうな外見の人も多く居た。

 そんな感じだったから、私は入る場所を間違えたのかと、一度外に出て確認したくなっていた。

「お困りですか?」

 そんな私の挙動を気にしてか、爽やか系なお兄さんが声をかけてきた。

 声をかけられる事を想定していなくて、何を話せば良いのか分からなくなってしまった。

「あの、町のおすすめを知りたくて来ました」

 それで出てきたのはこれ。

 もっと別の会話の入り方があったんじゃないかと思って恥ずかしく感じていた。

「はい。私達、この町の楽しい場所とか知りたくて」

 二ルネッガ教の服を着て、普通の少女のような事を言うメイティア。

 そんな振る舞いで大丈夫なんだろうか? 問題ない?

 と考える私だったけれど、一方で声をかけてくれたお兄さんは普通に接し続ける。

「そうでしたか。ではシスター様。お連れの方達もこちらにどうぞ」

 親切なお兄さんは慣れた様子で私達を受付に案内してくれた。

 そして受付の席に座る。でも、どうしても想像していた場所と違いすぎて、私が確認せずにはいられなかった。

「あの、ここって本当に総合組合で合っていますか? 荒くれ達は確かに居ますけど、信じられなくて」

 受付まで案内してくれたのだから間違ってはいないのだけど、まだ半信半疑だった。

「村じゃ組合が無くて」

「そうでしたか。では、お嬢さんは受注後の彼らしかご存知ではないという事ですね?」

「はい。でもそれって、そんなに違うものですか?」

 町でたまに見た荒くれは、これでもかと血気盛んというか、近づくなという気配が凄いというか……。とにかく声をかけたくない、近づきたくない感じの雰囲気だった。

「依頼を受けた彼らなら仕方のない所ではありますね。荒くれ達の仕事は主に命のやり取りです。組合が無い土地からの依頼でしたら、緊急を要する内容でもあるでしょう。そのような討伐依頼の最中に気を緩ませれば、例え虫一匹でも足をすくわれてしまう事もあります。我々組合では、荒くれの生存率を上げるため、そのような緩みが無いようにと登録時に徹底して教育しているのです」

「だからあんなに圧が強かったの?」

 記憶を振り返ってみても、普通に話せている村長や父さんが凄いと思った記憶がある。

「念のために確認ですが、粗相を働いた者を見かけたりしましたか?」

 お兄さんはにこやかで口調は変わらないのに、私達の周りだけ空気が冷えたような感じがした。そして、何故か変わらない笑顔なのに圧を感じる。

「いえ、そんな事は無いです。話した事は無いですけど、村で暴れまわったとかの話は聞いた事がありません」

 私がそう答えると、急に空気が柔らかくなった。

「そうでしたか。いやあ、良かった良かった」

 怖い雰囲気が消えたのは良いけど、もしあったと言ったらどうなっていたのだろう。

 興味本位で尋ねたくなった。

「あの、因みにそのような相手が居たと報告したらどうなるんですか?」

「その場合は、全組合でそんな問題児を確保しますよ。空の青さに感謝するでしょうね」

 詩的な感じだけど、表現に知っちゃいけない現実と闇を感じるのは気のせいかな?

「それぞれの組合で共通の認識があります。それは相互扶助の理念です。依頼者の依頼を受ける事で受注者は報酬を、生活の糧を得る事が出来ます。受注者が依頼を達成する事で、依頼者の問題が解決されるのです。この循環によって組合は成り立っています。なので、もしもこの循環を乱す者が居た場合は、その行いを後悔させます。誰しもが未来の依頼者であり、受注者となり得るからです。この事は、特に荒くれを目指す方には、徹底的に体の芯まで叩き込んでいます」

 だからこそのさっきの圧だったという訳か。小さい時なんかは、大人でも体の大きい人とかを無条件で怖がっていたけれど、これと同じように、外見だけで距離を取ろうとし過ぎていたみたいだ。でも、今後も直接話せるかは分からないけれど。

「そ、そーだったんですね。安心して良いんですね」

「はい。時に口調の粗さが必要な場面もあるので、その点では怖さを感じさせてしまうかもしれませんが、暴行などの行動は起こらないように教育しています。とは言いますが、叩き込まれたものを忘れてしまう場合もあるので、登録後も抜き打ちの検査をしていますし、もしもの時には組合にお知らせいただければと思います。土の一粒すらもそのような事が起こらないようにはしていますが」

「すっごく徹底されているみたいで安心しましたー。あはは」

 私は上手く笑えていただろうか。

 私は理解したけれど、こんなにも念を押されては、まだ不安が在ったとしても言えないだろう。

 この説明を聞いて今一番怖いのは、不届き者には絶対に制裁を加えると断言している組合の職員さんの笑顔。

 聞いておいて、ドン引きしていたのでは、説明してくれたお兄さんに失礼だし。安心している風に装わないといけないと思っていた。

「お嬢さんのような心配をされる方も一定数居るので、理解者が増える事は私達の喜びでもあるんですよ」

 和やかな空気を作って言うお兄さん。

 今までの説明は、小さな子が悪い事をしないようにと、わざと怖がらせるように大人が話すのと似ている気がした。

(そーですね)

 百科事典もさっきの私みたいに同意してくれたし、大丈夫さ。うん。

 もう無暗に荒くれを警戒しないようにしようと、私は学んだ。

「では、町の観光名所について教えてください」

 私の話が終わると、メイティアが待ってましたと前に出た。

「あ、ルイシアさん。お話は私が聞いておくので、組合の中を見て回ってみてはどうですか?」

「なんで? 私も一緒に聞くよ?」

「ルイシアさんは組合自体が初めてのようですから、興味があるのではと思いまして。それに張り出されている依頼を見てみたら、村長さんからのお役目に役立つかもしれないじゃないですか」

 ああ、そうだった。お店を見て回る事しか考えてなかったけど、こういう所でも何かきっかけを見つけられるかもしれないんだ。

 彼女の言葉はとても役に立った。なので、ここはお言葉に甘えるとしよう。

「じゃあ、ごめんね。ちょっと見させてもらうね」

「はい。人も多いので、困った時にはどれかの入口の傍に居てください。見つけますから」

 ちょっと頼れる感じの事を言って、メイティアは送り出してくれた。

 一体どんな感じなのか、ワクワクしつつ歩き始めた。

 まず向かったのは、入った瞬間から視界に入っていた大きな掲示板。

 壁際ではなく、独立して両面を使っているのだから、よほど重要なお知らせか依頼があるのだろう。

 覗いてみると、両面合わせて六等分に区切られ、その内の一区分が犯罪者の人相書きを集めた場所になっていた。残りをそれぞれの組合で分け、依頼を張り出していた。

 依頼書には受付窓口が書かれている。その下に期限、条件、内容、報酬の順で書かれていた。

 実績が必要な依頼もいくつか見られたけれど、基本的には組合登録者なら誰でも受けられるみたい。

 きっと他の組合の登録者も新人研修なんかをしているだろうから、現状の実力以上の依頼には手を出さないと考えられているのだろう。

 世の中にはこんなにも困っている人が居るのかと新しい発見をしたけれど、この大きな、大掲示板と呼ぼう。大掲示板に貼られた依頼の中で一際人だかりがあって横眼から見るしかなかった場所が在った。それは、討伐や護衛の依頼が張られている場所。

 荒くれの花と言えば、やはりそういう系統なのだろう。他の依頼よりも頭一つ、二つ出ている報酬ばかり。それに大掲示板の片面側の二面をドドンと使っていたし。。

 そうして大掲示板を見終えたけれど、メイティアの話はまだ終わっていないみたいで姿が見えない。

 目立つ所は見終わったから、次は周囲かなと思って壁側の方へ向かった。

 壁側にも人が居て、中央部分は人が多いから避けて壁によっているのかなと思っていたけれど、近づいてみると壁側にも依頼が貼られていた。

 内容を確認してみると、どうやら常時募集や、町の中での依頼ばかり。

 報酬額的には一日二日くらいを過ごせるくらいのものだろうか。

 初心者、新人向けといった内容ばかり。

 読み進めていくと、人の集まりがどんどん減っていくのを感じた。

 賑わいを見せる建物の中で、不思議と静けさの中にある場所。

 そこにも依頼書は貼られていたので見てみると、物々交換だったり、道具の開発協力といった今までとは違う内容。

 この依頼書を見ている人達に視線を移すと、職人のような佇まいの人達ばかり。

 三大組合以外の組合もこの建物を活用しているようだ。

「まだっぽいな」

 初めての場所を十分に見て回った私は、メイティアが真っ先に見るかなと思って郵便組合の出入り口で待つ事にした。

 にしても、大掲示板の依頼を見ていたら、やたら魔獣関係の依頼書が見られた。

 町周辺の魔獣警戒。近場の森での魔獣生息調査。魔獣討伐も二、三件は在った。

 あれはやっぱり、うちの村でも気を付けないと駄目よね。

今までも少数の野生動物なら村民で処理していた。けど、町の外で見たけれど、魔獣はそれよりも厄介だ。だって、五対一でも逃げられるんだもの。

 百科事典の話だと、野生動物には無い力を使うらしいし、荒くれよりも戦う事に長けていない村の人達だったら何人集めたって負けてしまうかもしれない。

 そう思うと、町周辺から流れて村の方まで来たら怖い。

 村長にこの話をしたら、荒くれを常時滞在させたり出来ないだろうか。組合の支部が無いから無理なのかな。今まで以上に備えておかないと。せっかく新しいメシイモが出来ても意味がない。

 一人、考え込んでいたら、誰かが私に声をかけてきた。

「おねーさんは仕事探し中か?」

 声のした方を向くと、私と同い年くらいの男だった。

 でも、その顔を見ると、村の同い年よりも幼い印象。でも、しっかりと腰に剣を携えていた。

「私は友達の付き添い。ただの一般人」

 多分なりたての人なのだろう。仲間集めをしている最中で、私に声をかけてきたのだろう。

 じゃあ、違うと手短に伝えて他に行ってもらおうと、愛想の無い返しをした。

「そうだったんか。いやな、見ない顔だから新人なのかと思って声をかけたんだ」

 こんなどこにでも良そうな村娘を荒くれと勘違いしたらしい。

 なりたてでお金が無い場合はこれでも仕事着になるって事?

 そんな疑問が浮かびつつ、私は彼の目的はこれかなと、尋ねてみた。

「つまりは、手取り足取り流儀を教えてやるぜ、アッハ~ン。的な感じね? 自分の方が既に幾つか依頼受けてるから先輩だぞ~とか」

 恰好から、安く見られたと思った私は、あんたの目は節穴だと言ってやるつもりで振舞った。

「あ、あっは~ん? よしよし、分かった。おねーさんが本当に荒くれじゃないって事がな」

「え、今ので?」

「ああ、分かる。そんな下心全開放な奴は荒くれをやってないからな。研修を終えてそんな頭の奴は秒読みだ」

 秒読みとは、受付のお兄さんが匂わせていたお仕置きの事だろうか。

 自分で言っていて若干顔を青くしている所を見ると、どうやら本当に徹底しているらしい。先程のお兄さんの話は全て真実だったか。

(そーですね)

 何故か唐突に百科事典が相槌を打つ。なぜこの時なのか。

「で、そんな下心がもろだしなのが居ないのなら、あなたはどうして私に声をかけたの? 返答次第で受付に報告するけど?」

「おいおい、そんな脅しをするもんじゃないぜ。決まってるだろ。新人だったら先輩と組んで経験積んだ方が良いと思って声かけたんだよ。違ってて困ってるなら助けようとも思ってたぞ」

 言われるまで欠片も思わなかった答え。自分には生まれなかった考えの差に、背後から殴られたような衝撃を受けていた。

 え、ちょっと待って。今まで話した事無かったけど、荒くれってこんなに善人思想なの?

 なら、私らって極悪人じゃない? 働かずにご飯食べたいとか思っているし。

(すみませんが、村ではあなた以外でその思考をしている人が居ないのですが)

 余計な重大情報を挟めてくる百科事典。

「んなっ。全人類、もっと欲まみれに決まってるじゃない」

(そのような欲に全人類が染まっていたら、とうの昔に世界は滅んでいますよ。チートを生かそうと、皆それぞれに向上心を持って日々を過ごしているのですから)

「それじゃあまるで、まるで私が楽するための向上心で生きているって言ってるようなものじゃない」

(いえ、それは向上心とは言いません。そもそも、自身の頭を使っていないでは無いですか)

 随分な事を言ってチート主を否定するじゃない。流石に言葉に遠慮が無さすぎない?

 私も、何となく楽に生きられないかな~っと心根に置いて、かなり鮮明に想像をしているだけなのに。

 でも、その鮮明な想像に至るまでの具体的な方法はまっさらなまま。楽している姿を突き詰めて想像しているだけで、その瞬間しか深堀してこなかった。

「おいおい、おねーさん。大丈夫か? おねーさんが何も無い所の見えない何かと戦っているのだけは分かったけれど、大丈夫か? ニルネッガ教会に行くか?」

 いけない。こんな集団の中で百科事典と会話していた。

「あそこ、お祓いなんてしてないでしょ」

「でも、話は聞いてくれるぜ。銅貨一枚で」

 それは知らなかった。慈善事業はしていないらしい。

「どうかしてるわ。羨ましいっ」

 話を聞くだけで稼げるのなら、私が半分寝ていても適当に受け答えを勝手にしてくれるチートが欲しかった。

(最近、欲の出口が大きくなっていませんか?)

 仮に通りやすくなっていたとしても、私は悪くない。すぐに結果が出ない方法しか伝えない百科事典が悪いんだ。

 っといけない。これ以上は彼とか人の目とかを忘れ、一線を越えてしまう。

「えっと、それで何でしたっけ?」

「いや、何も無いぜ」

 なんかさっきよりも距離があるような……。親身さが減った?

(こんな大衆の前で独り言を言っていたらそうもなるでしょう)

「あ、そっちかぁ」

 百科事典に言われて納得した直後。私は、盛大にやらかしてしまった事に気づき、頭を抱えた。

「何、独り言なんて誰でもすることだって」

「いや、独り言じゃないんだけど」

 メイティアなら当たり前に何事も無かったかのように会話を続けてくれるから、それが当たり前になりすぎていた。

「よーしよし、分かってるさ。自分との会話ってやつだな。分かるぜ。俺もな、チートが分かるまでは肩身の狭い思いをしたもんだ」

 覚えがあると慰めてくれるのは良いけれど、多分彼とは違う。

「具体的にはどんな経験を?」

「強くカッコイイ男になると言い回っていたんだけどな。あの頃は弱虫、泣き虫、ヘタレ虫って言われててな。無理だって言われて笑われたもんだ。挫けちゃいけないってことよ」

 そんな虫縛りにしなくても……っと考えていたら、後半の言葉を聞いていなかった。

「それが今や荒くれね。それでどんなチートを得たの?」

 この質問をした瞬間、彼の目が太陽のようにキラリと輝いた。

「俺のチートか? それはな、勇者だ」

「勇者? それってどんなチートなの? 大工とか職人みたいな職業特化?」

 ここは教えて、百科事典の時間じゃないだろうか。

「勇者っていうのはだな――」

 彼の説明と同時に百科事典の声が聞こえてくる。

(この場合の勇者とは勇気を持つ者の意味です。勇者とは人々の希望であり柱になります。その存在は皆を奮い立たせ、力を与える役割を持っています。チートの効果もその役割に沿ったものになり、戦闘時の彼の行動、言動が周囲に常時以上の力を与えるのです。一言で表すのならば旗印ですね)

「――という能力で凄いんだぜ。凄いだろ?」

 凄く誇らしげに語ってくれたみたいだけど、耳よりも頭の中の声の方が大きくて全く聞き取れなかった。

 まさか、こんな発見があるなんて……。

 言いたい事は全て言ったとばかりに満足げな表情の彼。

 百科事典の説明で分かったけれど、物語の英雄みたいな感じみたい。物語の登場人物で言えば主人公。だから、この世界で何かが起こったのなら、彼がその問題を解決してくれる立場になりそうだ。

 私の中で真っ先に出てくる英雄は、チートを人々が得られるようにしたこの国の初代国王様かな。

 何かと戦うために呼ばれて勝利した人だし。そう考えると正に勇者と呼ばれるのにぴったりな感じだ。

「そんなチートを貰えたなんて凄いですね。えっと……」

 ここまで会話をしたのはいいけれど、名前が分からず、悩んだ。

「おっと、名乗って無かったな。俺の名前はサルブ。勇者サルブだ」

「そうでしたか。有名人に会えたみたいで嬉しいです」

 でも、私の生涯で彼とは二度と会う事は無いだろう。そんな凄い英雄様はこれからどんどん出世するのだろうから。ただの村人とまた道が交わるなんて無いでしょう。

 すぐに忘れても良いのだけど、後々彼が有名になったら自慢話に出来そうだし、親切で声をかけてくれた相手だ。、ここは互いにとって良い空気のままで別れたい。

 どう綺麗にお別れしようかと思っていたら、丁度良い人が近づいてきた。

「あー、居ましたね。良かったぁ。待ちくたびれて一人で行ってしまったのかと思いましたよぉ」

 情報収集が終ったようで、メイティアが息切れしつつ私の手を掴んだ。

「え、うん。勇者さん、じゃあ、さようなら」

「ああ。修道女の子も役目を果たせたみたいで何よりだ」

 あれ? サルブはメイティアを知っている?

「なな、何の事か分かりませんが、お世話になりました。では行きますよ、ルイシアさん。さあ、行きましょう。この町の名物候補とお土産を手に入れるためにっ。ここからは休み無しですよぉっ」

 誤魔化しが過ぎるメイティアが、すごい勢いで私を引っ張る。

「え、あ、ちょっ」

 まだ迷子になっていた事は誤魔化せていると思っているのか、私は連れ去られてしまった。


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