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果ての畑でメシイモを  作者: 鰤金団
本が生まれた日
4/8

開墾の日々 楽を求めて

「なんか、いつもよりぐっすり眠れた―!!」

 元気いっぱい、活力いっぱいの不思議な感覚が目が覚めた時からあった。筋肉痛を感じる時もあるけれど、私の体からは力が溢れ出る感じがしていた。

「あ、もしかしてあんたが何かしたの?」

 知識しか出ないのかと思っていたのに、意外な能力があったのかと聞いてみた。

(あなたが求める知識を提供するだけのチートですよ)

「え、違うの? じゃあ、これは一体……!?」

(偏っていた血の巡りが新しい行動によって改善された結果です。また、長時間の深い睡眠により回復効果が上昇したのです)

「あの開墾作業にそんな効果が!?」

 これは続けていたら、凄く健康になるのでは? とちょっと期待してしまう。

(使う部分と使わなくなった部分が逆転するだけなので、同じ行動を続けてはすぐに元に戻りますよ)

「何だ、がっかり。あ、でも待って。という事は、父さんの畑と開墾作業を繰り返し続けたら、私って物凄く健康になるんじゃない? どう、百科事典。名案でしょ?」

(あなたはこの世界を全て畑にする新しい悪役ですか?)

「フハハハハ。全てを畑に変え、また開墾させよう。永久にっ」

 気分が良いから、ちょっと百科事典に乗っかってみた。

(そんなおかしな発言をする元気があるのなら、早く開墾する事を推奨します)

「あんたがやらせたようなものなのに……」

(今日は肥料置き場も作りますよ。同時進行です)

 一つの作業だけだと飽きるから、確かにその方が私には合っている。

 いつの間にか、このチートは私の性格を理解しているみたいだ。

 朝食を食べ終えると、私は開墾作業に向かった。

「結構大きな枝とかも転がってるのよね」

 昨日は全てを一人で始める場合でも手が回る畑の広さを決めたり、将来を見越しての場所決めをすると、言葉にすると簡単な内容だけど、人の通れない場所を道に変えたりという肉体労働もしていた。

 そんな内容でも疲れ果てた私が、本腰を入れたら体はどうなってしまうのか。考えただけでも恐ろしい……。

(起こってもない事で不安になっていないで、早く始めましょう。時間は待ってはくれませんよ)

 起こってもない事で不安にさせている張本人のくせにどの口で言うのか。

(無駄な考えも無意味ですよ)

 自分のチートなのに小言が多すぎる。もっと、私のチートなら、広い心と視野で考えてほしいもんだわ。

(また指摘されたいですか?)

「いや、もういいわ。頭の運動も終わったし、初めてあげる」

 どこから転がってきたのかと思うような大物な木の枝からどかし始めた。

「にしても、年十年ほったらかしにされてたんだろ。私が小さい頃にはもうこんな感じだった気がするんだけど」

(この場所は植物を育てる土地としての価値が低いと見られていました。開村されて以降、この場所は使われた事がありません。通りから離れているため、この村の人数では手が回らなかったのです)

「そういえば、私の家の場所って空き家だったらしいからね。人気が無い場所だったんだ」

 林の影が届かないギリギリの場所みたいな所に建っている我が家。畑を作れるかどうかを見定めるための線引き的な意味合いもありそうだ。

「村が出来てから今までって、よくこの場所に木とか生えなかったわね」

 何なら年々林に浸食されてもおかしくなさそうなのに

(既にあった林に生き物が集まっていた事と風向きで根付かなかったのです)

「色々繋がった結果なのは分かったけど、これ以上は頭がおかしくなりそうだからいいわ」

(そうですか。では、続きをしてください)

 体使って、頭も使ったら、それはもう倒れるしかないものね。全力なのは大事けど、余力はね、残しておかないと。

 畑予定地の枝系のものを大体片付け終わると、百科事典が言った。

(次は昨日決めた場所も掃除しましょう。作業を変える事で、気分も変わりますので、穴も掘り始めましょう)

「うんこ置いとく場所の、ね」

(肥料を置いておく場所です。いずれは畑から道を繋げますよ)

「それも私がやるの?」

(あなた以外にやる人は居ませんよ。それから、道を作っておかなければ、ずっと担ぎ続ける事になりますよ)

「どゆことっ!?」

(老婆になっても肩に棒を担いで運ぶという事です。棒の両端に桶をぶら下げて)

「そんなの体が持たないから。無理無理、絶対無理」

 桶一つだって結構重いのに、それを年取ってからも、二つ分とか、想像もしたくない。

「それは……絶対にやらないとね」

(理解を得られてとても嬉しいです)

 声だけではそんな様子は全く感じられない。チートだから? もう少し声に感情を感じたい所だ。



(では、廃棄場へ向かいましょう)

 作業を始めて二日後。お昼の休憩を終えたら、百科事典が言った。

 二日間作業したおかげで、畑予定地は雑草を引っこ抜く程度にまでなった。そして、百科事典が目指した肥料置き場の用意も出来た。よくやったもんだと、自画自賛しても、誰も文句は言わないだろう。

「ねえ、本当に行くの?」

 やはり、うんこを持ち帰るという行動に抵抗がある。無理を承知で何度目かの確認をした。

(はい。とても重要ですから)

 代わりの方法を提案してくれたりはしないらしい。覚悟を決め、廃棄場用の桶を持って重い足取りで家を出ないと駄目みたい。

 ため息を道中何度落としたか分からないほど繰り返し、目的地に到着すると、私は小屋の前で呼びかけた。

「誰か居ませんか~?」

 そしたら、ステルファンが出てきた。

「おお、ルイシア。ほんとに二日後に来たな。で、畑の方はどうなった? 困ってないか?」

 面倒見が良いからだろうか。自分も肉体労働で毎日疲れているだろうに、何なら手伝ってくれそうな感じで聞いてくれる。

「一人でどうにか出来ているわ。畑も、雑草を引っこ抜くだけってとこまで来たしね」

「へぇ。確か、ルイシアの家の裏って、誰も手入れしてないよな? それを一人でやったって、凄いじゃないか」

「ふふん。そうでしょ? 凄いでしょ? もっと褒めていいよ」

 さあ、どうぞと胸を張った所で気づいた。下手をしたら頭を撫でられかねないと。

「あ、ごめん。やっぱり無しで」

「何だよ。別に撫でたりしないって。こっちも手洗いはしているが、嫌だろ?」

 その辺りをちゃんと気にしてくれるんだ。なんでこの気遣いが出来る人が独身なのか。

 それほどまでに廃棄場の人間という認識は好意を持たなくさせるのか……。

(あなたも好意は無いではありませんか)

「そりゃあ、兄的な感じでは見れるけど、それ以上とは思った事無いもの」

 当然でしょ、と百科事典に返す。

「え、なんか突然振られた!?」

「普通に脈無しなのは分かってたでしょ。それよりも、話してたの分けてもらえる?」

「その準備は出来てるけれど、なんか釈然としない。俺もそんな風には見てなかったけどさ」

 お互いに分かっているのなら、単なる世間話みたいなものだろうに。

 百科事典という発言元も居るし、今のも冗談みたいなやり取りだ。

 そんな挨拶を交わして、案内してもらう。

「ありがとね、ステルファン」

「ああ。明日以降は勝手に持っていて大丈夫だぞ。皆、了承済みだ」

「それは助かるわ。丁度人が居ない時だったら二度手間になるからね」

 それに泥棒扱いされても困るから、こういうお許しはとても助かる。

「まあ、誰もここのを持って行ったとしても盗んだとは言わないだろ。せいぜい頭のおかしなのが居るくらいだ。ハハハ」

 含みの無い純粋な笑い方をするステルファン。ここは同じように笑うところかもしれないけど、私の表情は引きつっていたと思う。だって、私はこれからその頭がおかしいと思われる行動を繰り返すのだから。

「じゃあ、困った事があったら話すんだぞ~」

 説明も終わったからと、立ち去るステルファン。

「あいつの顔に塗りたくってやりたい……」

(今回の収穫後には考えが変わっていますよ)

「どっちのよ!?」

 生まれた恨みの感情そのままに百科事典に訊ねたけれど、返事は帰ってこなかった。

 渋々ながらも、家までの距離を持ち帰れる量を探りつつ、桶に集めていく。

「これ、荷車が在った方が楽そうね」

 名案が浮かんだけれど、我が家にある荷車はメシイモを運ぶ用だ。流石に食べ物とうんこで一つの荷車を使う訳にはいかない。例え洗ったとしても。

「そっか。こんな時こそあいつの出番ね」

(肥料置き場用の依頼もしていませんから、丁度良いでしょう)

 百科事典と意見も一致したし、うんこ運び一回目は早々に終わらせて話をしに行こう。

 人の目を気にしつつ家まで歩いたけれど、今日は幸いにも誰とも会う事は無かった。



「も~くでぃ~るくーん。あそびましょ~」

 そんなつもりは毛頭無いのだけど、私はそう呼びかけていた。

 遠くから、こちらへと急ぐ足音が近づく。

「こっちは仕事中だ。いつの時代の誘い方してんだ、ルイシア」

「何時って、子供の頃からよ。それにこれ、あんたがしてたんじゃない」

「んな昔の事は覚えてねぇよ」

「過去が無いって事は、経験も無いって事よね。そんなんじゃ、何時までたっても一人前になれないんじゃない?」

「おっまえなぁ。こっちはもう新人じゃねぇんだよ」

 そうだ。今、こうして話している私の幼馴染の一人であるモクディルは、チートを与えられるよりも前から手先が器用で、木工職人の工房で仕事をしていた。

 それのおかげなのか分からないけれど、彼のチートは木工職人に有用なものだった。

「そんなあんたに依頼をしたいのよ」

「はぁ? 頼むにしてもよぉ」

「ああ、言いたい事は分かる。幼馴染の昔を懐かしんでの茶目っ気じゃない」

「お前、寂しいのか?」

「寂しかないわ。今の私は、チートのおかげで大忙しなんだから」

「チートの? ああ、十五になったのか。そりゃめでてぇな。んで、どんなチートだったんだ?」

「あ~っとね。まだよく分かってないのよ。でも、それを確かめるために活動中なのよ」

 百科事典の事を話しても、聞いた人はきっと理解出来ないと思う。

 何でも知っていて、その情報から未来を知れるとか言われたら目が点になるだろう。

 私自身も未来に関しては完全に信じていないし。知識が全て正しいのかも分からないしね。

 そんな考えでモクディルには誤魔化したけれど、百科事典は口を挟んでこなかった。

「まあ、やってみないと分からないチートもあるからな。昔住んでたソラッケ爺さんのチートがそうだったし」

「懐かしいわね。その日の晴れの長さが分かるチートだったわね」

「そうそう。曇りと雨の違いは分からなかったけれど、頼りになったよな」

 小さい頃に遊ぶ時には必ず天気の事を聞いていたっけなぁ……。

「でもまあ、そういう事なら、祝いで格安で依頼を受けるぜ」

 工房の人は、村だけで回っている訳じゃない。だから、タダでという訳にはいかないのは分かっていた。

「じゃあ、二つあるんだけど」

(待ってください)

 話を始めようとしたら、百科事典が入ってきた。

「何? どうしたの?」

(格安にするのは次回の依頼にしてください)

「え、どうして?」

(今回のメシイモの育て方は、今後の村の発展に大きく関わります。なので、村長に話を持ち掛けるのです)

「村長に? ケチな訳じゃないけど、聞いてくれるかな?」

(問題ありません。あなたが畑を放置しなければ良いだけです)

 まあ、畑を止めたら世界が滅ぶらしいからね。私も渋々やっているんだけどね。

「おい、どうした?」

「え、ああ、ごめん。あのさ、値引きするのは次回の依頼で良い?」

「いくつも仕事を持ってきてくれるのはこっちとしては喜ぶ話だけどよ。次の依頼が二十年後とかだったら無しだぞ」

(次の収穫の頃なので大丈夫です)

「次の収穫の頃だってさ」

「そうか? まあ、なら、そん時に割り引いてやるよ」

「助かるわ。それじゃ早速だけどーー」

 私は、濡れに強い木材と荷車について彼に話した。

「お前、家の裏で畑作り始めたのか。にしても、そこにうんこ溜める用の小屋作るって、妙な事するな」

「私だって思ってるわよ。でも、チートが関わってるからさ」

「さっきの話と同じで、やってみないと分からないって系のチートみたいだからな。よっし。じゃあ、桶と蓋も作らないとな」

「桶と蓋って、頼んでないわよ」

「幼馴染が村のためになりそうな事始めたんだ。ちょっとくらいは応援しても良いだろ」

「あんた、ずいぶん成長したじゃない」

「俺の母ちゃんかよ。それに、成功したらお代は村長持ちになるんだろ? ならやろうぜ」

「ほんと、ずいぶん成長したわね」

 失敗したら私に負債が来るんだけど、それよりも交流が減っても応援してくれる幼馴染になんだか嬉しくなった。

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